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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界の子供達
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ヴィーゼの地図


 俺は見えない馬車の走る方角を睨み付けて。

 

 「ヴィーゼ……仕事だ」

 

 「何するの?」


 「周辺の地図を描け」

 車内を覗き込みながら。

 「馬車の位置と……追い込める場所が知りたい」

 

 「わかった……」

 戦車から這い出してくる。

 そして、バルタが紙と画板を差し出した。

 小学生の写生大会を思い出すソレ。


 目を瞑りキョロキョロとするヴィーゼ。

 すぐに地図を書き出した。


 「簡単でいいぞ、地形がわかればそれで良いんだから」

 

 「うん……」

 ウニャウニャと線を走らせる。

 だが……やはり描かれたそれはわからない。


 「馬車はどれだ?」

 

 「これ……馬車は馬が2頭だった」

 四角い囲いと楕円の組み合わせ。

 その横にも違う形の、変に膨らんだ餅のようなものが有る。


 「これは?」


 「馬……人が乗ってる」


 「2頭引きの馬車と、護衛か? 先導か?」


 「2頭引きの馬車なら最大速度は時速20キロ程か、追い付けるが」

 マンセルだ。

 「騎乗馬は瞬間だが40キロ近くに成るな……」


 「大丈夫だろう? この戦車は40キロで巡行が出来るだろう」

 俺は戦車を叩いた。


 「それは整地の話だ、この感じの草原なら良くて30キロ……邪魔な重しも有るからもう少し落ちるか? そんなところだ」


 「まあ、馬車が停められればそれで良いのだが……逃がしたくは無いな」

 顎先を摘まむ。

 「ここのぐちゃぐちゃは?」

 描かれた絵の上の方を指す。

 それは、紙の上半分を占めていた。

 

 「そこは森」

 

 「俺達は……真ん中のこれだろう?」

 ど真ん中の大の字の棒人間。

 「村は……まだ見えないか?」


 「たぶん……この辺かな?」

 紙の下のはみ出した位置を指し示す。

 そして、馬車は森と村との間。

 絵の方向を見るにその森を目指している様だ。

 盗賊の居た森は俺達の後ろ、川もそうだろうしダンジョンも。

 「森に逃げ込まれれば……厄介だな」


 「馬車を棄てられて徒歩だと、隠れ放題だな」

 マンセルも唸る。

 「バルタの能力で何処まで追えるか」


 「その森は……越えられると少しマズイ」

 司令官、アンが覗いてきた。

 「越えた先に在る街は、親衛隊の拠点に成っている」


 「親衛隊?」


 「国防警察軍と同じようなモノだが……親衛隊の方は民間人主体の公務員だよ」

 マンセルが説明をくれた。


 「一緒にするな!」

 それに反応するアン。


 「どっちも取り締まりだろう? 犯罪者の逮捕権もあるし」


 「違う! 奴等は奴隷排除派だ!」


 そう言うのなら、国防警察軍は解放派か。

 貴族主体なのだから、逆の様な気もしたが。

 奴隷に仕事を奪われるのは民間人の方だからか、邪魔なわけだ。

 貴族にとっては民間人も奴隷も、同じに格下とそう言うわけなのだな。

 そう考えれば……どちらも同じ事をやる組織と成るな。


 「まあ、大元の大臣様が違うか」

 マンセルも諦めたようだ。

 

 「大臣の管轄?」


 「右大臣が親衛隊で左大臣が国防警察軍……国のナンバー2を争ってる」

 

 「右大臣が民間人を登用か」


 「その右大臣も元は民間人だよ……昔からの慣例でね」

 マンセルは俺への説明も面倒臭くなってきたか?

 「民間人から出世して選ばれる右大臣様と貴族階層から代々出る左大臣様……こちらは世襲だがね」

 

 まあ、貴族の縦社会ならそうなるわな。

 そして、派閥が出来て争っているわけだ。

 貴族が民間人の下には付きたくは無いだろうから、相当の反発に成るのだろう事は想像が付く。

 

 「なら、森の方から……上から下に追い込もう」

 見た事も無い親衛隊よりは、こっちの国防警察軍の方が良いだろう。

 俺も貴族……の振りをしているのだし。

 「だだっ広い草原には成るが、追い立てればその内に馬も疲れて停まるだろう」

 

