元国王のトラップ
694ポイントか……。
あう……下がった。
仕方ないか。
ストーリーの書き方が悪かったのかな?
たぶんそうだよね。
反省しつつ、明日は頑張ろう。
またあした。
森の南端を東に暫く進むと……戦車では並んで居るようにも思えたが警戒しながら歩けばそれなりの歩数だ。
そして、敵を発見した。
その敵は手榴弾を投げ込むには遠く、ライフルでは近い……そんな距離だ。
見付からずに近付く限界に近い場所。
そしてやはり目立つ、対戦車自走砲のマーダー2が在った。
砲は草木の影で森の外を向いていたが、それを扱う砲兵達は6人が全員で周囲を警戒している。
マーダー2は搭乗人員は4人の筈だが……余った2名は守備要員か?
「しかし、ここまで来ていてなぜ撃たないんだ?」
素朴な疑問だ、それを小声で呟いていた。
森の向こう側には、狙うべき戦車が見えている筈なのだが。
もう少し引き付けてとは違うようだ。
砲手は狙う事すらしていない。
完全に怯えてしまって居るのだろうか?
と、少し注意深く観察をしていると見えてくるモノがある。
怯えているのは1名、たぶんそれはエルフだ。
言葉には成っていない金切り声を上げている。
それに、付き合う様に奴隷兵士が動いている様だ。
しかし、その怯えがわからない。
俺も少しの切っ掛けは作ってやったが……それでも片眉をしかめる程度の事の筈だが。
では、砲撃か?
それは撃とうとするなら当たり前に撃たれるだろうから、それで怯えられるのもおかしな話だ。
「余裕ですね」
前でしゃがんでいるアマルティアがボソリと呟く。
「そうだな、あんな6人だと簡単に制圧出来そうだ」
俺も答えたのだが、アマルティアは後ろを振り返り。
「いえ……貴方です」
俺は……ん? な顔をしたに違いない。
「緊張感が無いように見えます」
暫く俺の顔をジッと見据えて、そしてエルフ兵の方へと目線を戻す。
「私は良くわからなかったのですが、イナさんやエノさんが言っていました……国が亡くなった辺りからオカシイと」
「いや、今さっきも……銃を向けられて」
と、ソコで詰まる。
確かに銃や砲を向けられた時には緊張感は有った。
だが、エルフ兵に対してはどうだ?
それ以前に戦闘に対しての緊張感は……有っても薄い気もする。
今もそうだ、目の前に対戦車自走砲が在り、エルフ兵が6人も居るのに緊迫感を感じていない……それは何故だ?
この状況を嘗めきっている?
「貴方が何を考えているのかはわかりませんが、後続を待ちます」
声をもう一段小さくして、聞こえるか聞こえないかの音量で。
「今の貴方は危険すぎますから」
その危険とは……詰まり、役立たずで足手まといの上に無鉄砲に余計な事をしでかしそうだとの含みか……。
「1つ質問してよいか?」
待つという事には否定も肯定もせずに。
「イナやエノがオカシイと感じたのは……具体的に何時だか聞いたか?」
「王都を出た時にはオカシかったと言っていました……その時に気付いたと」
顔はコチラには向けずに続けたアマルティア。
「私が初めてそれを聞いたのは難民キャンプを出てからですが、でも……確かに私にも、貴方が日に日に緊張感が薄れていって居るようには見えました、注意深く見ればですが」
「王都か……」
あの時、国王を殺した公爵の残留思念を見た。
コチラの世界では魔素に由来するので、それは残存思念か?
まあそれはどちらでもいいが……その公爵の記憶が影響した?
その前には親衛隊の隊長の残存思念……。
どちらも元国王に刷り込まれた、造られた本懐を遂げた後だ。
やり遂げたとの高揚感は感じられたが……その後の事は空白だった。
2人の持つ、燃え尽き症候群の様な何かが伝染したか?
