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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界の子供達
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逃がした魔物


 「ハズレましたあ」

 半泣きのバルタの叫び。


 俺は、すぐさま車内に潜り次の砲弾を掴まえて込める。

 「もう一発だ」


 豪砲。


 「当たりませ~ん」

 なさけなく。 

 

 装填手の前の覗き窓から覗いていた俺は。

 「もう少し上を撃て、砲弾は距離が離れると重力で少しずつ下に落ちるんだ……距離は照準器の中の十字の線と三角とを重て読むんだが、相手のサイズがわからない今は関係無い、とにかく撃って感覚を掴め」


 豪砲。


 「あ! 当たった!」

 

 遠くで猪の腹が撃ち抜かれていた。


 凄いな! やはり才能が有る。

 普通は動いている戦車から撃った所で当たるもんじゃない。

 いや、停まってしっかりと狙っても命中は難しいのに、それを三発めで当てるとは。

 

 「次も、絶対に当てます」

 照準器から目を離さずにバルタ。

 

 「次?」

 

 「まだまだ居ますよ、猪は」

 ハンドルを回して。

 「速く弾を込めて下さい」


 「……お、おおう」

 一匹じゃあ無かったのか!

 慌てて次弾を装填。


 「撃ちます!」

 今の一発で自信が付いたのか、ハッキリとした声で。


 「撃て」


 豪砲。


 「当たりました!」


 「また、当てたのか?」

 思わず唸る。

 

 「次をお願いします」

 砲を動かしながら。


 「何匹居るんだ?」


 「あと三匹です」

 ハッキリと言いきった。


 見えては居ない筈なのに。

 なぜわかるんだ?

 と、バルタを見れば耳が忙しなく動いている。

 音でか?

 方向だけで無く数までか……レーダー以上だ。

 もしかすると距離もわかっているのかも知れない、でないと連続して当てる事など無理だろう。


 「当たりました! 次を!」

 

 そうに違いない。

 弾を込めながらも感心するしかない。


 「一匹……こちらに向かってきます」

 砲塔を必死に回しながらに。

 もちろんそれには力を貸してやって居るのだが。

 その状態で、キューポラから頭を出して確認する。


 「何処だ?」


 「後ろです!」


 振り向けば居た。

 今、降りてきた棚田の上に巨大な影。

 それが真っ直ぐにこちらに突進してくる。


 「でかいぞ! 親父! 避けろ」


 「どっちだ? 右か左か?」


 「左だ!」

 素早く首を振り、段差のキツそうなそちらを指示した。

 勢いを着けて駆け降りて来るのだ、高さを利用して戦車の側面を守る。

 それくらいに大きいのだ、まともに体当たりされれば俺達の戦車はひっくり返へされてしまいそうだ。

 「壁に張り付け!」

 

 「バルタ! 砲は反対側に向けておけ」

 段差の壁はギリギリ戦車の高さだが、それでも魔物のその進行方向はカバー出来る筈。

 あの勢いだ、上を飛び越えるだろう。

 そこを狙い撃つ。

 

 戦車が壁を削りながらに張り付き、そこで停まった。

 「これで良いのか?」

 見えない操縦士には、さぞ不安だろう。

 だからハッキリと、力強く。

 「十分だ! そのまま動くな!」

 そして、砲も反対側に止まる。


 「バルタ、ヤツの気配はわかるのか?」

 確認だ、今更だがバルタに任せるしかない。


 「わかります」

 小声で、しかし冷静に……自信は込めて。

 

 「戦車長、頭を引っ込めて下さい」

 叫ぶマンセル。

 バルタとは対称的にビビりまくっている様だ。

 まだ、魔物自体を見たわけでも無い筈なのに。

 だが、その恐怖もわかる。

 振動だ。

 壁に張り付いたので余計に振動が戦車内に響く。

 走り来る魔物の低く腹に響く様な足音。

 それがドンドンと近付いてくる。


 「どんだけ大きいんだ」

 情けないマンセルの叫び。


 「遠目で見たが……この戦車よりもデカかったぞ」

 俺もハッチは閉じずにそのままで、頭を引っ込めて迎撃態勢。

 と言っても、それ事態はバルタに丸投げだが。


 「撃ちます!」

 バルタが叫んだ。

 と、同時に足音が消える。

 装填手用の小さな覗き窓に影が落ちた。

 慌てた俺は、頭をハッチから出す。

 目の前には巨大な猪の尻が宙を浮いていた。

 俺達を飛び越えて跳んでいる。


 豪砲。


 放たれた砲弾がその魔物の尻を突き抜けた。

 そのまま地面に激突して転がる巨大猪。

 ハッキリと見えたその大きさにも驚いたのだが。

 チラリと崖の上を見て……猪を見る。

 これだけの偏差射撃を一撃で当てるのか!