 「それは、どうやる?」

 アンが聞いた。


 「森の際を真っ直ぐに進み」

 ぐちゃぐちゃと描かれた際を、棒人間から指でなぞり。 

 「馬車が見えたら、砲撃一発」

 馬車と交差しそうな所で指を馬車の方にずらして。


 「そんな事をしなくても、戦車が見えたら反対側に逃げるよ……普通は」

 そう言い残して運転席に戻るマンセル。

 動かす準備か。

 

 だが、確かにその通りだ。

 自身に向かって来る戦車は恐ろしい。


 大きく頷いて。

 「さて……予定変更だ」

 決して優しい言い回しじゃない。

 「寄り道に成る……振り落とされるなよ」

 そう皆に宣言して、次にマンセルに指示を出す。

 「前進」


 森と草原の間を進む。

 ヴィーゼの能力で地形はわかるのは良いのだが、正確な距離はわからない。

 ヴィーゼ自身はわかっているのかも知れないが、ソレを表現する絵が稚拙過ぎる。

 読み解く事自体が無理だ。

 本人に聞くしかないのだが、ヴィーゼの理解力を越えてしまえばそれは謎のまま。

 謎の物体……もしくはナンかこんな感じの……てな具合に成るのだろう。

 命を預ける情報としては心許ない。

 だが、無いよりかは遥かにマシだ。

 現に今も、見えていない的の位置がわかるのだから。

 動く物ならバルタもわかる様なので、お互いの情報を補完しながらの運用だな。


 「花音達に俺達の事を教えられれば良いのだが……」

 戦車で追い回す事に成りそうなので、わからければ恐い思いをする事に為るだろうからだ。


 「もう少し……見える位置に為ればエルと話が出来ると思います」

 バルタが言う。

 そのバルタはヴィーゼと位置を交換して砲の照準器を覗いていた。

 まだその必要も無いのに。

 それ以前に砲はまだ後ろを向いたままだ。

 バルタはセッカチなのか?


 「エルの通信の能力か?」


 「はい、本当はもっと遠くでも届く筈なんですけど……最初の送信をエルがしないと駄目なんです」


 「成る程、こちらの事をわかって居ないから能力自体を発揮出来ないという事か」


 「はい、でも短くは成りますが念話の受信の感度はとても高いのでスキルの発動無しでも、見えるくらいの位置にまで行けば呼べると思います」

 少し、砲塔を動かす素振りをして。

 重すぎてバルタではこの戦車の回転砲塔はビクともしないが、気持ちなのだろう。

 「一度、呼べば後はエルのスキルで話は出来ます」


 「それは……俺でも?」


 「もちろんです!」

 力強く返事を返す。

 「まだ……見えませんが……」


 イヤ……それはそうだろう。

 その覗いている砲は、今は後ろ向きだぞ。

 

 俺は走る戦車の上で、ヴィーゼの描いた地図を広げて確認。

 走行風でバタバタと見にくくは有るのだが、良くわからないその絵では余り気にも為らない。

 その方角を向いて双眼鏡を目に当てた。

 揺れる戦車の上での事なので、見える景色は上下左右に動きまくる。

 これは長くは持ちそうに無いのはすぐにわかる、酔いそうだ。

 だが、目的の馬車はすぐに見付けられ。

 姿はハッキリと見えるわけでは無いのだが……薄い土煙と一緒に動く何かが見える。

 馬車以外にはそんなモノの情報は無い。

 ヴィーゼを信じればアレが馬車だ。


 「こちらに気付いたようです……方向を変えました」


 「ああ、そのようだな」


 「まだ……見える距離じゃあ無いのに」

 首を傾げるバルタ。


 「音だろ……何も無い草原ならこれだけの音を出していれば良く通るだろう」


 「成る程」

 納得のバルタ。

 でもそのバルタ自身も音で周りを見ているのだろうに、同じ事だと思うのだがな。

 

 「あ! 繋がりました」

 俺の片足だけ突っ込んだズボンの裾を引く。

 「エルです」


 「バルタ何処に居るの?」

 エルからの念話が俺にも聞こえる。

 オープンチャンネルの様だ。


 「今、そちらに向かっています」

 バルタも同じようにしている。

 イヤ、それ事態もエルの能力なのかもしれない。


 「皆は無事か? 怪我はないか?」

 俺はそれに割り込んだ。

 「酷い事はされてないか?」


 「!」

 エルの驚きの感情が送信されて来た。

 「大丈夫です……首輪と足輪を付けられたくらいで痛くは有りません」

 

 ソレを聞いたその瞬間に俺の怒りの感情がオープンチャンネルで爆発した。

 「首輪に足輪だと!」

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