緩んだ部隊
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上がってくれた。
応援ありがとう。
明日も頑張る。
またあした!
その日の夕方。
適当な所でキャンプを張る為に部隊は止まった。
今は部隊を率いているのは大佐なのだが、プレーシャからそんなに離れていないこの場所で何故? とも思うがそれを俺が言っても仕方無い。
俺は今、負傷兵で戦線から離脱している身だ。
大佐も何か考えが有っての事だと思う事にした。
しかし気には為ると、動ける様に為った体を起こして外へ出る事にする。
クロエも別段止める風でも無い。
逆に、動ける様に為ったのなら動けと目で訴えている様にも感じた。
早い話……追い出されたのだ。
トレーラーを出て数歩。
アンに呼び止められた。
「もう動いても?」
その手に何やら銀色の深皿に入れられた具の少ないスープ。
俺の為に運んでくれていたのかも知れない。
「まだ背中は張るが、手足は動く」
そう答えた。
目線は旨そうに見えるスープに釘付け。
「熱は引いた様だが、ダルさとかは無いのか?」
アンの目線は心配気に見える。
「無い」
即答で答えた。
ダルさも吐き気も無い、内蔵はすこぶる元気だ……だから早くそれをくれ。
実際のところは少しボウッとはしていたが、食欲には勝てん。
そんな程度だ。
「で、何処へ行く?」
「散歩だ」
またも、ジッと俺を見るアン。
上から下へ、下から上へ舐め回す様に目線を送り。
納得したように頷いた。
「私も一緒に着いて行くから少し待て」
そう言って、トレーラーの中に入る。
何かを取りに行ったのか?
どうせなら、そのスープを置いていって欲しかったと考えていると。
用事を終えたと、アンが出てきた。
その手にはスープは無い。
「あれ? スープ……」
思わず声が漏れる。
「ん? 欲しかったのか?」
「いや……べつに」
クロエの為のモノだったかと、落ち着いて考えればわかる。
俺は寝込んでいて、モノが喰えるかどうかもわからなかったのだろうから。
いや、こうして立って歩けるのを見て、食べたければ自分で取りに行け……と、そう言う事で、クロエに渡したか?
……そうだな、そう言う事にしておこう。
その方が寂しくない。
適当に歩き出した俺にアンが後ろから着いてくる。
やはりまだ心配している様だ。
ただ黙って着いてくる。
観察されている様で気持ち悪い。
さて、部隊なのだが……。
大佐の部隊も混ざって大部隊に成っている。
戦車も多い。
その殆どが4号戦車だ。
だが、この狭く運用のしにくい森の中ではそれは宝の持ち腐れにしかならないとも思う。
プレーシャの占領作戦を立てたモノが馬鹿なのか?
それとも、これだけの戦力で何も出来なかったと、そう仕向けたかったのか?
大方、3週間でエルフ供を根絶やしだ……とかなんとか言ったんだろう。
自身は安全な後方で芸者遊び三昧で何もせずか?
インパールじゃあ有るまいし……。
だが、補給を送ったのは何故かだ。
最初はプレーシャだけが目的で、それが簡単に済んだので色気を出したとか。
駄目な立案者に呆れた誰かが、横から助け船を出したか?
たぶんそっちだな。
だからワザワザ俺に休暇を装わせたんだろう。
そう考えると、帰っても一悶着有りそうだ。
まあ、それは大佐が受けるだろうけど……何せ俺は休暇中だ。
はっきり言って作戦には無関係だ。
少し歩いて、良い匂いがしてきた。
鼻の奥と腹の虫を同時にくすぐる香ばしい匂い。
たぶんこっちだと、それを目指して歩いて来たのだが、正解だったようだ。
そして、脇に座り込んだ兵士達もチラホラ見掛ける様に成っている。
その中の一人が俺を見て立ち上がった。
「あれ? 中佐殿」
一人の兵士が声を掛けてくる。
マンセルと同じ臭いがする……詰まりは酔っぱらいだ。
「もう御加減は大丈夫なので?」
やはり完全に酔っていた。
「いやあ、見事な作戦でしたね、後方からでも橋の爆発は見えましたよ」
馴れ馴れしく話続ける兵士に適当に手で答える。
軍服を見るに奴隷兵士では無さそうだが、話す雰囲気は貴族でもない。
補給部隊の国軍出身なのだろう。
元は一般人の志願兵か?
