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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
七章 異世界の真実
289/317

森の中と外の敵

696ポイント。


またあした。


 森を横に流れる38(t)軽戦車。

 バルタは次々と砲を撃ち込んでいく。

 そしてソコに追い討ちをかけるエルの榴弾。

 

 自分達の存在がバレている事に驚いたエルフ軍の砲兵は慌てて撃ち返すのだが、そんな状態でマトモに狙える筈もない。

 それに距離もバルタやエルだから当てられる、そんな距離だ。

 

 的外れな敵の弾は、38(t)を掠める事も無くに見当違いに飛んでいった。

 だが、新たに出現したシャーマンは違った。

 コチラを確実に捉えている。

 放たれる砲弾も近い処に着弾していた。

 

 そして、逃げ惑っていた最初のシャーマンの残りもその集団に合流する。

 合計は結構な規模に為る様だ。

 飛んで来る砲弾も雨アラレだった。


 「マンセル、当たるなよ」

 指示と言うよりも願いに近い、それも懇願ってやつだ。

 

 「逃げても良いですか?」

 返ってきたのは悲鳴。

 「もうじゅうぶんですよね」

 マンセルは敵の対戦車砲を炙り出したのだからと、そう言いたいらしい。


 「もう少し注意を引け」

 俺はシャーマンの方に目をやる。

 その後ろ、敵戦車の死角に入り込んだ三姉妹がファウストパトローネを構えて居るのが見えたのだ。


 三人はそれぞれの方向に構えて、発射のボタンを押し。

 シュパンとほぼ同時に響かせて、最後方の3両を無力化した。


 敵も全く注目していない所からの攻撃で、完全に不意を突かれた様だ。

 破壊されたシャーマンに近い所に居た数両がキューポラから人を出してそちらを確認している。

 三姉妹はそれも予測していた様で、自分達が破壊した戦車の影に隠れつつ移動をしながら、その覗いたエルフをstg44から放つクルツ弾を浴びせた。

 

 エルフは1人がアッと驚いてそちらに目を向けると、全員がそれに追従する動きをする。

 それは1つの目標を見定めている時はとても強い力に為るのだろうが……誰か一人でも混乱を起こせば部隊全部が混乱する事にも成る。

 繋がる能力の弊害だ。


 俺はピタリと停まった砲撃でそれを再確認して。

 「一気に畳み掛けろ」

 そうマイクに叫んで、38(t)の中に積んでいた手榴弾を持てるだけ掴み、走る戦車から飛び降りた。

 

 地面に受け身で転がり、戦車から離れて1人森を目指す。

 後方では軍曹達の戦車隊が、シャーマンとの距離を一気に詰めているのも見えた。

 俺はそれらを皆に任せて、全力で走る。

 森までの距離は3km? それとも5km?

 正確にはわからないが、目測では10分も走れば到達出来る距離だ。


 少し息が切れ始めた頃。

 後方で爆発する連続音。

 戦車の弾薬庫に火が入ったのだろう音だ。

 味方か?

 それとも敵か?

 それを確認するには、現状では出来ない。

 振り向けば可能なのだろうが、それをするには止まるか首を振るかだ。

 しかし、止まるは選択肢の中に入れたくはない。

 敵の砲兵がコチラに目をやらない、その時間がわからないからだ。

 見付かる迄に1歩でも森に近付いておきたい。

 そして、息が上がり始めた今は走りながら首を後ろに振るにはキツすぎる。

 喘ぎ始めた顎と喉は、1噛みでも多くの酸素を肺に飲み下そうと必死だ。

 だから、とにかく祈る。

 見方では無い事にだ。


 また爆発音。

 連続した砲撃音に混ざるそれは、とても異質なモノに感じる。

 打ち上げ花火を10発程、同時に爆発させた様な感じ。

 腹に響くが、何か心地好いモノも有る。


 パシッ。

 足元に何かが弾けた。

 真っ直ぐ前の森に、エルフ兵がコチラを見ている、銃を構えてだった。

 

 見付かったか。

 その距離は後1分程だ。

 俺はmp-40を腰に構えて撃ち込んだ。

 