 「なんだよ……コイツは……」

 マンセルが操縦士席の上から顔を出して呻いている。

 「デカ過ぎだぜ……」


 転げ落ちて横たわる猪。

 その大きさはゾウの二倍は優に越えていそうだ。

 そして、太くて鋭い牙も見える。

 あれは、流石に戦車の鉄板は突抜はしないだろうが……だがそれで体当たりを喰らえばその体重も合わさって吹き飛ばされてしまいそうだ。

 実は結構……ヤバイ仕事だったのかもしれない。

 

 大きく息を吐いた俺は、そのままキューポラから半身を出して煙草を咥えた。

 ライターは戦闘中にズッと握りしめていたそれに火を着ける。

 

 「あれ?」

 マンセルがまだ不安げな声を出して。

 「もう一匹は? 全部で五匹だよな」

 指折り数えている。

 

 あ! と、煙草を投げ棄てて。

 「何処だ!」

 

 「もう……居ません」

 バルタが情けない顔をこちらに向けた。

 「一匹……逃がしてしまいました」

 今にも泣きそうだ。

 「一番デカいのを……たぶんこの子達の母親?」


 「まだ……これよりデカいのか!」

 倒れた巨大猪を見ながら。

 

 そして、直ぐにバルタに向き直る。

 「逃がしたのはバルタのせいじゃない……俺が確認しなかったのが悪い」

 その確認も、しようが無かったのだが……。

 暗くて、遠くて見えない。

 いや、俺が見付ける前にバルタが先に見付けてしまって居たからか。

 どちらにしても、あまり宜しくはない。

 「何処かで……双眼鏡を仕入れなければ……」

 有るなら、暗視ゴーグルもだが……そんな物は有る筈も無いか。

 

 もう一度、煙草に火を着けた。




 翌朝。

 村長達と村人が確認に畑にやって来た。

 巨大猪をまじまじと見ている。


 「済まない、畑を随分と荒らしてしまった」

 先ずはソレを謝罪だ。


 「イヤ……それは仕方無い、どのみちコイツ等に荒らされるのだ」

 猪を蹴飛ばしながら。


 「ソレと……一匹、逃がしてしまった」

 

 「それは……駄目だ」

 慌てる村長。

 「これだけ痛め付けたのだ……怒りは頂点だろう、何とかソイツを仕留めてくれ」

 

 契約は驚異の排除……その驚異を余計に上げてしまっている。

 確かにそれは村としても許容は出来ないのだろう。


 「わかっている……何処か、奴等が潜んで居そうな所は知らないか?」


 少し、考えて。

 「昨日、新しいダンジョンが出現したらしい、ソコに逃げ込んだかも?」


 俺達が転生されたあの地下鉄の町か。


 「イヤ……昨日のダンジョンならそこにはまだ魔物は居ないだろう?」

 マンセルが異を唱える。


 「魔物はダンジョンに引かれるから、逃げ込む可能性も有る筈」

 また、考えて。

 「或いは、森の中か?」


 「森か……」

 盗賊達が居た所だろう。

 元々はソコに居た魔物なのかもしれない。

 ソレを盗賊が追い立てた、とか。

 

 「わかった、その両方を当たってみよう」

 顎に手を添えて頷いた。


 「え! ダンジョンにですか?」

 すっとんきょうな声を上げたマンセル。


 見れば村長達も驚いていた。


 「そこに居る可能性が有るのだろう?」

 何を驚く事が有ると言うのだ。

 

 「い、イヤ……」

 渋るマンセル。


 「先にダンジョンだな」

 どうも、この世界の人間はダンジョンに拒否反応が有るようだ、わかる気もするが。


 「本当に行くのか?」

 村長が念を押す。


 「あんたの提案だと思うのだが?」

 チラリと村長を見て。

 「このままだと契約不履行だし、それでも良いなら放っておくが?」


 「それは……困る」


 「だろう?」

 頷いて。

 「一旦、村に戻って子供達の様子を見ておこう」

 これは、バルタに言った。

 

 そしてまた村長を見て。

 「暫くこの村に居させて貰っても……それくらいは構わないよな?」


 頷いた村長。

 「子供達は、確かに預かろう」

 なにやら側の村人に告げて。

 「馬車はそのまま置いていても大丈夫だ、暫く掛かる様なら餌……イヤ、飯もこちらで用意しよう」


 一瞬、眉間にシワが依るが……他意は無いと聞き流しておこう。

  

 偏差射撃


 砲撃の射撃において、移動している目標のその移動先を事前に見越して撃つ事。

 対象の移動と砲弾の弾速とで距離が有れば着弾がズレる、ソレを計算しながらに撃つのはとても難しい。

 戦車の砲塔はある程度は自在に動くのだが、それでも遅く瞬時に目標を捉え続ける事は不可能だ。

 今回のバルタは、見えない目標の進行方向を予測して撃っているほぼゼロ距離なので、弾速と距離のズレは無いのだが……。

 予測としての偏差射撃はそのままだ。

 普通は無理だ。

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