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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界の秘密
241/317

見えないプレデターズ

554ポイント!

今日も増えた。

みんな応援ありがとう!


明日も頑張る。

またあした!


 夜の闇の森の中。

 木々の間の藪に身を隠すバルタとヴィーゼ。

 その居場所はエルに聞かなければ俺にはわからない。

 タヌキ娘達はわかって居るようだ、立ち止まり銃を構えて目線を走らせていた。

 

 俺とアンはエルに引き摺られる様に藪に押し込まれる。

 「少し大人しくしていて……みんなの邪魔に成るから」

 小声でそう呟いたエルは、指で方向を示していた。

 

 ガサリと草が揺れて、エルフ兵3人が出てきた。

 辺りを警戒している。

 何かを見失った素振りに見えた。

 『エレン達に誘導されて来たのよ、派手に音を立ててそれを追いかけさせられたのね』


 『そのエレン達は?』


 『もう仕事は終えたから……次の獲物の誘導に向かったわ』

 エルの指は全く別の方向に向いた。

 犬耳三姉妹も音も立てずに移動出来るのか。

 

 その時、目線の隅を音も無く動くモノを捉えた。

 両手にナイフのバルタだが、それがバルタと知っていなければ判別は無理な速さだ。

 イキナリ目の前に現れたバルタに驚いた顔のエルフ兵はそのままで何もせずに倒れ込む。

 一瞬で二人。

 スグに腹に、下から銛が刺さるエルフ兵。

 これはヴィーゼの筈だが、姿は見えない。

 と、バルタも消えていた。

 

 エルフ兵の死体はその首が切られていた。

 ネーヴがクビリ殺すとか言って抱き付いて首元を切るのとは明らかに違う。

 バルタは首の後ろを深く骨ごと切り裂いている。

 その傷は剃刀の刃で切られた様に鋭い。

 いつの間に後ろなのだ?

 俺の目には、敵の前に飛び出した様にしか見えなかったのに……。

 ヴィーゼの方も銛は下から肋骨を避けて心臓に一突きの様だ。

 その傷も小さな穴が空いているだけだった。


 「二人はこんなに強かったのか?」

 横で見ていたアンも驚いている。


 「私達の中で一番に強いのはバルタよ、でもヴィーゼに勝てる者も居ないわ」

 確かにヴィーゼは強かった。

 それは水の中でならだと思っていたのだが、陸に上がっても同じ様だ。

 

 「二人は戦い方が全く違うけどね」

 エルの指は少し離れた木と木の間で止まる。

 「バルタは待ち伏せて、瞬発力で切り伏せるの」

 もう1つの方向の指は動きっぱなしだ。

 「ヴィーゼは音を立てずに止まらずに仕留めていくのよ、一撃の力は無いけど正確に急所を狙ってね」

 それは川での戦闘で見た。

 水賊の背中に取り付いて、あの時は噛んでいたが……銛と言う武器が有るならこうなるのか。


 エルの目線の先でガサリと草の音と口笛が響き渡る。

 喉笛を斬った様だ……死に際に漏れる肺の空気が喉を鳴らしている。

 「今のはどっちだ?」


 「あれは、三姉妹の誰かね……バルタもヴィーゼもあんな音はさせないわ」

 成る程、クビリ殺す……の方か。

 

