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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界の秘密
242/317

援軍か? 救援か? 

554ポイント。


今日は少し遅れた。



明日はもっと頑張る。

またあした!


 敵に囲まれた向こうから援軍が来る。

 なら……俺も何時までも隠れてはいられない。

 目の前のガバメントとマガジンを広い立ち上がった。

 一瞬、地面がグラリと揺れたが、少し長く地面に這いつくばり過ぎた立ち眩みだと苦笑い。

 子供達だけに戦争をさせたろくでもない大人だと笑うしかない。

 援軍は他人だから……それに見られるのは格好がつかん、そんな理由でも何でもいい。

 何時までも情けなく隠れている俺では無くなれるのならば……だ。

 と、ふと考える。

 昔の日本軍は部下に特攻をさせたときにも、その上役はこんな気持ちに成ったのだろうか?

 自分は安全な場所に立ち……下の者には死ねと命じる。

 普通の感覚ならそれはおかしい……のだが。

 そう言えば、俺がサラリーマンマン時代はどうだった?

 まだ半年も経ってはいない、そんな最近の昔の事なのだが……。

 ……俺は、命じられる方だった気がする。


 今、戦争をしているこの無茶苦茶な異世界と……。

 平和な元の世界では……。

 どっちが?

 

 立ち眩みを誤魔化す様な、そんな事を考えていると。

 横のアンはM1ガーランドを掴み、雄叫びを上げて躊躇無くに飛び出していた。

 

 俺も叫びながらにアンの後ろを着いて走る。

 草木を蹴って、出来るだけ派手に音を立てながらだ。


 エルフ兵にとっては見失って居た敵が突然に現れる。

 それも大きな声を張り上げて、意味の無い方向に走り出しているおかしな行動は、追い詰められた末での事だと理解して自軍の有利を確信出来るだろう。

 攻めて居る筈なのに、何故か味方が次々と殺られている不思議な恐怖を伴う感覚を拭いされて、その上で自分達の行動は間違ってはいないと思い込ませる事が出来れば、次の後方から現れる敵の大軍に囲まれたと気付けばその落差は大きい。

 俺とアンの行動は敵を倒すのではなくて、敵の心を折る為なのだ。

 

 

 四方八方から銃撃を受ける俺とアン。

 この小さな戦闘において自軍の勝利を確信したのだろうエルフ兵は、もう隠れる事もしなかった。

 後は数で押せばいいと確信した様だ。

 

 そして俺は驚いた。

 そのエルフ兵の数が尋常では無く多かったのだ。

 倒した敵兵も合わせて5分隊は居たのでは無いかと思われる。

 詰まりは50から60人だ。

 その人数を見れば、俺は怯むしかない。

 アンを押し倒して藪にもう一度ダイブする。

 

 頭の上を無数の銃弾が飛び交うのがわかる。

 側の木の幹は削れて、削がれて、裂けて倒れそうな勢いだ。


 『援軍はまだか?』

 アンの頭を押さえて覆い被さる俺は呟く。

 「こんな端っこで、多すぎだろう……」

 でもその答えは知っている。

 プレーシャの町を包囲する為の歩兵部隊だ、左右横に広がって裏迄囲むつもりなのだろう事。


 『もう少しです』

 普段、聞き慣れない幼い声だ。

 『耐えて下さい』

 少し怯えたクリスティナだった。


 援軍にクリスティナが混ざっている様だ。

 元は少尉からの借りモノ。

 元の部隊に戻っての作戦行動なのだろう。

 まあ、兵士ではなくて通信機としての道具だが。


 と、その時。

 また地面が揺れた。

 地震ではなくて、俺の意識の方だ。

 アンを下にして突っ伏している状態なのでそれは立ち眩みではないのはわかった。

 酔う様な気分の悪さに呻く。

 「ダンジョンでも現れるのか?」


 そんな俺を下からアンは心配げに。

 「大丈夫なのか? 体が熱いぞ」


 「大丈夫だ……援軍はもうすぐそこだ」

 

 「何を言っている、心配しているのは貴様の体の事だ」

 アンの声が遠くに聞こえる。

 すぐ真下に居る筈なのに。

 ……。



 突然に景色が変わった。

 見えるのは、木の葉から覗かれる月。

 それを見上げている。

 俺は地面に寝かされて居た。

 「撃たれたのか?」

 そんな痛みは何処にも無い。

 ただ、頭がボウッとするだけだ。

 

 しかし、それよりも……。

 「アンは?」

 庇っていた筈のアンは何処に行った?


