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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界の暮らし
182/317

晩御飯はカレーが食べたい

380ポイント。

上がってる。


応援有り難う。

明日も頑張れる。

みんな有り難う。

また明日。



 俺は汗を拭う事もせずに深々とソファーに沈み込む。

 最上階の部屋は広かった。

 だが、それだけだ。

 ベッドも大きいし、ゲストルームも在り、そちらのベッドも大きい。

 高価であろう調度品や巨大なテレビも有る。

 だが、電気が無ければそれらはただの飾り。

 わけのわからない置物は、薄暗いところで見ても気持ちの悪いモノにしか見えない。

 パット見の印象がドンヨリとしか映らないその部屋の景色は、天井の幾つも有るライトに照らされて初めて栄えるのだろうと理解した。

 それは空調のせいも有るのだろう。

 濁った空気。

 冬の始まりの冷たさが部屋全体を満たしている。


 それだけ涼しい筈なのに俺の汗は止まってくれないのだが。


 「ねえ、これなに?」

 エレンが無邪気に指差したのは高い天井からブラ下がるシャンデリア。

 電気が無いので意味は無い。

 「さあ?」

 答えるのも面倒臭いので、俺はその一言で済ませる。

 

 「この黒い筒みたいなのは?」

 壁に向けたスポットライトを指差すアンナ。

 「さあ?」


 「こっちの黒い板は?」

 壁際の巨大な液晶テレビ……ネーヴだ。

 「さあ?」


 クラシカルな形の電話機を弄っているのはイナとエノ。

 目線が合ったので、首を傾げておいた。


 「うわ! 水もお湯も出る」

 何処かで聞こえるヴィーゼの声は、風呂を見付けたのだろう。


 「シュコー……」

 ガスマスクの麦わら帽子が、何やら差し出してきた。

 見ればジュースの様だ。

 備え付けの冷蔵庫の中に有ったのだろう。

 それを受け取り、プシュっと栓を開けてやる。

 アイスクリームの時も驚いたが、今回のジュースも俺が触れると途端に冷たく為る。

 時間凍結が溶けた結果なのだろうが、その一瞬の出来事にいまだに馴染めない。


 「美味しい」

 ガスマスクを口元半分だけズラしたエルが満足げに呟いた。


 「私も」

 そのエルの後ろに並んだのはペトラと花音だった。

 頷いて開けてやる。


 次に持ってきたのは小さな小瓶のコリンだ。

 「それは飲み物ではないぞ」

 一応の確認をして触れてやる。

 石鹸かオイルのアメニティグッズだろう。

 俺にも良くはわからん。


 「良い匂い」

 蓋を開けてみてのコリンの感想だ。

 喜んでいそうなのでそれでも良いのだろう。


 次から次へと持ってくるそれらを時間凍結から解放していると、次第に俺自身も落ち着いてきた。

 汗も引いて、心臓の鼓動も大人しく為る。


 「明らかな運動不足だな……」

 そして出た答えはそれだった。


 「戦車に乗りっぱなしで、歩かないから」

 アンの指摘も頷くしかない。


 「それよりも、お腹空いたね」

 と、イキナリにとんでもない発言をしたネーヴ。

 濡れて裸のヴィーゼもそれに反応したのか飛び出してきた。

 何も言わないが、ジッと俺を見ている。

 

 「さっき……食ったろう?」

 昼は……食っては居ないが、朝には喰った筈だ。

 今はもう夕方に近付いてはいるのだが……。


 「カレーが食べたい」

 花音が俺に注文を出してきた。

 「ここでなら、普通に材料がそろうでしょう?」

 

 スーパーを探して、時間凍結解除をしろと?

 それは、俺がその場に行かなければいけなく為るじゃあないか。

 君達だけで行ってきなさい……が、言えなくなる。

 

 「シュニッツェルにしときなさい……アリカは作れるよな?」

 花音もこの時の話を聞いていたのか。

 

 「作れるけど……小麦粉と卵が無いから」

 それを調達してこいとかか?

 

 イヤイヤ……それはと、立ち上がる。

 「ほら、昨日のスープ……あれも旨かったよな?」

 グヤーシュだったか?

 窓際に向かいつつ。


 「美味しかったけどさ……同じのは嫌だな」

 エレンがぶつくさと。


 「そうか……うん、良い景色だ」

 

 「そう?」

 横に立ったアンナが呟いた。

 「隣の建物の屋根しか見えないよ」


 確かにだ、この建物は一段高い様だが、隣のビルの屋上が目の前に見える。

 その先は、幾つも並んだビルの群れ。

 端の方に辛うじて見えるのは崩れた建物、例のショッピングセンターだった。

 大きく爆発して完全に崩れたと思っていたが、真ん中の階層だけがベチャッと潰れている。

 だるま落としの途中が抜けた感じか?