「最初見た時……プレーシャの指令所に入って行く姿を見て正直、大丈夫なのかと不安に成ってしまいましたが」
しつこく絡んでくる。
だが、初めてがプレーシャなら、こいつも貴族軍か?
それとも大佐の部隊も国軍が混ざって居たのだろうか?
「何せあの格好は驚きました、女モノのピチピチのシャツで胸をはだけて歩いているんですから」
それは俺のせいじゃないとは言いたいが、これ以上絡まれるのも嫌なので適当に流す。
「それに女と子連れで指令所だ……何者だと思いましたね、後で中佐と聞いてもう駄目だここで死ぬんだって諦めそうに成りましたが人は見掛けでは判断出来ませんねえ」
どうしたった絡みたいらしい。
余りにしつこいので、チラリと後ろのアンを見た。
酒飲みの相手は嫌いだ。
だがアンはそれを勘違いした様だ。
「その女とは私の事か?」
ズイっと前に出る。
自分が馬鹿にされていると思ったらしい。
そして、俺の目線はお前の事を言われているぞと、そうとったようだ。
怒りの顔を見せたアンに少し驚いた酔っ払い兵士は、今度は俺を見る。
階級も無い女に理不尽な物言いをされたと思ったのだろう、俺にどうにかしてくれとの目線だ。
だが、俺はその目線を横に外してやった。
軍隊は階級社会だ、この酔っ払いも少しは階級を持っているのだろう。
だが、この部隊では俺は上から2番目なのだ。
その俺が何も言わないのはどう言う意味だと狼狽し始めた。
変に勘繰り出す。
俺の女か?
それともこの女にも階級が有るのか?
または上の階級の誰かの女か娘か?
そんな事を酔った頭で考えているのだろう。
余り考えさせてパンクさせるのもなんだとアンの手を引き歩き出す。
この酔っ払いは俺の部下ではない、大佐の部隊だ。
俺がどうこう言うモノでもない、絡まないのが最善だ。
流石に歩き出した俺達にはもう着いて来ない。
頭を掻きながら酒瓶を煽っている。
少し距離を取ったのを待って小声で。
「緩み過ぎだな」
そう呟いた。
「私達と救援部隊、それと砲兵以外は実質、戦闘をしていないからな……緊張感も無いのだろう」
アンも吐き捨てる。
プレーシャに入った時も、罠だらけだが既に無人の町だったと言っていた。
橋の爆破も、橋を渡ったエルフの戦車部隊も準備をする前に橋を落とされて補給路を経たれたので戦闘には成らなかった。
流石にエルフでも、退路も補給も無しでは戦闘は初められないのだろう。
逃げるか、砲撃に対処するかで精一杯で終わったか。
「にしても飲み過ぎだ、まだプレーシャには敵の戦車部隊も中途半端にだが、そこに居るのに」
「楽に勝てたので、それも簡単に返り討ちとでも考えているのだろう」
しかしアンはもう少し考えて。
「もしかするとそれが恐怖で飲み過ぎたのかも……」
「成る程……にしても飲み過ぎだ、言っている事もわけがわからん」
理由などどうでも良いのだが、一応はアンの意見にも頷いておく。
「しかし、司令部に行くのに子連れは無いだろう」
だが、ふと考えて。
「バルタかヴィーゼが着いて来ていたのだろうか?」
そんな覚えは無いのだが。
「まさかアンが子供に見えたとか?」
突然に立ち止まったアン。
ん? と、そんな顔を俺に見せた。
俺も、ん? と、返す。
「どうした?」
俺は何かおかしな事を言ったか?
ジッと俺を見て暫く。
アンはその答えを変えて。
「飯ならソコだ」
首を傾げてはいるが、納得は出来ている様だ。
それがなんなのかは俺にはわからない。
やはり、何か変な事を言ったか?
それを具合がまだ本調子じゃないとアンは考えたのだろか?
俺は何を言った?
酒を飲んだわけでも無いのにわけがわからん。