 そのアンは頭上から返事を返してきた。

 「ここに居るぞ」

 頭を地面に着けながら、そちらを見る。

 アンの丸めた背中が見えた。

 銃を撃っている。

 「もう少し我慢しろ救援が来た」

 

 俺の寝かされている横を何人かの男共が走り過ぎていく。

 銃を持っていた。

 その軍服も装備もドイツ式だ。

 

 

 また景色が変わった。

 俺は相変わらずに上を向いて、地面に寝転がって居るのだが……。

 今度はゴーレムの背中に取り囲まれて居る。

 そして、上を向いてもアンは居ない。

 

 そのかわりに耳に届く。

 銃声と聞いた事の無い男達の怒鳴り声。

 


 次は……。

 ヴィーゼとバルタが俺を覗いていた。

 「起きたよ?」

 ヴィーゼが俺に訪ねてくる。

 その問に答える間もなく。

 「私がわかる?」

 バルタが聞く。

 

 起きた?

 わかる?

 それはなんだ?

 何故にそれを俺に問いかける?

 そして、二人は何で……裸なんだ?


 頭に次々と浮かぶ疑問。

 聞きたいのは俺の方だと、口を開きかけたとき。

 バルタが俺の額に手を当てた。

 「凄い熱」

 ヴィーゼも頷いて。

 「汗も凄い」



 そして……。

 今度は景色が揺れていた。

 俺はゴーレムに背負われて移動させられて居る様だ。

 土塊ゴーレムなのだが、その体が冷たくて気持ちが良い。


 すぐ先に歩いているのはアン。

 そこに兵士が走り寄ってくる。

 何やら相談をしている素振りだが、声は聞こえても内容は理解出来ない。

 手振りで見ると、アンは敵兵の方向を指差して居るのか?

 そして、兵士はその反対を指差している。

 俺の耳がおかしいのでは無い、頭が受け付けないだけのようだ。

 五感の各々がバラバラで、意味を持つものに全く繋がる事が無い。

 それでも各々はキチンと仕事はしていた。

 

 例えば視覚。

 見えるのは生焼けの炭に成った木々と、そこから立ち上る煙。

 ナパームの直撃を受けた場所か?

 とは理解出来るが、なぜそこに俺が居るのかはわからない。


 例えば嗅覚。

 焦げ臭い臭いが鼻をつく。

 木が焦げた臭いと……ガソリンの臭いだ。

 見えたモノのそのままの臭いなのに、それとは別々に頭が考えている。

 

 「橋は落とした」

 ようやく理解出来たアンの言葉に。

 「我々の勝利ですね」

 そう返して居る兵士。


 そうだ。

 橋を落とした。

 作戦は成功したのだ。

 俺はそれをやってのけた。

 

 余りにバラバラな思考を無理矢理一つに纏めようと唸る様に考えていると……。

 実際に唸り声が漏れた様だ、目の前のアンと兵士は俺の方を向いた。

 「どうした?」

 「大丈夫ですか?」

 二人の心配している顔。


 「臭いがガソリンだ」

 意味の無い言葉を呟いて答える。

 今はそんな事は関係が無い筈だ。

 聞きたい事が別に有る筈なのにそれを呟いている。


 「うなされているのか?」

 アンがやはり心配気な顔を覗かせた。

 

 「ワーグナーのワルキューレの騎行が何処からか響いてくる様だ」

 頭にガンガンと響く音と、サイレンの様な耳鳴り。

 それが曲の様に聞こえる。

 だけど、それを口にしても意味は無い。


 そして、なぜそれを言ってしまったのかと自分に問いかける。

 「何処かにロバート・デュヴァルが居るんじゃあ無いのか?」

 また、関係の無い言葉。

 頭の中のモノが、考えなしに漏れている様だ。

 「ガソリンは勝利の匂いだ!」

 俺がロバート・デュヴァルなのか?

 

 「そいつは何者だ?」

 そう俺に聞いたアン。


 そいつとは誰だ?

 と首を傾げる俺。

 

 「ロバート・デュヴァルと言う者だ……エル兵の事か?」

 アンは何か重要な意味を持つ人物とでも勘違いしたのだろう。

 

 俺はただ首を振って。

 「アメリカの映画俳優だ……どの映画だったか、確かそんな台詞を聞いただけだ」


 「わけがわからん……映画とはなんだ?」

 アンは隣の兵士に聞いる。

 

 だが、その隣の兵士は俺を睨む様に見ていた。

 「映画俳優……ロバート・デュヴァルは知らないが、映画俳優とは映画の中で演じる役者の事です」


 「映画俳優?」

 やはりわけがわからないと首を傾げたアンに、兵士が続けた。

 「映画は連続した写真を繋げて見せる、演劇です」

 俺を睨み続けて答えた兵士。


 その時、俺は気付いて居なかった。

 自分のミスに。

 ただ、なぜこの男は俺を睨むのだろうか?

 そう感じているだけだった。

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