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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界の暮らし
191/317

ルーラーデンとアプフェルクーヘン

394ポイント!

上がった。

良かった。


みんな応援ありがとう。

まだまだ頑張る。

また明日!



 屋敷に戻ればとても良い匂いがした。

 そして屋敷の裏手、小屋の前で小さな騒ぎにも成っている。

 

 「相変わらずに騒がしいな」

 ジジイが呟くも、嫌な顔には成っていない。


 それでも一応は謝罪だ。

 「あまり騒がない様に注意はしておきます」

 

 それには首を振るジジイ。

 「まだ子供なのだろう、多少は構わない」

 そして鼻を鳴らした。

 だがこれは気に食わないと言うわけでも無さそうだ。

 「甘い匂いがするな」


 「子供達がお菓子でも造ったのでしょう」

 焼菓子か……ケーキの様な甘い香り。

 これは中々に食欲をそそるモノがある。


 俺はそちらへと歩いて進む。

 何故かジジイも後ろを着いてきた。

 ジジイも、この甘さに誘われた様だ。


 「アリカ、これは?」

 キッチンカーの前の集団を掻き分けて、中で作業をしているアリカに尋ねた。

 

 「リンゴを貰ったので、アプフェルクーヘンを焼いて見ました」

 見れば、アップルパイだ。

 ドイツ風だとそう言うのか。


 「いや、焼いた肉ロールが旨かったのでそのお礼にだよ」

 声を掛けてきたのは屋敷のシェフ。

 居たのか……と、見れば屋敷の使用人の殆どがそこに居た。

 群れる冒険者達に紛れてしまい、わからなかったのだ。


 「ルーラーデンです」

 アリカが横の皿を指差す。

 確かに丸められて焼かれた肉だ。

 「パトが出掛けている間に暇だから、狩りに行ってたの」

 「そしてら良い感じの豚牛が居たので仕留めた」

 「ほら、あれ」

 犬耳三姉妹が指差した先には、牛にしては小さい、豚にしては大きい、姿はそのどちらとも言えない形のモノが横たわっている。


 「俺と一緒でないと、屋敷の敷地からは出ない約束では?」

 少し声のトーンを落として三姉妹に告げる。

 その俺の目の端にはジジイが映って居た。

 その目線は子供達にも理解出来たようで、すぐに謝る。

 「ご免なさい……」

 小さいが声は揃えられて居た。

 そしてジジイにも聞こえるようにだ。


 「怒らないで、私が頼んだの」

 キッチンカーの後ろのトレーラーハウスから出てきたのはムーズ。

 その後ろには花音も見える。

 「私が、これに一度乗ってみたいって言ったら、そしてら狩りに行こうってなってしまって」

 そのムーズも俺の背後のジジイを見付けたのか、そちらをチラチラと見る。

 

 俺もジジイを見る。

 

 「子供達だけで……危ないでは無いか」

 ジジイは狩られた魔物を見て。

 次に、銃を肩から下げた子供達に目を向ける。

 「魔物以外にも……危ない事は有る」

 今度は、ムーズを見る。


 「ムーズが一緒なら……それも無いとは思うが」

 ジジイの心配した事は、対人間なのだろう。

 獣人である子供達が、街の人間に何かされるのでは無いかと……だ。

 「まあしかしだ……お前達は戦えても、ムーズは普通の御嬢さんだぞ」

 俺もムーズに目を向けた。

 ヒラヒラの白いドレスの12才の女の子然とした女の子。

 「貴族のお嬢様が魔物相手に立ち回りなんて無理だろう」

 自分の言葉に頷いて。

 「お嬢様のイメージが壊れる」


 「それは……私に対しての嫌味か?」

 背後からのドスの効いた声。

 振り返ればそこにアンが居た。

 「確かに下級貴族だが……私だって貴族の娘だ」

 少し恥ずかしそうに続けて。

 「お嬢様と呼ばれる事もある」


 おっと、何故ここに居る……とは聞かない方が良さそうだ。

 「いや、アンの事を言ったわけでは無いのだが」

 シドロモドロに成ってしまった。

 ほんの少しだが、冷たい風も吹き抜ける。


 「まあ、命に変えてもムーズを守るとそう言う気概なら……日帰りくらいの距離は許してやらんでもない」

 またもやジジイに気を遣われた気がする。

 「ムーズも屋敷に綴じ込もってばかりでは退屈だろうしの」

 その手前には焼き肉ロールとアプフェルクーヘンを差し出しているリリーが居た。

 「ふむ……これは旨いのう」

 肉ロールを摘まむジジイ。

 そのままリリーに促されてムーズの乗るトレーラーハウスに入っていった。

 

