ダンジョンでの1日
俺はキャンピングトレーラーのエアストリームのベッドで目が覚めた。
窓越しの朝日が瞼を射して眉間にシワが寄る。
日除けのブラインド……一応は車輌なのでサンシェードと言った方がいいのか? それを下ろし忘れて居たようだ。
寝心地はとても良かったが、気分は最悪だ。
昨日のわけのわからないイライラを引き摺って居たからだ。
それでも随分とはマシには為っていた。
あれは、たまたまの体調の悪さが気分に出ただけだと自分には言い聞かせている。
興奮と緊張の糸が切れたそのタイミングに重なっただけのことで……別段、大した事もない、そんなものだ、と。
起き上がった俺は、左右に寝ている三姉妹を起こさずに気を使いながら、足の上のバルタを摘まんで横に退ける。
相変わらずの裸だが、もうそれも当たり前の事に成っていて別段、気にも為らない。
狭い通路の右手に在る小さいシンクで顔を洗った。
水もお湯も普通に出ている。
昨日のうちにマンセルがそれ用の魔石を仕込んで置いてくれたのだ、だから延々と補給無しに水は使えるそうだ。
小屋の風呂と同じ要領らしい。
廃水、汚水は一応はタンクに貯めて、何処かで流す必要は有るらしいがそのタンクも例のジェリカンと同じで魔法を仕掛けて有るとのこと……詳しくはわからないが相当に溜めても大丈夫だと言っていた。
それでも結局は何処かに捨てねば為らないのだけど。
そのまま通路を進み、一番奥のトイレを目指す。
「ブギュル……」
踏んだのはヴィーゼだった。
廊下に直接、寝ていた。
そしてやっぱり裸だ。
俺に踏まれたヴィーゼが眠そうな目を擦り起きてくる。
そして何も言わずにフラフラとした足取りで風呂場に向かて行く。
風呂とは言ってもシャワーだけだ、それもトイレと一緒のユニットタイプ。
「おい、トイレが……」
俺の問い掛けに、ボソッと答えたヴィーゼ。
「外で……」
溜め息が出る。
コレでは直ぐに廃水も溢れそうだ。
仕方ないので狭い通路を引き返し、その途中でソファーに寝ていたエルの足を蹴飛ばしてしまった。
「シュコー」
起きたのか寝ているのかもわからん。
そのソファーにはイナとエノも一緒に寝ている。
このエアストリームだが、2つ有ったうちのデカイ方……たぶん30フィート越えの最大サイズのやつなのだろう。
それでも子供達が至る所に溢れている。
やはり、全員で寝るにはちょっと無理が有るようだ。
小さい方はこちらの半分程のサイズだが、そちらには村娘達と花音にアンも合わせて寝ている筈だ。
合計で11人。
様子は見ては居ないが……ちょっとどころでは無くて無茶な気がする。
それもこれも、俺のもうホテルの階段を上るのが嫌だったからで、偶然見つけたエアストリームをダシに使ったのだが。
これはフィールドで使えるのでは?
一度、試してみようと……そんな感じだ。
結果としては、やはりテントも必要だとの確認は取れた。
まあ、わかっては居たのだけど……備え付けの家具やらは明らかに少人数用だし。
その点、テントは融通が効く……設営に時間は掛かるのが面倒なだけだ。
だが、大見得を切った手前もあるし……次に遠征に出るときは、キッチンカーに繋いだ小さい方をそのままの状態で持っていく事にしておこう。
寝るのはテントで、キャンピングトレーラーは休憩用として……かな?
