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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
七章 異世界の真実
299/317

ダンジョンの切れ目

708。

下がってないから良いのだ。


よし。

明日もがんばろう。


みんなありがとう。

またあした。


 結界の中に入り込めたのは良いが、魔物もそのまま着いてくる。

 そしてまだここはダンジョンの中だ。


 次に優先される事はダンジョンから出る事。


 「下がりながら撃ち続けろ」

 俺は魔物と反対側を戦車のハッチを少し開けて覗きながらにながらに叫ぶ。

 その方向には魔法学園都市が有る筈なのだが、それが見えない。

 夜の闇に紛れて見えないしても、結界の中に有る筈なのだからと、痕跡かそれっぽいモノを探すのだが見付からないのだ。

 そんなにデカイ結界だったのか?

 しかし、そんなサイズにする理由も無いと思うのだが。

 都市が丸っと囲めればそれでじゅうぶんだろう?

 だからそこに在る筈なのだ。


 「エル、進行方向に照明弾を打ち上げてくれ」

 無線での指示。


 「わかった」

 返事が有り。

 数秒後に光の弾がスジを引きながらに夜空を走り、明かりが広がった。


 数分しか持たない灯り。

 それを無駄にしないために、俺はキューポラから上半身を出しての辺りの観察を始めた。


 良く見れば前方に水平な線が見える。

 平らな線だが、手前は地面が見える。

 そして、線の向こう側は右半分は黒いまま、左半分は線の中央から斜め上に切るように少し明るい黒。

 三色の色。

 

 もう一発の照明弾が追加された。

 明るさが増して、より明確に見える様に成る。

 

 そのお陰で三色の意味が見えた。

 手前の地面はそこまでがダンジョンだ。

 そして、その切れ目に段差が在るのだ、左の少し明るく見えた所は山脈からの斜面の切れ目……立ち切られた崖が壁に見えている。

 無理矢理に空間を切られての壁なので、ナイフで切ったような断面が鏡のように光を反射していたのだ。

 そして、右側は……切られての崖。

 斜め斜面に無理矢理平面をくっ付けたので、本来は右下に下がっていく筈の斜面に高さが出来てしまっている。

 詰まりは右の闇に突っ込めば、空を飛ぶ事に成る。

 先が見えなかったのはそのせいだ。

 

 「マンセル、少し左に進路をとれ」

 微妙な方向を戦車内のマンセルに指で指し示す。

 次にマイクで。

 「ダンジョンの出口は狭い一点しか無い、ソコを38(t)と……」

 少し後方斜めに走っているヴィーゼのルノーftを確認して。

 「ルノーft-17(改)で示すから皆はその間を走り抜けろ」

 向こう側の斜面と、ダンジョンの平面が合わさる一点だ。


 

 俺はルノーに手で、着いて来いと合図を送り。

 砲撃よりも加速を優先させて、2両で先頭に躍り出た。

 

 

 斜面と平面の一点。

 ダンジョンの切れ目に到達した俺は、ルノーにはダンジョンの外側左の斜面上に横に停めさせて、38(t)は外の右側の斜面に停止させる。

 その幅は4m程の距離を空ける。

 斜面の段差を考えるとその幅が精一杯だった。


 でもそれで十分な筈。

 一番に幅の有るt-34でも、3mしかない。

 そしてソコさえクリアすれば、後は斜面が延々と続くので好きに走れる。

 

 「この間だ!」

 


 最初にソコを通ったのは、ヴェスペの3両だった。

 次に非戦闘車両のキッチンカーとトレーラーに工房トラック。

 何れもタイヤ付きの車両なので、出来るだけ中央を速度を落とさせて走らせたのだが、それでも段差で大きく左右に揺れている。

 そしてバイク部隊と軽トラ……。

 これらもタイヤ付きだ、ユックリと進めさせた。

 焦ってひっくり返しては、余計に時間が掛かるからだ。


 その最初に通ったモンキーの三姉妹とシュビムワーゲンの姉妹は38(t)の側にくっついて待機していた。

 何もせずに待つ事が苦手な三姉妹だが、それでもジッとして居なければいけない時は何故か俺の側に居たがる。

 その理由は……もう犬だからでじゅうぶんだろう。

 考えるのも面倒臭い。

 そのうちに尻尾のムズムズに我慢が切れて走り出すのだ、それも何時もの事だ。

 

 タヌキ耳姉妹はそんな事も無いのだが、たぶん付き合いでそこに居るのだろう。

 そんな二人が俺に声を掛けてきた。

 無線では無くて直接にだった。

 「あれが……村?」

 指差す方向には、闇の中に幾つかの建物が並んでいた。

 山脈の斜面の下方向、ダンジョンの切り立った崖に隠れる所だ。

 

 見えない筈だと納得した。

 崖の上ギリギリに立って見下ろせば初めて見える様な場所だ。


 次の進路は決まった。

 崖に沿って走れば良い。

 