 ほぼ同時に榴弾がソコに撃ち込まれる。

 兵士は飛散したがその爆風と一緒に、肉片と土と草が俺に降注ぐ。

 エルの仕業だろうが、有り難いのかどうかもわからない。

 ほとんど目の前で起こった事だ。


 それはその土煙と黒煙に紛れて森に飛び込んだ。

 爆発でエグレた地面、耕された様に柔らかく足首まで埋る。

 取られる足を引き摺り、土を蹴飛ばしてもう1段と中に入り込む。


 ソコには対戦車自走砲が有った。

 黒く焼け焦げてはいるが、それはドイツのマーダー2だった。

 

 おかしいとは感じていた。

 アメリカ軍はその戦闘の質から、対戦車砲は殆どヨーロッパには持ち込んでいない。

 マトモに開発すらしていない筈だった。

 それでもイギリスのポンド砲、ロシアの対戦車砲その辺りを仕入れたのかとも思ったが、まさかドイツのマーダーとは思いも依らなかった。


 しかし、少し考えればわかる事でも有る。

 エルフは外見には拘ってはいない、拘る1点は繋がる能力のみだ。

 戦車がシャーマンだけなのは、引き取った転生奴隷兵がアメリカ兵でその扱いが慣れているというだけなのだろう。

 他国の戦車の訓練をするのは面倒だとそれだけか。

 成る程、マーダー2から放たれた砲弾が適当な所にしか飛ばない筈だ。

 アメリカ兵の習熟度が全く足りていなかったのだろう。

 同じ様なモノでも国が変われば微妙に変わる。

 それは焦った時には大きな違いになってしまう。

 今のコイツ等の様に。

 

 俺はグルリとマーダー2の後ろに回り、焼けて死んだエルフの奴隷兵を見やる。

 オープントップの剥き出しの砲の後ろに引っ掛かっていた。

 その砲は良く見る7.5cm砲。

 3突に載っている砲と全く同じものだった、つまりはこれは後期型のマーダー2だ。

 初期型は7.62cmのソ連製f-22野砲を積んでいた。

 大量に鹵獲したソ連の砲が余っていたからだ。

 この2つの砲はほぼ同じ口径だが、放り込める弾の長さが違う、依り長いドイツの7.5cm砲の方が発射薬が多くて威力が高いのだ。

 ヴィーゼの3.7cm砲の砲弾よりも、マンセルの3.7cm砲の砲弾が長くて重い……そして威力も高いのと同じ理屈だ。


 その時、ガサリと草を割る音がした。

 ユックリと敵の観察も出来ない様だ。

 俺は黒焦げのマーダー2の影に身を潜める。


 ガサリ……。

 ガサリ……。

 ユックリと近付いて来る音。

 森の外の砲撃音には掻き消される事も無くにハッキリと聞こえてくる。


 右手にmp-40を構え、左手にはM24柄付手榴弾を準備して、そちらをソッと覗き込む。

 濃い緑色の鉄帽が草の上から見えた。

 網目のカバーが掛けられて、丁寧に枝葉を差し込んでいるそれ。

 アメリカ奴隷兵だ。

 草を割る動きから、手に持つのはガーランドか?

 なら弾は8発……そして後ろに何人居るかだ。

 そして、相手をする必要が有るかだ。

 

 俺は、マーダーに引っ掛かっていた男を見た。

 その顔は砲と装甲の間に挟まれて見えない。

 敵兵なら、味方の死体を誰かと確認するだろう。

 共に同じ釜の飯を食った仲間なら尚更だ。

 特に米兵は胸にぶら下げているタグを回収したがる。

 

 その死体の脇に挟み込む様にM24柄付手榴弾を隠した、次に柄の後端のキャップを外してそれを死体のベルトに挟む……それが信管だ。

 

 見付からない様に音を立てずに作業を終えて、静に後ろに下がる。

 草が立てる音には手で掴んでユックリと動かした。

 移動速度は向かって来るエルフ兵とは比較に為らない程に遅いがそれは今は構わない。

 ある程度の距離さえ開けられれば問題は無いのだ。


 ガサリ……。

 敵兵が焼けたマーダーを視認した様だ。

 音がソコで消えた。

 敵も警戒を強めたのだろう。


 そして、暫く待つ事も無く叫びがこだました。

 「トラップだ!」

 敵兵の警告と慌てる動きが耳に届いた所で、俺は低い位置で屈んだままでその方向にmp-40を撃ち放つ。


 パパパパッ……。

 軽い音が辺りを支配したその直後に手榴弾の爆発が起きる。

 そして、それを合図に俺は飛び出した。

 銃はそのまま撃ちっぱなしだ。

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