いや、そもそもが花音によって刷り込まれた意識だ……。
俺は自分の顎先を摘まんだ。
俺も花音に記憶か意識を刷り込まれている……筈だ。
確信が持てないのは、それを自分で意識出来ないからだ。
そして今、俺は元国王に刃向かおうとしている。
元国王がやろうとしている事の材料がアンなのだが、それを取り返そうとしている。
頭の中を改変する事が可能なら……俺なら邪魔は出来ない様に何らかのトラップを仕掛けるか……。
元国王もそう考えるだろう事の方が自然だ。
そう考えれば……合点も辻褄も……いや、それでも納得はいかない。
合点と辻褄は今、目の前のアマルティアの話に対してだけの事だ。
しかし、そう思える事の時点でオカシイのだろう。
これは、頭で考えても駄目なのかもしれない。
結論は、俺はマインドコントロールを受けている……その可能性が大きい。
それを常に意識をしている事しか出来ないのでは無かろうか。
詰まりは、俺が自分でやろうとしている事をもっと単純化して、その目標と標的以外は無視するか……元国王の影響を受けていない者にその判断を委ねるかだ。
「なあ……アマルティア、俺はどうすれば良いと思う?」
「質問は1つって言ってませんでしたか?」
「追加だ……構わんだろう?」
少し考え始めたアマルティア。
「貴方の目的は、エルフとの小競り合い?」
間を空けて。
「違うわよね……詳しくは聞いてないけど、魔法学園都市に行くのよね?」
「そうだな……」
確かにエルフはどうでも良い。
「なら、スグに向かったら? もう近くまで来てるんだから」
「成る程……もっともな意見だ」
頷いて見せた俺は、目の前のエルフ兵を見て。
「コイツ等を片付けたら、そうしよう」
「もう話は終わりにしても良いですか? そろそろ皆も来ますから」
ウザくて面倒臭い話には関わりたくは無いと、そんな雰囲気を出しての言葉。
戦闘は唐突に始まった。
3体のゴーレム兵が森の切れ目の方向以外の3方向から突撃を開始した。
いきなり現れたゴーレムに銃を撃ち始めたエルフ兵。
ソコに少し離れた所から、アマルティアを含めた味方の兵が銃を撃ち込む。
俺もmp-40を撃ち込んだのだが、あまり役には立っていなさそうだ。
エルフ兵を1人、1人と確実に仕留めて居る者が居る。
イナやエノの狙撃に近い能力を持った者が何処かに居るのだろう。
「影に隠れるか、逃げるかをされると厄介です……突撃します」
そう発したアマルティアは、中腰を維持しながら走り始めた。
俺もそれに続く。
他の者も、同時に走り始めた様だ。
草木を捌く音が辺りに響き始めていた。
もう誰も音に対する注意は無い。
敵もそれに気付いたとしても、包囲されている事実を知るだけだ。
その音の方に銃を構えた途端に別の方向から撃たれて死んでいく。
見える者と見えない者の差だ。
マーダー2の制圧は簡単だった。
コチラの人数がアマルティアを含めて7人に俺とゴーレムを足せば11人も居たからだ。
そしてその7人の全員が獣人でも有った。
たぶん各々が何等かの能力を持っているのだろう。
俺は、各々の顔を見たが何の獣人かはわからなかった。
もちろん年齢もだ。
アマルティアを見るに、それは見た目では判断出来ない事のようだし、今はそれどころでは無い気もする。
俺は、マーダー2に飛び乗りソコに引っ掛かっていた死体を地面に落とした。
そして、エンジンを掛ける。
「動く様だな」
エンジンはそのままで、砲に移動して。
「誰か撃てる者は居るか?」
それに数人が手を上げた。
「私が撃ちます」
「では私が操縦をします」
その他にも口々にやれる事をアピールする、その中から4人を選んで。
「任せる」
と、指示を出した。
指名されて準備に入る4人。
残された者には。
「次も奪取する……出来れば他の者とも合流したいのだが」
7人居た内の4人が抜ければ3人だ。
それでは次の目標には少な過ぎるからだ。
頷いた1人が無線で連絡を入れていた。
そのやり取りでは、近くに別の部隊が居るようだった。




