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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界の秘密
239/317

脱出……帰り着く迄が作戦です

548ポイント。

今日は現状維持か。


うん。

明日も頑張ろう。


みんな応援ありがとう!

またあした!!


 橋のど真ん中が落ちた。

 そして、もう一度大きな水飛沫を飛ばす。

 その上を進んでいたシャーマン戦車も次々と吸い込まれる。 

 川の向こう側では予想していなかった出来事にエルフ兵も捲き込まれていた。


 俺達は突如として増えた川の水を何とか避ける事に成功したのだが。

 荒ぶる川が治まる迄は対岸で足留めをくらった。

 流石にこの中には入れない。


 『本当にサーフィンが出来そうだ』

 そんなモノの経験は無いのだが……橋から前後に別れた大波はそれを連想させる。

 ボーッと川の大波に恐れおののいていると。

 今度は砲弾が飛んで来た。

 マンセルがこの爆発を見て指示を出したのだろう、連続して爆発を起こして次々と橋の残りを削っていく。

 

 『さっさと脱出してくださいよ、次はナパームを放り込みますよ』

 マンセルは橋を完全に焼き付くし、粉砕する積もりの様だ。 


 


 「なかなかに酷い目に会った……」

 俺はアン達と合流して森の中に居た。

 目的の橋は壊した。

 後は無事にプレーシャに辿り着ければ作戦は終了だ。


 「包帯の端っこ……焦げてる」

 バルタがその先っぽを摘まんでいた。


 「イキナリ焼夷弾だ、川に飛び込むしか無かったが……川は川で洗濯機か水洗トイレ状態だ、死ぬかと思ったよ」


 「そのお陰で助かったでしょう?」

 アンもずぶ濡れ。

 「川に飛び込んで、一気に流されて、爆心地から離れられたから酸欠に成らなかったのよね」


 「そうだな……マンセルも少しは考えて欲しかった」


 「クシュン……」

 ずぶ濡れのバルタは余程に水が嫌だった様だ。

 俺の包帯の端っこを握ったままで放さない。

 もちろんその場の全員がずぶ濡れなのだが。


 「しかし、助かった」

 三姉妹とヴィーゼの頭を撫でる。

 四人の尻尾が興奮していた。

 「水の中で、俺を抱えてくれたから岩や川底に削られずに済んだ」

 あの激流でも獣人の体捌きは凄いと感心させられる。

 俺を抱えて、岩や川底を蹴って守ってくれたのだから。


 「私はイナとエノだな……本当に有り難う」

 アンも二人の頭を撫でていた。

 二人はニコニコとしているのだが……撫でられてあまり嬉しくは無いのか、尻尾は大人しい。

 そういう性格なのだろうか?

 試しに俺も二人の頭を撫でてみた。

 態度は変わらないが、尻尾は忙しく動いている。

 ……。

 アンに誉められてもか……。


 「でもどうするの?」

 エルが自分は撫でられていないと、微妙な角度で頭を差し出しながら。

 「敵の戦車は居ないけど、森はエルフ兵だらけよ」

 そして、ゴーレム達の背中を指差していた。

 川の底を転がったゴーレム達は、手に持つ武器は確保出来ていたが背中に背負っていた弾薬はその殆どを流されてしまっていた。

 

 「迫撃砲の弾は無しか……」

 ゴーレム達の背中を探る。

 2cm砲は10発マガジンが1本。

 mg34軽機関銃の弾は250発入りの弾薬箱が残っている。

 それ以外は子供達のランドセルに残っている予備弾薬だけか。

 「結構残っているじゃあ無いか」

 積極的に撃って出る戦場なら心許ないが、敵を避けて迂回するには十分だ。

 と……しておこう。

 俺が慌てても皆を不安にさせるだけだ。

 

 「新しい武器も有るよ」

 ヴィーゼが手に持つ銛を差し出す。

 それはさっきから見えていたが長くて邪魔だろうに、森の中で銛ってどうなんだ?

 駄洒落でも笑えないぞ。

 まあ、ヴィーゼが撃てる銃はゴーレムに支えられているモノだけだからそれでも無いよりかはマシなのか?

