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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界の暮らし
200/317

ネクロマンサー

434ポイント。

今日はそのまま。


また明日だね。

みんな応援ありがとう。



 元国王が手を降り下げたと同時の雄叫び。

 遠くの方からは地響きも伝わってくる。

 そして、それが徐々に近付いて……巨大な亀が姿を現した。

 

 「倒した奴の仲間か?」

 俺はその亀に目が張り付いた。

 それは俺だけでは無い、味方も敵もだ。


 「ワシの眷属じゃ」

 元国王が高笑い。


 「さっきの死体よ……あれはゾンビ」

 呆けた俺に、マリーが説明をくれる。

 「小さいのも居るわよ」

 指差す、亀の足元。

 無数の一角ウサギが跳ねていた。

 

 『ペトラ、あれは味方だとマンセルに教えてやれ」

 そう叫んで俺は丘を飛び出した。

 真っ直ぐにキッチンカーへと向かう。

 『ハンナ、車の中には誰か居るか?』

 見張りの数が知りたい。


 『私達に銃を向けてるのは2人』

 返事はすぐだった。

 『二人とも外を見ている』


 『こっちは1人』

 補足としてかコリンが伝えてくれる。

 『こっちも同じ』


 それは外に居る連中も同じだ。

 余所見をしているうちに、近付きたい。

 

 親衛隊擬きの集団に最初に取り付いたのはマンセルとローザの戦車と国防警察軍の戦車だった。

 次々と砲撃を開始している。

 敵の戦車はルノーFT軽戦車なので、ローザの5cm砲は当たり前に、マンセルの3.7cm砲でも一撃で穴を開けられる。

 国防警察軍の機銃は撃てる数は多いがその殆どが弾かれていた。

 希に食い込む弾は2cm砲ゾロターンか?

 その少し強力なヤツを装備しているL3のCv35/731(i)も混じっている様だ。

 ちなみにCv35/731(i)のiはイタリアを意味している38(t)のtがチェコだと言うのと同じだ。

 第二次世界大戦中、早々に降伏したイタリア軍からドイツが接収した車輌、L3豆戦車の事だ。

 元々は第二次世界大戦前にイギリスのガーデンロイドが造った豆戦車なのだがそれをイタリアが独自発展させたのがL3豆戦車。

 はっきり言って第二次世界大戦中では最弱の部類の戦車だった。

 まだ敵の乗るルノーFT軽戦車の方が遥かにマシ。

 そのルノーFTもマンセルの乗る38(t)の餌にしか為らないのだが。

 ローザのレオポルドなら無双状態だ。

 

 一瞬の注意をマンセル、ゾンビ亀、マンセルと往復させた親衛隊擬きは完全に反撃をするタイミングを逃していた。

 それでなくても戦力差は歴然と有るのに、主導権を手放した親衛隊擬きにはどうする事も出来ない。


 その最初の突撃が落ち着いた頃。

 親衛隊擬きは動きを止めて、その場に武装を投げ捨ててその両手を上げた。

 こちらが完全に包囲したのだ。

 四方八方から向けられる銃口に逃げ道も無いと諦めたのだろう。


 俺はそのまま走り続けてキッチンカーに飛び乗った。

 中でも形勢は逆転している。

 敵の持つ銃を取り上げたハンナとアリカが襲撃者達を膝ま付かせてその両手を上げさせていた。


 「そのままで」

 俺は娘達と襲撃者達に同じ言葉を投げて運転席に座って車を動かした。

 

 敵の集団からユックリと離脱するキッチンカーとトレーラー。

 進めた先は警察軍の豆戦車が並ぶ前。

 その1輛の砲手を努めて居たアンの父親を見付けて。

 「そちらの中に眠ってるよ」

 と、トレーラーを指差した。


 「逮捕だ!」

 俺の一言に叫びを上げるアンの父親。


 同時に警察軍が走り出して、親衛隊擬きに手錠を掛けて回る。

 冒険者達とマンセルは反抗させない為に周りを固めていた。


 キッチンカーの襲撃犯は二人共に大人しく引き摺られていく。

 トレーラーの中の一人は、アンの父親に訴えていた。

 「なんの罪での逮捕だ」

 警察軍の拘束には素直に従ってはいるが、言葉でのせめてもの抵抗か?