 流石は地震大国の日本の建物だ。

 多少の爆発では崩壊は無い様だ。

 そう言えば、昔に琵琶湖の畔のビルを爆破解体をして……失敗したらしい事を思い出した。

 建物が頑丈過ぎたと聞いたが、それと同じか?

 それ以前も以降も日本では爆破解体は殆ど無い筈だ。


 「じゃあご飯……行こうか」

 背後で声が聞こえた。

 窓の景色には興味をそそられない様だ。

 俺も全く興味も持てないが……。

 しかし、降りるのは良いが、また登るのはイヤだ。

 言ってらっしゃいと、言おうとした、そんな俺の服を引っ張るアンナ。

 それも軽くでは無くて、結構強引にだ。


 いや、しかし。

 登らなくても良いんじゃあ無いかと、ふと思う。

 下の低い階の何処かの部屋に変えて貰えば良いだけだ。

 何もこんな高い所に登らなくても良い筈だ。

 高い所なんて、煙とバカと自分を偉いと勘違いしたマヌケしか登らんのだから。

 

 「そうだな、行こうか……みんな忘れ物は無いようにな」

 と、見ればテーブルにmp-40とstg44が無造作に置かれている。

 「おい、忘れ物だ」

 誰のだ?


 「すぐそこだし、必要?」

 アンとアンナだった。

 「どうせすぐに帰ってくるのだしね」


 いえ、ここにはもう帰ってきません。

 「置いていかない」

 そう強めに告げた。

 

 

 ホテルを出た俺達は歩いてスーパーを探す事にした。

 が、三姉妹とニーナとオルガはバイクでだ。

 モンキーの三姉妹はブレ無いのはわかるが、ビーノの二人も相当に気に入った様だ。

 歩く速度にあわせてブイーンと言わせてユックリ走らせている。

 まあ、荷物を運ぶにはビーノの引っ張る牽引カーゴは便利そうなのでヨシとしておこう。


 

 そのスーパーなのだが、簡単に見付ける事が出来た。

 見付けたのは三姉妹なのだが、以前にアイスを食べた同じ様な建物を探せと告げれば、それだけで理解した様だ。

 食べ物の記憶は素晴らしいものがある。


 案内されたスーパー、結構な大きさだった。

 2階に衣料品店も入っている、女の子が好きそうな安い服のチェーン店だ。

 その事に気付いた娘と子供達は到着するなりバラけて走り出す。

 1階のスーパーに入る者、2階に服屋に向かう者。

 そして広いガレージをバイクで走り回る5人。

 バイクで走るなら、ガレージで無くても良いとは思うのだが……楽しいんだろうな。


 それは放って置いて、俺はスーパーの方に向かった。

 中では花音が先頭に立ち。

 ショッピングカートを押して走り回っていた。

 どうやら俺は最後の時間凍結だけで良いらしい。

 材料は勝手に好きなもの掴んではカートに放り込んでいる。

 

 まあ、調理を始める時に時間凍結を解けば良いだけだ。

 その方が食材も傷まなくていい。

 俺はまた外に出る。


 暇に為った。

 服屋には興味がない……てか、女の子の服選びに付き合う程の根性は出てこない。

 皆を置いて、そんなに遠くへは行けないしとガレージをうろつくしか無さそうだ。


 適当に歩いていた。

 ガレージに停まっている車には鍵が掛かっていてその鍵は無い。

 いくら治安の良い日本でも、流石に鍵を着けたままで車から離れる者もいない。

 明日の仕事はそこも考えないと行けないのかと唸りながらに歩いていると、ガレージの奥の端に屋台。

 たこ焼き屋とラーメン屋。

 どちらも車をベースに改造してある。

 その車はトヨタのウオークスルーバン……猫のマークのトラックと同じモノだ。

 その荷箱の部分にコンロや流しが着いている。

 それが、横に跳ね上げられた屋根? 扉? の隙間から覗けたのだが……。


 フム。

 

 『アリカ……ちょっと来てくれ』

 念話で呼び出した。


 程無く建物の2階から降りてきたアリカ、リリーも一緒だ。

 「なに?」

 忙しいんだけどと、愚痴る気満々の声音。


 「いや、これなんだけどな」

 そう言ってラーメン屋台を指差した。

 「走るキッチンなのだけど……どうだ?」

 そのままキッチンカーなのだが、曖昧に尋ねた。


 「うーん」

 中に入って行くアリカ。

 「火とかは使えるの?」


 「水も使える筈だ……後はマンセルに言って少し改造をしてもらえればどうだろうか?」


 「フム」

 アリカの目が少し輝いて見えた。

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