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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界の子供達
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少年兵


 葡萄畑を見渡せる一段高い丘の上で停まっている戦車。

 今は、ヴィーゼが地図を描いているのだ。

 村の見取り図。

 相変わらずの縮尺も無茶苦茶なわけのわからない絵なのだが、それでも役には立つ。

 今回の村の様に初めから此方を害する気の有る者から逃げるのも、殲滅するのにもだ。


  その間、マンセルは休憩。

 バルタはイナとエノのタヌキ耳の姉妹に戦車砲の弾の込め方と砲塔の旋回の手伝いのやり方を教えていた。

 その二人に成った理由は簡単。

 犬耳の子と同じぐらいの力が有るのに、少し体が小さいからだ。

 砲弾は見た目以上に重いので、女の子だと二人掛かりでないと危ないのと……それと、砲塔の中が狭いからだ。

 もっと小さいエルは力が無さすぎたし、必然とそうなった。

 まあ、エルはそのまま通信士かな?

 今回は戦車一台だから居ても居なくても良いのだが。


 では、残りの者、エレンとアンナとネーヴの犬耳三姉妹はと言うと。

 俺と一緒に火炎瓶を造っている。

 材料はマンセルの酒瓶と今まで子供達が着ていた汚ない布切れ。

 使わないに越した事は無いのだが、村の中での戦闘に成ればそれは市街地戦闘……火炎瓶はとても有効なのだ。

 もちろんそれを子供達に使わせる積もりはない。

 そもそも戦闘は頭には無い。

 話し合いで解決出来るのが最善だが、それが駄目なら逃げるだけだ。


 その犬耳三姉妹はやっぱりセーラー服で半袖のシャツに下は短い黒のスカート。

 そのセーラー服、白地に青線がエレンで赤がアンナ、ネーヴは黄色だった。

 それに下着のパンツも合わせているのか、各々に同じ色の水玉。

 タヌキ耳の姉妹もセーラー服なのだが、こちらは白のワンピースタイプ。

 丈が短めで、チョッとエッチっぽい?

 ヴィーゼもそうだが……バルタの趣味なのだろうそれは随分と偏っていた。

 だがそのバルタ……タヌキ耳の二人の格好には首を捻っている。

 思っていたのとは違ったのだろうか?

 そして、問題なのがエルだ。

 ピンクのヒラヒラのワンピースなのだが……こちらは本人が気に入らないのか怒っている。

 挙げ句にはバルタが羽織っていた皮袖の赤いスカジャンを剥ぎ取って隠すように着ていた。

 仕方無いとバルタはヴィーゼに着せる筈だった白いファー付きのダウンコートを羽織るのだが……不思議な事にそのサイズがピッタリなのだ。

 バルタとヴィーゼでは背丈が随分と違う筈なのに。

 そして、微妙にニコニコとしている。

 無理矢理取られたのにだ。


 

 「銃の使い方も教えておいた方がいいんじゃないか?」

 マンセルが戦車から出て来てmp-40を差し出してきた。

 空いた片手には飲み掛けの酒瓶。

 酔っているな?


 「駄目だ危険だし……銃は人を殺す道具だ」

 当たり前の話だ、子供に銃なんて有り得ない。


 「だけど……身を守る手段でも有る」

 酒を煽り。

 「人間には悪意を持った者も居る、今回はたまたま助けられはしたが……一歩間違えばスレ違って、それっきりだ」

 

 「教えて」

 エレンが前に出て銃に触った。


 「わかった……だが、その銃は駄目だ危険すぎる、親衛隊の持っていたstg44ならまだましだが」

 撃たせない為の言い訳だが、一応は理屈もある。


 「こっちの方が軽くて小さいし弾も弱いのにか?」

 その理屈を聞いてきたマンセル。


 「だからだ、軽いと反動がキツくなる……制御がしにくい」

 物理の法則だが、それは言ってもわからないだろう。

 

 「ふーん……やっぱり詳しいんだな」

 そう言って戦車に戻るマンセル。


 言われた俺も少しビックリだ。

 今は、p08を握っているわけでもないのに。

 もちろんライターも、ファウストパトローネ30の残骸もだ。

 ……。

 記憶として残ってしまっているのか?

 経験の無い他人の記憶なのに。


 「じゃあ、これだな」

 すぐに戻ってきたマンセル。

 その手にはstg44が有った。

 「これならいいんだろ?」


 「それはどうした?」

 驚いた俺は声が跳ねる。


 「さっきの奴等のだよ」

 それを戦車の上に三丁を並べて見せた。

 「拾っておいたんだ」


 「クスネたのか!」


 「酷い言われようだな」

 笑って。

 「これは鹵獲品……戦利品だ」


 「犯罪の証拠品だろう?」

 それを勝手に持ってきていいのか?


 「別に珍しい物でも無いし……一応は警察軍の兵士に許可は取ったぞ?」

 それで、くれるモノなのか?

 そんなもんなのか?