 で、残されたアンには、俺が手近に有ったアプフェルクーヘンを摘まんで、その口に放り込む。

 「ナイスタイミングの登場だ」

 実際にアンが怒っているのかはこの際関係が無い。

 しかし、結果として子供達がジジイに怒られる事は回避できた。

 「流石はアンだ、良い仕事をする」

 そう言ってやって大きく頷いた。

 

 何が何だかわからないとそんな顔だが、自分が誉められているのは気分が良いらしい。

 甘いケーキも手伝ってか、アン自身も上手く誤魔化せた様だ。

 

 「で、どうした?」

 まあ、何も用事が無くても来るのだが、一応は聞いておこう。


 モゴモゴと頬を抑えながらに喋ろうとするアンに。

 「誰か……飲み物を」

 と、辺りを見渡す。

 

 程無く、エノがカップを持ってやって来た。

 何時ものコーヒーかと思えば違うようだ、俺にもくれる。

 「紅茶?」

 

 「ムーズ様がコーヒーは苦手だって言うから」


 「成る程……子供舌か」


 そして紅茶で口の中のモノを流し込んだアン。

 「父上からの伝言だ」

 余程に美味しかったのだろう、口の中を名残惜しそうにして。

 「明日はもう行かなくて良くなりそうだ……って言ってた」

 

 ん?

 少し考えて理解した。

 詰まりは、もう公爵も親衛隊も警察軍も明日のテーブルには着かないとそう言う事なのだろう。

 元々が関係が無い者達なので、明日からが本当の報告に為るなだろうって事だ。


 だが……もう別段、報告する事も無いのだが。

 今日は出来なかった詳細の確認なのだろうか?

 明日も来いと言ったのは公爵なので、その公爵が来ないなら……形だけ?

 どちらにしても、公爵にとっては息子の死はもうどうでも良いのだろう。

 手柄を形にする方が優先順位は高いと見える。

 面子にしか興味が無い様だ。


 さて、俺が死ねばジジイはどうするのだろう?

 公爵と変わらんのだろうか?

 まあ、血の繋がりも無いのは確かだし、そうなるのかも知れないなと思われる。

 実際に小次郎は死んでも、さして騒がれて居ないのだから。


 だが考えてみれば、俺は転生者でたまたま手に入れた貴族の名前だ。

 先祖代々のしがらみも無い。

 血の繋がりも何処にも無い。

 死んでも誰も気にもしないのは当たり前でも有るのだろう。

 この世界に貢献したモノが無さすぎる。

 それに俺自身も、ここを外国だと思い、故郷だとは感じては居ないのだから……そこで得られるモノも同程度にしか成らないのは当たり前でも有る。


 帰れる場所も無いのだがな……。

 どうせ転生するなら、魔物の居ない平和な世界にして欲しかった。

 魔法も要らない、文明レベルも同等の異世界。

 ……。

 元の世界と変わらない場所だな。

 変化の無い所。

 ちょっと遠い外国レベルだ……それだとどうだろう、生きる為の手段は有るのだろうか?

 もしかして、ここの異世界が俺の能力には丁度良い世界?

 俺のレベルって……。


 ……。

 考えるのはよそう。

 気が滅入りそうだ。


 キッチンカーのアリカに目を向けて。

 「俺にもアプフェルクーヘンってのをくれないか?」


 「あ……」

 アリカがチラリとアンを見た。

 今、手に入れたであろうアプフェルクーヘンを美味しそうに頬張っていた。

 

 「あれが最後です」

 アンを指差したアリカ。


 俺の眉がみるみる下がるのを見て慌てて。

 「さっき持っていったから、もう食べたと思って……」


 それはアンの口に放り込んだヤツだ。

 俺はまだ一口も食べていない。

 チロリとアンを見る。

 「アン……それは二つ目だよな?」


 言われたアンは、明らかに作った顔で……何の事?

 はてさて。


 「それを寄越せ」

 

 と、一気に全部を口に入れたアン。

 結構な大きさのアプフェルクーヘンをだ。

 「もごもごなおご……」


 たぶんだが……もう無いとそう言っている様だ。

 

 その様子を見て呟く。

 「お嬢様だ?」

 さっき自分でお嬢様だとぬかしていなかったか?

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