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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界の子供達
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証拠写真と家族写真


 項垂れていた親衛隊の三人。

 アンは敢えて拘束はしない様だ。

 それでも、三人のカードは取り上げていたが。

 この不思議なカードは金と持ち物……奴隷だが……の管理から、身分の証明にも成る様だ。

 チラリとそれを見たが……赤文字で容疑者と判子を押したようなものがデカデカと書かれている。

 これでは、逃げても無駄なようだ。

 何かを買う事も出来ない。

 全財産を人質に取られた様なものだ。

 それと、社会的地位もか。

 

 「カードを無くせば……大変だな」

 さっき、ポイと投げたのだけど……あれは不味かったか?

 拾い直したカードを見詰める。


 「再発行すればいいだけですよ」

 マンセルがまたもや聞きもしないのに。

 「役所に行けば何時でも、何処でも出来ますよ」


 「やはり国の管轄か」

 マイナンバーカードに銀行がくっついた感じか?


 「元は冒険者が民間銀行から借金をするためのカードだったんですけどね、国営銀行に統合された時に身分証と財産管理と犯罪歴も含めて管理出来るように成ったんですよ」


 「でも、再発行しても内容は?」


 「何も消えませんよ、情報はすべて国営銀行の奥に有る金庫の中にモノリスと言われるデッカイ板みたいなのが有って、それが集中管理しているんです……カードはその末端の端末ですね」


 帳簿を管理するコンピューターの魔法版みたいなものか……。


 「稀代の錬金術師のマリー様が造ったものです」

 にこりと笑って。

 「凄い人なんですよ、私の御先祖様もお世話になった事が有るんです」

 

 「錬金術師のマリーって……爆弾マリーの事だろう?」

 側で聞いていた国防警察軍の一人が話に入ってきた。


 苦笑いのマンセル。

 「人によっては……色々言われては居ますが、ドワーフにとっては代々語り継がれる恩人の一人です、返しきれないモノが有るのです」


 そのマリー……もしかして。

 ポケットの中のパンツが気になった。

 まさかね、明らかに子供だし……それにゾンビだって言ってたし。


 「マリーは良いとして」

 話を戻そう。

 「カードの改竄とか……偽装とかは、大丈夫なのか?」


 「それは無理ですね」

 マンセルが言い切った。


 「あのマリーが造るモノは無茶苦茶だからな……役には立つけど、変な事をすればドエライしっぺ返しが有る」

 兵士も首を振る。

 「逆に言えば、俺達全員がカードに見張られて居る様なもんだ……すべての行動が筒抜けなんだよ」

 

 「犯罪もか?」


 「その行動が犯罪かどうかは、その時代の裁判所が決める事だ」

 親衛隊を指して。

 「時代によっては人身売買も合法な時も有ったのだしな」


 成る程、起こした行動の罪の有る無しは時代で流動的に変わるからか。

 殺人も理由の如何に依っては合法に為る事もあると……それは確かにだ。

 今がその時なのだろう。

 戦争中だというのなら、敵兵を殺す行為は殺人では有るが罪には為らない。

 敵兵を殺して犯罪者なら戦争自体が成り立たない。

 だから、盗賊行為も裁判所が犯罪だと認定するまではカードも何も変わらないという事か。

 魔法で勝手に書き変わるカードでも、それで書き変わるのは結果のみなのだな。

 その判断はあくまでも人がするものなのだろう。

 つくづく良く出来ているモノだとカードを眺めた。


 「だが、契約は絶対ですよ」

 マンセルが俺を見て。


 「そうだよな……特に金に絡んだ契約は縛りが酷すぎる」

 兵士も唸る。

 「マリーってのの性格が良く出てるよ……理屈がどうのよりも約束と決め事が最優先だもんな……一度、契約を交わせば間違いでしたは、効かないし」

 肩を竦めて。

 「気を付けないと……危なくてしょうがない」


 俺も、それに思いっきり嵌まっているしな。

 使う時には考える習慣を身に付けねば駄目なようだ。

 イヤ……それよりも先に、あの村との契約をなんとかしなければ。


 「そろそろ行くか?」

 マンセルは頷いて戦車に向かう。

 ここでウダウダもしていられない。

 俺は馬車の側に寄った。


 「なんか、ズルいよね」

 犬耳の三姉妹がバルタに詰め寄っていた。

 「いつの間のか、綺麗な服に成ってるじゃん」


 「だから、みんなのぶんも有るって」

 紙袋を差し出しながら。


 「でも、これってバルタの趣味でしょう」

 それを覗き込みながらにエルが言う。

 

 「それよりもその首輪をなんとかしろよ」

 こっちでもウダウダやっていた。


 「まだ、駄目何だって」

 アンを指差すエル。


 「何で?」


 「証拠がどうのって……」

 自分の首輪に触れる。


 「どお言う事だ」

 アンに近付いて。


 「この見た目は裁判官にもインパクトが大きいだろうからだ……貴方の為だ」

 犯罪を成立させないと契約がってやつか?