 違うと思うんだが。


 「取り敢えず練習だな」

 stg44をエレンに握らせたマンセル。


 「待て待て!」

 その銃を押さえ込んで。

 「やっぱり駄目だ……人殺しにはさせたくない」


 「自分が殺されそうに為っても、それを素直に受け入れさせろってか?」


 「そんな事は、滅多に有るもんじゃあ無い」


 「しょっちゅうだろう、当たり前に有る事だよ」

 子供達を指して。

 「この子等は……人間じゃあ無くて獣人なんだから」


 「でも……それでも、余計な恨みを買うだけだ」

 いや、矛盾が有るのはわかっている。

 この子達の命と引き換えに出来る、そんな恨みってなんだ?

 感情と命なら重い方は明白な筈だ……わかっては居るのだが。

 何かが許せないでいる。


 「まだ子供なのに……二度も拐われたんだぜ……」

 マンセルが続けた。

 「人として扱われないんだ……其なりの自衛手段は有ってもいい筈だ」


 それはわかるんだが。

 だが。

 黙り混んでしまう。


 「お父さんも……お母さんも……人間にコレで殺された」

 エレンがぼそりと。

 「仇を討ちたいわけじゃあ無いけど……でも、目の前であんなものを見るのはもうイヤ……」

 チラリとアンナとネーヴを見た。


 「……」

 頭を抱えて。

 溜め息を一つ。

 「わかった……俺が、教えてやる」

 気は進まないが仕方無い。

 そうだ、教えてはやるが……使わせなければいいんだ。

 そんな言い訳を自分にした。



 俺はstg44を掴み、マガジンを抜く。

 そのままでエレンに構えさせて、引き金を引かせた。

 

 「実弾を撃たせないと、逆に危ないだろう? 経験は必要だと思うんだが」

 マンセルだ。


 「わかっている」

 マガジンに一発だけを入れて、何も無い方向に撃たせる。

 その時に、銃身の持ち手を俺が押さえながらにまずは一発。

 パン! と、軽い音が響く。

 その音と振動に驚くエレン。

 その場に固まってしまった。


 「アンナ……どうする?」

 次にアンナに声を掛ける。


 すぐに頷いて近付いてきた。

 同じように、銃を支えて一発だけを撃たせる。

 へたり込むアンナ。


 「ネーヴは……辞めとくか?」

 二人を見てへっぴり腰だ。


 「私も……やる」

 そう言って撃ったネーヴは泣き出してしまった。


 銃の怖さに襲われたか?

 それとも、さっき言っていた両親の死を思い出したのか……。

 もう……いいだろう。

 教えるにしても早すぎたと思う。


 だがエレンはもう一度、銃を取り構えた。

 震えながらだが、目は決意を感じさせる。

 「もう一度」

 

 それを何度か繰り返す。

 一発、撃つ度に怖さを克服していく三人。

 最後の方は、単独で補助無しで撃っていた。



 「最後にもう一度だけ言うぞ」

 三人の前に銃を差し出しながら。

 「フルオートでは撃つなよ」

 グリップを握り人差し指と親指でボタンを押して切り替えて見せる。

 「セミオートで銃を暴れさせない様に一発づつだ」

 次に親指でセーフティを操作する。

 「ロックは常に掛けておけ……そう体で覚えるんだ」

 三人が確実に頷いたのを確認して、銃をマンセルに返した。


 「いや、もうそれは娘達にやるよ」

 酒を煽り。

 「常に背中に掛けておけ……銃に慣れるのも大事な訓練だ」

 娘達に銃をそれぞれ手渡して。

 「そのうちに、整備の仕方も教えてやるよ、そっちが俺の本職だしな」


 背中に銃を掛けた三人の子供達。

 イッパシの兵士には程遠いが。

 それでも既に少年兵だ。

 その姿に、やはり後悔させられる。

 それが11才の少女だと余計に痛々しく見えた。

 銃と子供


 アメリカの南部では、10才未満の子供も銃を練習する事が有る。

 日本の子供達がソロバンや塾に通う様に、そんなスクールも有るほどに普通の事のようだ。

 

 それはソ連でも同じ。

 少学校の授業で教えているのだ。

 もちろん総ての生徒にではない、成績優秀な一部に限られはするけれども。


 平和で有る筈のその2つの国でもそうなのだ。

 平和ではない、アフガンや南米では……教える迄も無くにそのまま少年兵として戦っている者も居る……それ以外の紛争地域でも。


 日本だってその昔は、例えば戦国時代には少年兵が当たり前だった。

 第二次世界大戦の時は、銃が足らないから子供達が銃に触れる機会が無かっただけだ……一部、例外は覗く。

 日本も物資の豊富な国で有れば、もしかしなくても子供達が銃を撃っているかもしれない。

 現に小学校の授業では竹槍の練習をしていたのだし。

 竹槍も……立派な兵器だ。

 人も殺せる。


 なお、第二次世界大戦中の沖縄では少年兵は存在していた。

 それでも、流石に14才から17才の子供達だった。

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