元国王からの依頼
466ポイント。
そんなに毎日増えるもんじゃあ無いよね。
と、自分に言い聞かせておこう。
明日も頑張ろう。
また明日。
夕飯のグヤーシュをつつきながらに。
「アンを狙って居たヤツ等か」
俺は元国王の言う見張っている奴等に当たりを着けた。
差し当たりの驚異は無いのだろうと目の前の元国王の態度でもわかる。
が、それには元国王は笑っていた。
「それはわからんぞ……貴様が恨まれているかもしれん」
頷いたマリー。
「この人も監視されるかもだしね……元国王だし」
指を差された元国王は、今度はマリーを指差して。
「自分も随分と恨まれておるじゃろうが」
「私が何をしたって?」
キッと睨み返した。
「色々あるじゃろう、金返せって爆弾を投げ込んだりもしたじゃろう……色んな所に」
「借金を踏み倒そうとしたからよ……正当防衛だわ」
頷いて。
「借りた金を返さない悪党を凝らしめただけよ」
……借金の取り立てに爆弾を投げ込んだのか。
どんな悪徳金融だ。
「あんただって、国を乗っ取ったのだから相当じゃないの」
確かにそれは恨まれる事だろう。
「わかった……子供達や娘達以外はその可能性が有るわけだ」
このまま放っておけば喧嘩に成りそうな勢いなので話をはぐらかす。
いい大人が子供相手に本気で喧嘩なんて見たくもない。
実際は見た目が子供のマリーの方が年上らしいが……その見た目でアウトだ。
「娘達も美人ばかりじゃし……ツキ纏われて居る可能性もじゃな」
「それなら、美人ばかりを囲ってるあんたも、やっぱり恨まれて居るわね」
今度は二人して、俺の攻撃か?
「うちにはそう大した美人は居ないぞ……だから俺はそれで恨まれる事は無い」
そう宣言してやった。
ぐうの音も出ないのか、驚いて黙り混む二人。
しかし、話は上手く納めれた様だ。
喧嘩には発展しなかったのでヨシとして、食事の続きだ。
次に運ばれて来た料理はステーキだった。
大きくて赤い肉汁が滴るミディアムレアな肉。
それが元国王に。
マリーに配られる。
最後は俺かと受け取った……客人でエルの恩人だからなとその順番には納得。
が……俺の皿には小さく焦げて縮んだ肉が乗っかっている。
なんで?
と、アリカを見ればギリリと俺を睨んでいた……。
いや、アリカだけでは無い……目に入る全ての娘達全員でだ。
あ!
元国王とマリーを見る。
ニヤリと笑って肉を頬張っていた。
なんの嫌がらせだ。
……。
そう言えばまだ、ミスリルゴーレムの謝礼金を払っていないと思い出す。
話の流れも考えれば、それか?
仕方無いので、懐からカードを出して前に掲げて見せた。
「なんじゃの?」
「代金だ」
給仕を続けるミスリルゴーレムを指差して。
金を払わないなら爆弾?
確かに大きな爆弾を投げ込んで来た。
自業自得とはいえ……。
これは酷すぎると逆らう気にもなれない程のヤツをだ。
「必要ないぞ」
「要らないわよ」
だが、二人して首を振る。
「だが……しかし」
今の話はなんだったんだ?
違うのか?
困惑していると。
「では、体で払え……ダンジョンの探索を手伝ってくれればよい」
横で頷いたマリー。
「そうね、そうしときましょう」
「え……ダンジョンですか?」
少し離れた所から声が飛んで来る。
マンセルが聞き耳でも立て居たのだろうか?
それとも単純にダンジョンと言うワードに過敏になっているのか?
とにかく、嫌な顔に成っているのは確かだ。
「そう言えば、余ったミスリルは何処に行ったのかしら?」
そのマンセルに聞こえるようにマリーがポツリと。
「あれだけあれば、結構な金額に成るのう」
元国王も。
しかし、確かにそうだと俺も思う。
まさか……着服?