 その銛、三姉妹も持っていた。

 この三人には全く意味が汲み取れない。

 銃でじゅうぶんだろう。

 

 「移動だ」

 何時までもここに止まっていても仕方無い。

 下らない駄洒落が増えるだけだ。



 川の水に流されたお陰でか、道からは相当に離れた場所に居たので迂回するのもそんなに遠回りには為らないだろう。

 運が良ければ戦闘もせずにマンセル達と合流出来るかもしれない。

 「バルタ、敵の気配が有るなら早めに頼むぞ」

 耳をピクピクさせて頷いたバルタ。

 「エルはマンセルに砲撃されない様に連絡をしてくれ」

 位置情報だ。

 今でも、後方でドッカンドッカンと響いている。

 それらは橋かその後方だが、何時コチラ側に切り替わるかもわからない。

 相当数のシャーマン戦車が橋を渡って居る筈だ、もちろんエルフの歩兵もだ。

 孤立を狙って引き込んだのだから当たり前と言えばそうなのだが。

 それは直接戦闘の可能性も引き上げている。

 戦車同士で終わらせてくれると有難いのだが、森を焼き払う判断は勘弁してほしい。

 だがさっきの様に、逃げろの一言だけで撃ってくるのがマンセルだ。

 

 

 森を進む俺達。

 先頭はミスリルゴーレム達なのは変わらないが、その後ろに少し離れて残りはかたまって動く。

 土塊ゴーレム二人は最後方、荷物が減ってもうその二人だけでもじゅうぶんに担げる。

 なんなら1人でも良いのだが。

 2cm砲とmg34軽機関銃は、まだ弾が残っているのでその台座代わりも含めてだ。

 2cm砲を担ぐゴーレムは背中に迫撃砲の筒も刺している。

 弾の無いそれはただ太いだけの鉄パイプなのだが、エルは棄てる気は無いようだ。

 


 敵にも出会わず森を進んでいると。

 「大丈夫か? 顔色が悪いぞ」

 心配そうに俺の顔を覗き込むアン。

 

 「少し寒いが……問題無い」

 冬なのだ寒いのは当たり前。

 その上に水に入って泥々でボロボロに為った包帯も有る、だからどうしても上着は着たくないと上半身は裸のままだ。

 その上着もゴーレムの背中だ。

 それになんだか背中に違和感が有る……妙に痒いのだ。

 傷口が化膿でもしたのだろうか?


 「ヴィーゼ、後どのくらいだ?」

 心配してくれるのは有難いが、本隊に合流するまでが作戦だ。

 アンも俺を気にする依りも回りに気を配ってくれ。

 敵は何処に居るかもわからないのだから。


 「まだ……全然見えない、かなぁ」

 立ち止まったヴィーゼが首を振っている。


 と、その時。

 前方で大きな爆発音が響いた。

 音の大きさは小さいが距離は近い。

 「今のは?」


 「ミスリルゴーレムの所みたいです」

 バルタが教えてくれる。

 トラップでも引いたか?


 「あ! 今ので敵がコチラに気付いた様です」

 そのバルタが俺の包帯を引っ張り。

 「数人が走ってきます」

 そして、指を差す。


 「ホントだ……距離は2kmってところね」

 エルも頷いて居るが、エルはどうやってその距離を知るのだろうか?

 見えては居ないようだし。

 耳もそんなに動いている気配もない。

 鼻は三姉妹の方が遥かに優秀そうなのに。

 それに誰かがその存在を示した後でないと、エルもわからないそんな素振りだ。

 やはりエルフの能力なのだろうか?

 見付けた誰かの頭の中を覗いて、何かの能力を足しているとかか?


 「2kmなら2cm砲はギリギリ届くか……」


 「木が邪魔して当てられないけどね」

 エルは撃つ気は無いようだ。

 10発しかないので確実に当てたいのだろう。

 「それに様子見の偵察でしょう?」


 「成る程ね、それなら迂回して戦闘を避けるか……」

 その俺の一言を指で否定した。


 「もう走って行っちゃてるわよ」

 指した方向には三姉妹が居た筈……。

 姿は見えない。


 「また、勝手に……」

 止めようとしたその時。

 バルタがまた包帯を引く。

 「反対側にも居ます……挟まれて居る様です」


 「そちらの数は?」


 「多いです」

 イチイチ数えられない程にか?

 アメリカ式なら1分隊12名か。

 こんな森の中だ、分隊単位で動いている筈だが……。

 エルフの場合はそれもあまり意味は無いのだろうけど、通信手段が能力依存だ。

 となれば、この辺りの全ての分隊は繋がっている事に為る。

 バラバラでも全てが同じ作戦行動を取れるわけだ。

 1人、2人でも全体で動いている事と同じに為る。

 橋までの行きはそのバラバラのエルフ兵は偵察という依りも巡回かトラップを仕掛ける工兵かだったが、今ははなから戦闘を目的としたもの達だ。

 戦闘から逃げようとする少年兵とは違うのだろう。

 それとも、増援や援護が期待出来ないとわかっていたから逃げたのか?


 どちらにしても、今は。

 「見付かった時点で囲まれる可能性が有るわけだ」

 腰のmp-40を持ち上げて。

 「戦って、倒すしか無いか」

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