 言葉は冷静にも聞こえた。


 「誘拐と窃盗だ」

 アンの父親はその犯人の言葉にもキチンと答えようとする。


 「そんな覚えは無い」

 抵抗を続ける犯人。

 

 「この二台の車両と、中の奴隷は俺の持ち物だ」

 俺はそこに割って入った。

 「キャンプ中に移動させる事を許した覚えは無い」

 俺は自分のカードを取り出して、それを掲げた。

 その俺の後に囚われて居た娘達が並ぶ。

 「銃で脅されてた」

 「アンお嬢さんを探してた」

 口々に告発をするコリンとクロエ。

 

 そこに警察軍が男を一人、連れてくる。

 「親衛隊の司令官だと名乗っています」


 「これは不当逮捕だ……我々は職務を全うしたに過ぎん」

 後ろ手の男はこうべを突き上げるかの様な態度。

 

 「その職務が窃盗か?」

 俺は問い質す様に。


 「……保護だ」


 「ほう……」

 睨んで。

 「貴族の俺が、友人であるアンを誘拐したと?」


 「……」

 何かを考えている様だ。

 「危険な場所で、娘達だけが乗る車両を見付けたからだ」


 「そうフィールドは確かに危険だ」

 俺は頷いた。

 「だが、その動かした車両の外に6才の子供が居たのは……なぜ放置した?」

 

 元国王が自分の車を動かしてこちらに来ているのが見えたので、それを指差す。

 「一人、おいてけぼりにされて……怖くて泣いていたのを見付けたぞ」

 微妙に意味合いは違うが、言葉では間違ってはいない。

 実際においてけぼりにしたのはイナやエノ達の子供達なのだが。


 「そんな者は知らん」

 だが、それでは辻褄が合わないとでも思ったか司令官と名乗った男は続けて。

 「でっち上げだ」

 俺が嘘を言っているとしたいのだろう。

 今の状況では、警察軍に対しての言い訳なのだから。


 「ワシも見たぞ……確かに泣いておった」

 元国王が車から降りてきて、助手席のヴィーゼを指した。


 「ジジイはスッ込んでろ……お前には関係は無い」

 元国王に凄んで見せる司令官と名乗った男。


 言われた方の元国王は笑っていた。

 関係が無いと言われればその通りかもしれんと、そんな感じか?


 だが、アンの父親は違った。

 「貴様は、親衛隊の者なのだろう?」

 声には凄みが増している。

 「この御方の顔には見覚えが無いのか?」

 見た目は小汚ない成りのジジイだ、パッと見ではそれが元国王とは誰も思うまい。

 実際にうちのジジイ、ヴェルダンの当主も最初はわからなかったのだし。

 このアンの父親も屋敷での事がなければわからない筈だ。

 人は見た目で最初の判断をする。

 そしてそれはそのまま思い込みに為る。

 「貴様は親衛隊でも余程の下ッパか?」


 何を言われているのかはわからないとそんな顔だが、侮辱はされたとその事だけは理解した様だ。

 「私はこの部隊を任された司令官だ」

 数十輛の戦車に、数台のキューベルワーゲン。

 そして多数の親衛隊の兵達を誇示したいのだろう、胸を張って言い切った。


 「なら……もう一度、この御方の顔を良く見ろ」

 馬鹿に言って聞かせる声音に成っている。

 「元国王様だぞ」


 目を細めた親衛隊の司令官。

 「何を馬鹿なことを……」

 だが、言葉の端に不安がにじり寄っているのも微かに見える。


 「元国王がネクロマンサーだと言う事は有名か?」

 その二人に尋ねた俺は、最中の銃を握った。

 もう一人、小次郎にも聞いたのだ。

 

 それには頷いた二人。

 そして小次郎もそうだと返してきた。

 

 俺はそれを確認して、クルリと反対を向いて。

 今はそこいらを跳ね回る一角ウサギを銃で撃った。

 

 「何をするのか……」

 元国王が唸る。

 それと同時にアンの父親と親衛隊も唸りを上げた。

 撃たれた一角ウサギは一度その場で倒れたのだが、直ぐに起き上がりこちらを向いて小首を傾げる。

 何かされましたか?

 そう尋ねる様に。

 

 「あのウサギもゾンビなのだから撃たれても平気でしょう?」

 俺は元国王に笑って返す。


 「確かにそうじゃが……傷は残るじゃろうが」

 自分の眷属なのだから、あまり気分の良いものでは無いのだろう。

 

 「あとでローラに縫って貰うよ……そう言うのが得意な者も居るので」

 一応は元国王にも頭を下げる。

 そして向き直って。

 「この国にネクロマンサーは何人居る?」

 その答えは聞くまでもない。

 ネクロマンサーというスキルは特別で、常に世界で一人だけだ。

 そして、ゾンビを眷属に出きるのは元国王ただ一人だ。

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