 「見た目だけなら……」

 バルタを手招きして。

 胸の前にぶら下がっているカメラを手に取った。

 「全員、馬車の前に並べ……ついでだ親衛隊もだ」


 そして、パチリと撮った。

 写真が出てくる。

 それをアンに渡した。

 その写真、首輪の子供達を中心にその脇を親衛隊員が左右に別れて、馬車をバックに写っている。

 

 「これは……」

 驚いているアン。


 「それってチェキよね……いいなあ」

 花音が反応した。


 「写真ってやつだ、目の前のモノをそのまま絵にして写す機械だ」

 その驚いた顔のアンをもう一枚、パチリ。

 「証拠には成らんか?」

 それもアンに渡した。


 「これだけ細かく描けていれば……大丈夫だと思う」

 目線が写真とカメラを行き来する。


 「ねえ、もう一枚撮って」

 花音が言った。 

 気に為ってしょうがない感じか?


 「わかったから、並べ……」

 カメラを構えようとした時。


 「違う、こっちに来て」

 花音が走りより。

 カメラをアンに渡して、俺の手を引っ張った。

 「全員で写らなきゃあね」


 馬車を背に並ぶ。

 俺が中央で、その周りに子供達。

 家族写真か?

 そんなの……いつ以来だ?

 小学生の時だったかの温泉が最後か……。

 懐かしい話だ。

 

 しどろもどろしていたアンに使い方を教えながらに、パチリ。

 出てきた写真を一番に花音が受取りに走る。

 その手にはカメラも。


 「あ……あの……」

 何かをいいよどむバルタ。


 「花音、そのカメラはバルタのだぞ」

 そっとバルタの背中を押す。


 「はーい……」

 羨ましげだ。


 「こっちをやるよ」

 ライカのチェキを差し出した。

 また、何処かのダンジョンで探すとしよう。


 「やった」

 貰ったカメラをいじくり始めた。

 その周りには子供達が集まっている。


 「もう、首輪は良いよな?」

 チラリと見たアンは、その問いに写真から目を離さずに……親衛隊員から取り上げていた首輪の鍵を差し出してそれを返事としたようだ。


 「みんな、着替えて良いってさ」

 エルの首輪を外してやる。

 「着替える時は馬車の中でだぞ」

 一応の注意。


 「何よ……あんた、私達をここで裸にさせるつもりだったの?」

 睨むエル。


 そうだよな、それが普通の反応だよ。

 「若干2名ほど……目の前で裸に為った者が居たのでね、その注意」


 「2名って、着いていったのはその二人だから……」

 呆れ返るエル。

 「ヴィーゼはわかるけど、バルタまで?」


 「だから、馬車に入ってくれ」

 担ぎ上げて押し込んだ。


 「私達は気にしないよ」

 犬耳の三姉妹がニコニコと。


 「俺が気にするんだ」

 ここにはわけのわからないオッサン達が多すぎる。

 「行儀は大事だ」


 「躾ってやつか……仕方無い」

 犬耳の三姉妹が渋々と馬車に登った。


 「言い方が……」

 そう言い掛けた時、服の裾を引く花音。

 「私のは?」


 「花音ちゃんは、もうちゃんとした服を着てるじゃない」

 慌てたバルタ。

 花音のぶんまでは用意をしていなかったようだ。

 

 「これって、どれが私の?」

 馬車から掛かる声。


 その声を聞いたバルタも馬車に登った。

 花音の追及を避ける様にか?


 「戦車長、まだ掛かりますか?」

 マンセルだ。


 「この機械は何処で手に入る?」

 アンだ。


 「こっちがいいなあ」

 馬車から俺に聴かせる様にか、大声で。


 ……。 

 なんだこれは、統率がまるで無い。

 「バラバラに喋るな!」

 思わず叫ぶ。

 「今度、一緒にダンジョンに行こう」


 「ホント?」

 犬耳の一人が馬車から姿を現した。

 スッポンポンでだ。


 ああああ……。

 「約束だ……だから大人しく着替えてくれ」


 「あの……そこにはカメラも?」

 アンが上目遣いに。


 「わかったアンも一緒に行こう」

 そう言って、アンの腕を掴み。

 「だから、着替えを手伝ってやってくれ」

 馬車に押し込んだ。


 もういい。

 丸投げだ。

 面倒臭い。

 俺は耳を塞いで戦車に乗り込んだ。

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