 「しかし、こんなに強いなら銃は必要無かったのでは?」

 アンが呻く。

 「始めからこの方が……」


 「ここが森で、今は夜で……回りの火も消えかかっているから出来るのよ」

 確かに……いくら身体能力が高くても、昼間の草原では撃たれるだけだ。

 さっきまでの火の明かりは邪魔だったのだ。

 「今の暗さでもギリギリのギャンブルよ」


 また草木の揺れる音。

 「そろそろエルフ兵も気付く頃ね」


 「何に?」

 そのアンの問に答えたエル。

 「森に居る音の無い死の恐怖によ」


 いくら銃を持っていても、敵の姿が見えなければ狙えない。

 だが銃は撃てる、闇雲にだが引き金を引けば当てられるかもと考えた者が現れても不思議じゃあない。

 銃声が響きだした。

 それはエルが指差す方向とは全く別の場所だ。

 「エルフの感じる能力の弊害……今はヘルメットがそれを伝えているのでしょうね」


 その方向にイナとエノが銃を撃つ。

 闇の中のマズルフラッシュを捉えて居る様だ。

 しかし、二人は堂々と立っている。

 「大丈夫なのか? 敵に見付かれば撃たれるだろうに」


 「あの二人は見付からないわ……あれも能力だから」

 俺の心配を簡単に否定する。

 「私もだけど、変身能力が有るでしょう? それも二人は特別で死んでいる様に見える錯覚を見せるのよ」


 「立っているのにか?」


 「変身能力は肉体的に変えるのと、見ている者の認識を変える2つの要素が有るの、二人はその2つを同時に使えるのよ」

 首を少し振って。

 「私はそのうちの肉体的に変えるだけしか出来ないけどね」


 そう言われれば納得も出来る。

 二人は銃を撃つ時と車を運転している時は何時も大人の体に成長させている。

 服はそのまま子供服なので、とてもセクシーな格好だ。

 それなのに身内の俺達以外は誰もその事に気付きもしない。

 銃で撃たれて騒いでいる所も見た事が無い……それは狙われないからか。

 リアル狸の死んだフリの強力版?

 なんとも最強の狙撃手じゃあ無いか。


 三姉妹の能力は鼻と強い体と延々と走れる体力。

 タヌキ娘は目と死んだフリ。

 バルタは耳と音を消す待ち伏せと速さと正確な動き。

 ヴィーゼは広く見通せる遠視能力に音のしない移動。

 そして……。

 チラリとエルを見る。

 

 「なによ……」

 俺の目線に気付いた様だ。


 「いや……エルも凄いと思ってな」

 頷いた俺。

 「見えないモノが何処に有るのかわかるんだろう? それも距離も含めて正確に」

 たぶんそれはリアル狐の磁気を感じる力と同じ何かなのだと思われる。

 キタキツネは雪の中の獲物をそれで感じて捉えて居ると聞いた事があるのだ。

 その能力が生かせるから山なりに飛ぶ武器を選ぼうとするのだろう。

 雪の中の獲物にジャンプして飛び付く様に。


 「でも私には格闘能力は無いわ、音を消す事も、姿を覚られない事も、延々と走れる体力も無い……みんなの中じゃあ一番に弱いのよ」

 自虐的なその言葉に、悔しさも態度に乗っかって居る様にも見える。


 だから何時も強気に振る舞っていたのか?

 派手で強そうな服を選んでみたり。

 声を一番に張り上げているのもエルだった。

 弱いと自覚する自分を隠す為の虚勢。


 「それでもじゅうぶんじゃあ無いか……少なくとも俺よりは強い」

 このさい強い弱いは関係無いとも思うが、そこにこだわってしまっているエルにはそれを否定しても仕方が無いのだろう。

 「一番に弱いは間違いだ」



 エルフ兵が次々と倒されていく。

 そのエルフ兵も完全にパニックだ。

 その存在を確実に捕捉して、包囲を崩さずに攻撃を仕掛けていたのが……突然に消えて、その上で返り討ちに合っている。

 攻撃をされればその存在もあらわに為る筈なのに、依然として消えたまま。

 見えないモノが恐いのは幽霊も同じだが……コチラは確実に実害が有る。

 エルフ兵の命だ。

 

 俺とアンはそれを、藪に隠れて動かずに見ていた。

 ジッとして。

 しゃがんで。

 エルの指す方を目だけで追う。

 

 エルの指は俺達の背後に回る。

 そちらを見るには体を入れ替えねば為らないが……それは音を立ててしまうと躊躇していると。

 そのエルが突然に俺の口を押さえた。

 

 何事かと一瞬目を剥くが。

 それには意味が有る筈と、漏れる声を我慢する。


 その時。

 俺に背後からのし掛かって来たモノが居た。

 小さく柔らかな体に、手に持つ銛の先が顔の横に突きだしている。

 ヴィーゼだった。

 そしてまた何故か裸だ。

 

 「服はどうした?」

 横で同じように驚いているアンが小声で呟いている。


 「音がするから、脱いだ」

 簡単に答えたヴィーゼ。

 俺とアンの前にM1ガーランドとガバメントを投げて寄越す。

 敵から奪ってきたのだろうそれは、今度はちゃんと予備の弾もマガジンごと有る。

 「集めて来た」

 と、言葉だけを残してまた消えた。

 現れた時も、消えた時も一切の音を立てずに。


 そして、また銃声。

 タヌキ娘達はスグにそちらに銃口を向ける……が。

 『待って、あれは味方よ』

 バルタの叫びに二人は止まる。


 『味方?』

 少し考えて、答えは出た。

 マンセルが寄越してくれたのだ。

 俺は要請はしてはいないが、これだけ念話を飛ばしていれば、俺達の状況は筒抜けだろう。

 弾切れで敵に囲まれている事も、そしてその場所もだ。

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