で、本題の仕事の方なのだが。
全員で朝飯を食べて、直ぐに取り掛かる事となった。
その時のキッチンカーを見るに、俺達だけでなく冒険者達の大人数にも対応出来ていたのは凄かった。
野戦炊事車としての能力が高いのと、アリカ達の能力が高い、その両方での事では有るのだろうが、小一時間で準備を終えてしまうのは大したモノだと感心だ。
こちらはフィールドでも確実に使えるだろう。
何よりアリカが喜んで居たのが見えたので、それが一番に良かった。
その食後。
ダンジョンの街を、冒険者達を引き連れて練り歩く。
最初は試しも有るので、小さい車からだとの希望で鍵の刺さった路上に緊急退避した軽自動車を見付けては、それに触れていく。
動く様に為った車は、順番に冒険者の1人が運転して何処かに運んで行った。
スペースも考えれば、ダンジョンの外にでも停めて、溜めてもおくのだろう。
やはり、簡単な仕事だ。
次々とそれをやり、すぐに終わる。
歩いて……確認して……触れるだけだ。
ノルマの30台は一時間も掛からなかった。
次にバイクだ。
こちらは退避させたモノが少ないので、前に行ったバイク屋……三姉妹のモンキーが置いてあった店で、それも次々と触れていく。
ただし、こちらはローザの指示でだ。
スクーターを少しと。
大排気量の大型を少し……メインはアメリカンタイプに為った、それは詰まりはハーレーだ。
モトグッチ1100スポルトが1台、コレはローザが気に入って個人で乗りたいのだそうだが……ドワーフの低身長で足が届くのかは疑問が残るところだ。
それと、マニーのスフィーダ1100……先のモトグッチのエンジンを積んだカスタムバイクメーカーのモノだ。
コレもマンセルが個人で乗るのだそうだ。
シート高は随分とは下がっているが……足は、どうだろう。
残りの殆どは、ホンダのスーパーカブかその125cc前後のサイズの小型車だった。
俗に言う実用車っぽいヤツばかりだ。
まあ、わかりやすく頑丈なのでこちらの世界では重宝されるのだろうと思われる。
馬力もスピードもあまり気にしてはいなさそうだし。
そもそもスピードに拘るなら、戦車なんて端から論外だろうからだ。
それも合わせても、昼前には終わってしまった。
後は自由時間で、皆がコレが欲しいと其々を探しては休憩している俺の所に持ってくる。
冒険者達の人気は腕時計だった。
マンセルは簡易発電機やら芝刈機やら……とにかくエンジンの着いたもの、どこで見付けてくのやら、だ。
ローザは花音が持っていたカメラと同じモノを見付けてきた。
子供達や娘達は……もう既にバモスの荷台に目一杯に詰め込んである。
服とお菓子だと思われる。
傷むのを嫌ってか、俺に時間凍結を解除させずに積み込んで居たのでたぶんそうだろう。
そしてその日の晩飯はカレーに為った。
大きなアルミの寸胴鍋での炊飯は初めてで少し不安でも有ったが、ゴーレム君に鍋の蓋を押さえてもらいハンゴウと同じ要領で作ってみたらばなんとか為った。
上から押さえるのが良かったのかも知れない、圧力鍋的な? かな。
カレーのルーはスパーのヤツを手当たり次第に放り込んで、ラーメンのチャーシューを適当に切って放り込んだのだがそれも当たりだったようだ。
ってか……カレーなんて、何を入れても其なりのモノなら失敗はしないのだろうけれど。
それを食べている皆の顔も良かった。
ニコニコとしながら、適当な話で笑いながらに食べてくれる。
冒険者達とマンセルはそれに酒まで入って上機嫌で唄い出していた。
初めて食べた味に驚いただけかも知れないが。
それでも花音も普通に食べて居たので、ちゃんとカレーライスに成っていたのだろう。
鍋が空に成ったのだから。
それは、作った方としてはやはりに嬉しい事だ。
そして、夜も更けて。
俺はまたエアストリームのベッドに潜り込む。
絶対に1人に為らないように気を付けながら、目を瞑った。
外の喧騒はいまだに続いている。
俺以外のオッサン連中の酒盛りだ。
酒の呑めない俺には、ただ五月蝿いだけの事だが。
それでも楽しそうにしているのはわかるので、別段文句も言わない。
まあ、飽きればそのうちに解散に為るのだろう。
俺は大きな欠伸で心を落ち着ける。
俺の足を枕にしているバルタの重さも、それはそれで心地よかった。




