ナパームBの造り方
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うん。
やっぱりもっと頑張らなきゃ。
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その日の夜。
エルフ領側に向かうプレーシャから出る道の入り口で、38(t)軽戦車を停めてその砲塔の上に立つ。
後方にはグリーレ重歩兵砲が砲を上に向けて撃っていた。
その砲弾はマンセルが造った焼夷弾なのだが、砲の先に直接差し込む形でまるで砲の先に刺さったでっかいキュウイの様だ。
それを空砲で打ち上げる。
構造的には3.7cm砲の前差しの41HEAT弾と同じ……太さがまるで違うが。
モノはスティールグラネート42と言う名の100kg近い重さのデカイ榴弾をマンセルが焼夷弾に改造したものらしい。
中身は火薬を減らして、ナスサを魔法だか錬金術だかで容量を増やす事をしたもの……この世界のジェリカンに書かれているx200のアレと同じ事だそうだ。
それを次々に打ち上げている。
着弾点は一気に広がる炎で真っ赤だ。
それが所々に出来ている。
「森を焼き尽くすのでは無いのか?」
俺の背後に登ってきたアンが首を傾げて俺に訊ねてくる。
焼夷弾を撃ち込んでいる場所がバラバラでその間の距離も離れているのが不思議らしい。
「焼夷弾の目的は燃やす事じゃあないんだよ、周囲の酸素を炎で消費する事を目的にしているんだ……人は数パーセントの酸素の減少でスグに窒息するからな」
俺の世界のアメリカはベトナムのジャングルを焼き尽くそうと馬鹿な事をしていたが……それは土台無理だ。
怒りに我を忘れたか、それとも単に馬鹿なのかはわからないが……まあ、ジャングルに隠れるベトコンにイライラさせられていたのは確かだろう。
「しかし、こんなものマンセルは良く簡単に造れるな」
窒息という言葉に少し怯えたのだろう、それが焼夷弾の本当の怖さでも有るのだが。
そして、焼夷弾の中身は……俺でも簡単に造れる。
鉄のバケツに発泡スチロールを入れてガソリンを掛けるだけで出来てしまう……実際にやったことは無いが。
だが、偶然に出来てしまった経験は有る。
バイクの整備をしていた時に、ガソリンが近くに有った発泡スチロールに掛けてしまったのだ、ほんの少しだけなのだが発泡スチロールはその部分だけが溶けてドロドロのゼリー状のものが出来上がった。
その頃はまさかそれが焼夷弾……ナパームの中身だとは知らなかったのだが……。
焼夷弾は幾つかの作られ方が有るが、アメリカがベトナムで使ったのはナパームBと言われるもの、中身はガソリン33%、ポリスチレン46%、ベンゼン21%だ。
この内、ベンゼンは炭素が豊富な素材を不完全燃焼させる事で造れる、それは普通に森林火災でも発生する……つまりはガソリンで溶かした発泡スチロールを生木に塗って火を着ければそのままナパームBが出来上がるのだ。
恐ろしい事に……子供でも作れてしまう。
が、その事は黙っていた方が良さそうだ、この世界でも発泡スチロールはダンジョンに行けば簡単に手に入る。
子供達に真似されるのは勘弁したい……特に犬耳三姉妹は危険だ。
だから、適当な返事を返した。
「本当だな……マンセルは凄いな」
マンセルはそれをどうやって造っているのかは知らないが……さっきから見えている炎を見ると10分近くは炎を噴き上げている様だ。
それはナパームBと特徴が合致する。
たぶん、俺の知る方法とあまり変わらないのだろうと思われる。
川の手前を燃やしていた焼夷弾は、今度は川の向こうを狙いだした。
手前は完全に火の海にされれば、もう俺達の出番は無くなる。
そんな所を生身で進軍は不可能だからだ。
そして、川の向こうには敵の大軍が隠れているのはあの文書でわかっている。
だからその場所に直接撃ち込めば、敵は2つの判断に迫られる。
こちらに攻めるか、それとも逃げるかだ。
俺としては逃げてくれた方が有り難いのだが……大佐の砲撃の指示は明らかにこちらに誘き寄せようと微妙に目標をズラしているようだ。