と見れば、それにはオタオタとしているマンセルだった。
ここに有りますよとは言えない理由が有るようだ。
「まあ、ダンジョンとは言っても一般的なヤツじゃあ無い」
面白がっている様にも見える元国王。
「普通のとは違うって……何が?」
しかし、マンセルはもう気にしなくても良くなったので、気になる方を聞いた。
「転生で現れたダンジョンでは無くて、元から有るヤツじゃ」
それも良くわからんと、俺とマンセルは同時に首を捻る。
「古代遺跡よ」
肉を齧り、指で地面を差すマリー。
俺も地面を指差す。
「遺跡?」
マンセルも指差す。
「何処です?」
「ここじゃ」
元国王も地面を指差した。
元国王の話だと、この荒野の地下遺跡が在るらしい。
らしいとは、元国王もその入り口がわからないからだ。
なのに在ると言い切るのは、以前に偶然迷い込んだ事が有る言う。
なら、その同じ場所はと聞くと……わからんの一言で終わった。
そんなわけで、明日からは遺跡の入り口探しだ。
一応のヒントは有るらしいので、取り敢えず元国王に任せておこう……見付けられないなら、それはそれで構わない。
俺は、その遺跡自体に興味も無いのだし。
暇潰しと、代金がわりの実績造りで手伝うだけだ。
口約束でも契約は成立。
期限は7日間で遺跡の調査だ。
たぶんだが……俺もマンセルも元国王の茶番に嵌められた様だ。
翌朝。
テントから這い出した俺は、先に起き出していた元国王を見付けた。
なにやら自分の掌と話している素振りだ。
「見張りの見張りは、何だって?」
近付いて聞いてみた。
やはり、元国王に焦っている所は見られない。
驚異はまだ薄いままの様だ。
「ふむ……」
その元国王、少し考えて。
「何処ぞに消えたそうじゃ」
「消えた?」
見失ったのか?
「ワシ等から離れる様に後退したと、そう言っとるの」
ゾンビ蜂がだろう。
「それは、逃げたとか?」
「わからん……蜂との念話の距離を越えただけじゃが……」
やはり考え込んでいる。
「その蜂の見張りはまだ、そいつ等に着いているのか?」
それには、頷いた。
「見張り自体は続けている……筈じゃ」
「気付かれないうちに殺られた可能性は?」
「無い事もない」
否定はしない様だ。
「だが、近くに居ないのは確かじゃ」
別の蜂が近所を飛び回って居るからわかる……そうなのだろう。
まあ、俺にはバルタやヴィーゼも居る。
近付けばその二人にはすぐにわかる筈だ。
遠くまで聞こえる耳と高い位置からの目。
普通の者では想像もつかんだろう、なら対処もない。
「居ないなら、朝飯を食って地下への入り口を探そうか」
笑って。
「見られていないうちに地下に潜れば、そいつ等も俺達を見失うだろうしな」
でっかいキッチンカーとトレーラーをどう隠すかはその時に考えればいい。
朝食はパンとコーヒーと昨日の残り。
皆が旨そうにたいらげている……が。
俺は1人……皿の上のモノをフォークでつついていた。
焦げて居る……しかもガシガシだ。
これは謝るべきか? と、考えるのだが、どう謝るのかがわからない。
俺は嘘を着いたわけでもない。
口に出すべきモノでは無い事を……ポロリと滑らせただけだ。
だいたい、ブスだとは言ってはいないのだ……ただ普通だとだけの事。
普通の何がいけないのだ?
女の子に普通は禁句か?
……。
俺は、普通が良い。
普通の肉が食いたい……。
つつき過ぎた肉が皿から落ちて、地面に転がった。
茶色い砂にまみれて、きな粉をまぶしたお萩の様な成りだ。
「これをどうぞ」
後ろから近付いてきたミスリルゴーレムの1体が、俺の皿には肉をコッソリと乗っけた。
赤身の見える普通の肉。
微妙に齧った後が有るがそれでも嬉しい。
誰の歯形かを、辺りを見ればエルがこちらをチラチラと見ていた。
優しい子だ。
そして思い出す。
エルはエルフ混じりだと特別に見られる事を嫌って居たのだ。
エルは普通に憧れていたのだろう。
俺もエルにコッソリと近付いて礼を言っておく。
「有り難う」
「何が?」
「肉が?」
俺の指した肉を見て。
「それは、たぶんペトラの歯形ね」
少し離れた所のペトラを指差していた。
花音の横に座っているペトラ。
微妙に頬が膨れて見える……。
たぶん、口の中に頬張り過ぎたのだろう……。
たぶん。
たぶん……きっと。