 頷いた俺は、もう一度前を向く。

 戦車と戦車の間を通る車両の群れ。


 それが半分位になった頃、突然に異変が来た。

 心臓を掴まれる例のアレだが、俺はダンジョンの外に居るので何時もよりも軽い感じだ、違和感くらいの小さな衝撃。

 バルタはもう少しキツイみたいだが、それでも動けなくなる程でも無い。

 ダンジョンに魔物が転生した為の魔素酔い。


 「今か……」

 ここで運の良い奴と悪い奴が明確に別れた。

 獣人とエルフの歩兵達の半分がダンジョンの中で悶え苦しんでいる。

 もちろん車両を運転している奴もだ。

 それでも何とか事故らずに車を停めては居るが、もう暫くは運転は出来ないだろう。


 俺は戦車を飛び降りて、一番に出口に近い車両に飛び付いた。

 運転席の獣人を後ろの荷台に移して、軽トラを動かす。

 それを見てか、ダンジョンの中に居たヤニスやマクシミリアンその他の転生者達が其々の戦車から砲手だけを残し飛び出して、運転を代わり始めた。

 転生者は魔素酔いに強い、そして俺達の部隊では殆どが戦車に乗り込んで居たからだ。

 先に出ていた運の良い方の歩兵達も、軽トラの荷台から飛び降りてその作業に加わろうとするが、それは止めた。

 まだ魔物の転生が続くかもしれないからだ。

 魔素酔いでも動けなければ負傷兵と扱いは変わらない。

 それはこれ以上は増やせない。

 

 「急げ……魔物に囲まれるぞ」

 何処からか声が響いてくる。

 皆も今の状況は理解している様だ。

 

 次々と動かされる車両。

 そして、その間を走る娘達が居た。

 小さな小瓶を配っている。

 コリンの造った魔素酔いの薬だ、トレーラーと軽トラを往復していた。


 しかし、薬を飲んだとしても現地人は半日程は動けない。

 

 ダンジョンの外に軽トラを出せば、後は魔素酔いを逃れた獣人達に任せられる。

 俺はまた、ダンジョンの中に次の車を取りに戻った。


 その間も魔物供は止まらない。

 戦車を動かす兵は、今は軽トラを動かしている。

 砲手は自分で弾を込めて撃ち続けていた。

 連射速度は落ちるが、その代わりに魔物も崖に阻まれてダンジョンから出られる所は限られている。

 だから集団の塊に易く、狙い易い。


 もちろん先に出ていた38(t)やルノーやヴェスペは普通に撃てる。

 特にヴェスペは榴弾なので、塊まってくれればその威力は最大限にいかせる。

 それをわかってか3両は狙いもそこそこに目一杯の速度で直射射撃だ。

 

 

 動けなかった軽トラを総てダンジョンの外に出して、次は3突。

 軽トラの救助に回っていた戦車兵が自分達の戦車に戻る。


 1両、1両とダンジョンから脱出していく。

 そして最後は、4号戦車とt-34だ。


 其々も動き始めるのだが……t-34の1両がおかしい。

 全く動く気配がない。

 砲撃も止まっている。

 一番に派手な黒十字の白いt-34は、軍曹の戦車だ。

 奴は冒険者で現地人だ。

 あの戦車にはその冒険者仲間だけで動かしていたのか。


 「誰か手を貸してくれ」

 軍曹のt-34を指差し、走りながら叫ぶ。


 着いてきたのは、ヤニスだった。

 「戦車は動かせるか?」

 その俺の問に頷いたヤニス。

 

 味方の砲撃を背中に感じつつ、 孤立したt-34に向けての全力疾走をする。

 その対面には同じく全力疾走をして向かって来るラプトルも見えた。

 距離とスピード……俺達とラプトルの競争だ。


 お互いがドンドンと距離を縮める。


 俺の息が上がり、脚が覚束無くなる。

 出来れば撃ち倒して欲しいと願うのだが……そんな微妙な距離。

 

 先に戦車に触れたのはヤニス。

 素早くに戦車によじ登る。

 しかしその時にはラプトルは跳べば届くそんな場所に居た。


 ドン。


 そのラプトルの頭が吹き飛ぶ。

 誰だかはわからないが助かったと、そう思った瞬間にもう一度世界が揺れた。

 心臓を掴まれる感覚。

 今度はダンジョンの中だ、衝撃はしっかりと全身を走った。

 目の前の一匹が、引き金に成ったようだ。

 

 俺はつんのめる様に転んでしまった。

 

 そして、立ち上がろうと顔を上げた先に見える……転生された魔物。

 淡く光の中から出てきたソレ。


 デカイ……ティラノサウルス。

 ハリウッド的に言えば……t-レックス。

 恐竜の中でも最強の奴だ。

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