余計な事をと思うのだが……そのまま敵を焼き尽くせば良いのに。
まあ結果的にだが、その微妙にズラすという事が敵の判断の混乱を産んでもいる様だ。
ブービートラップにイライラしての攻撃に見えている筈だ。
それは、エルフ軍の集団がそこに居るとは思っていない、罠を焼く為の無差別な攻撃だと……だとしたら、今の戦力を整えている状態で動けばロンバルディア軍にエルフ軍の存在を教える事に為ると……。
エルフ軍が用意した大規模な作戦に狂いが出る事を恐れれば、不用意な反撃は出来ない。
それも踏まえての大佐の砲撃なのだろう、上手い作戦だ。
敵に反撃をさせないうちに壊滅的に焼こうという事なのだから。
「夜に嗅ぐナパームの香りは最悪だな……」
夜空を照らす森の中の赤い炎を見ていると妙に落ち着いた気分に為る。
これから人を殺しに行くのにもかかわらずだ。
俺は戦車から飛び降りて。
「さて、ルビコン川に魚釣りにでも行こうか……いや、大きな川だと言っていたな」
まだ戦車の上で赤く染まったアンを見上げて。
「サーフィンも良さそうだ」
俺は森に入った。
子供達も一緒だ。
そこに何故かアンも混ざっていた、mp-40サブマシンガンを両手に抱えて低い姿勢で俺の後ろを着いてくる。
「私も戦える……」
だそうだ。
本来の仕事はもう終えたのだから、ここからは兵士として戦うのだと言って聞かなかった。
その必要は無いと何度も言ったのに、後方にだってやれる事は有る。
戦車はマンセルとあの場所に残している。
グリーレ自走砲との連携役でもいい。
こちらの指示した場所を爆撃して貰うための伝令役……別段、ペトラで事足りるのだが。
まあ、後方は代わりの者は幾らでも居るのだが……。
それよりも俺が酷い怪我をしたからなのだろうが……そこまで心配する必要も無いとは思うんだが。
無理矢理に着いて来たものはしょうがないと諦める事にする。
俺達は森の火の手の無い所を探して、爆撃地点を迂回しながら進んだ。
それでも、冬の筈がやたらに暖かい。
離れた所の炎が辺りの温度を相当に挙げている様だ。
少し動いただけで汗だくに為る。
「バルタ……敵の気配は?」
今回は始めから前後を短くしていた。
それでも先頭はミスリルゴーレムでそのすぐ後ろは犬耳三姉妹で、真ん中のタヌキ耳姉妹とはそんなに離れては居ない。
俺と後方部隊との距離もだった。
「ありません」
そして、少し小首を傾げて。
「その他の動物の気配も……魔物の気配もです」
全く生き物の気配が無いのが不思議でしょうがないらしい。
『見付けた』
だが、それに意を唱える様に先頭の三姉妹が念話を飛ばしてきた。
『そんな筈は……』
バルタが不安げに答える。
『うん、バルタが正解』
『見付けたのは敵兵の死体だから』
『不用意に近付くなよ』
俺と同じ失敗をするかも知れない。
『わかってる……大丈夫』
その返事と同時に銃声が響いた。
『死体をもう一度殺すから』
三姉妹の誰かが転がっている死体を撃ったのだろう。
しばらく進むと、その死体を俺も見付けた。
頭を銃で撃たれているが、死因はそれでは無いのは見ればわかる。
敵兵は白人の男で、奴隷兵士だろう。
その白い肌が黒く斑に変色している、特に唇や指の先だ。
チアノーゼだ。
この場所も焼夷弾のせいで酸欠に成ったのだろうとわかる。
だからバルタも生き物の全てが感知出来なかったんだ。
低酸素状態で10分以上、生きられる哺乳類ではハダカデバネズミが無酸素で18分が限界だと言われるがそれでも驚異的だ。
人間なら酸素濃度が6%を下回れば、その時点で意識を失いそこから6分が蘇生限界だ……詰まりは死亡。
ナパームBは10分燃え続けるので、その周囲の人間の生存は不可能に為る。
その燃料が燃え尽きれば、回りの酸素も戻るのだがその間が生き延びられない。
それにその事にも気付けない。
近くなら煙が見えるので一酸化炭素中毒症の危険が見えるのだが、ただ酸素だけが消費されたその外側は、それに気付いた時にはもう手遅れだ。




