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368ポイント。
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まだまだ頑張れる。
また明日!
殆ど追い出された格好で風呂を出た俺は、腹いせにバルタを捕まえて風呂に投げ込んでやった。
バルタを捕まえるのは簡単だ。
呼べばニコニコとやって来る。
そこを首根っこをキュウっと捕らえて持ち上げれば、それだけでダランと大人しく成る。
俺も少し学習しているので、風呂のキーワードを言わずに捕まえて放り込めば、暴れられる事もない。
その簡単な仕事を終えて部屋の真ん中に有るテーブルに着いた。
イナとエノが俺にコーヒーを淹れてくれる。
奥の小さなキッチンではエルとハンナとアリカとリリーが何かの料理を作っていた。
エルは相変わらずのガスマスク姿だ。
それが気にいったのかと不思議には思うが、その事には触れないで居た。
そう言う事をしたがる歳に成ったのだろうと、かってな解釈だ。
しかし、その4人を見ているとやはりここのキッチンは狭すぎる様だ。
人数も増えたので……しかも女子供ばかりだ、もう少し考えてやらねばいけないのだろうとも思う。
思うのだが……。
懐から取り出したカードを見た。
記載された金額は確かに増えていた。
あれだけ魔物やら敵兵やらを倒せば増えて当然なのだが……しかし、支出も増えそうなのも確かだ。
武器や弾薬はほぼ遣いきっている。
幾らくらいの余裕が有るのかもわからない。
貴族軍の報酬のシステムはシンプルだし便利だ……倒した敵がそのまま金額になる。
が、必要経費も全てが自分持ちだ。
これは個人経営かフリーランスの、そのままだ。
前の世界では普通のサラリーマンだったのでこの面倒臭さは頭が痛くなる。
その上に税金だ何だと引かれるのだろう……。
それは天引きか?
それとも申請か?
考えるだけでゲンナンリだ。
目の前に出されたコーヒーを啜りながらに、手に持つカードを縦にしてテーブルをコツコツと叩いた。
どうするか?
と、風呂場が騒がしく成って来た。
チラリとそちらに目をやる。
バルタが暴れだしたか?
また裸で走り出てくるのだろう。
が、そちらから出てきたのはクロエだった。
手には着替えを持っている。
風呂に入ろうとして諦めた様だ、まだ髪も濡れていない。
その持つ着替えを膝に置いて、俺と同じテーブルにつく。
「騒がし過ぎ」
ブツクサと呟きながらに、エノに出されたコーヒーを啜った。
そう言えば、クロエのした医療行為には報酬は付いていたのだろうか?
魔物を倒すそれとは違って、どう考えてもその行為に金額を付けるのはややこしそうだ。
弁当を売っていた子達は現金のやり取りをしていたが、それと同じでお互いで金額を決めてとか……そんな感じなのだろうか?
少なくとも自動でカードに入るって事には為ってはなさそうだ。
もしそうなら、その報酬は少な過ぎる。
確認した金額を考えればだが。
奴隷兵士ばかりだからだろうか?
それでももう少しは……。
やはり、自動入金は無いと考えよう。
そう思いたい。
あれは慈善事業でボランティアなのだ。
転生者の奴隷だからって命に安い値段を付けられるのは……やはり釈然としない。
アルロン侯爵の態度にチラリとそんな感じも見えたのだが、気にしないでおこう。
そんなクロエが俺に顔を向けて。
「なに?」
嫌がっている風でも怒っている風でも無いが、笑っては居ない。
「いや……頑張ったなと思ってな」
戦争もキツいが、その負傷兵を診るのも辛かったろう……殆どが死んでいくのだ。
そしてその事はクロエもわかっているのだろう。
フッと目を伏せて、俺の問いには答えなかった。
頑張ったところで、無力だった自分。
そんなクロエ達にも何か報いるモノをと考えると……やはり金がと為るようだ。
コーヒーを啜りながらに。
「仕事……するかな」
戦争以外なら魔物退治くらいしか思い付かないが、それでも幾らかの金には成る。
と、外から聞き慣れないバイクの排気音が響いてきた。
いや、知っている音だと思いなおす。
空冷のL型2気筒の排気音だ。
ドカッティの大排気量バイク。
だが、それはダンジョンのショッピングモール爆発で埋もれた筈では?
勘違いかと気になって、小屋の外に出たらば、アンが居た。
バイクはドカッティ900Mモンスターだ。
「帰って来たと聞いて遊びに来た」
アンが俺の顔を見て笑っている。
「帰り着いたのは昨日の深夜だが……誰に聞いた?」
もう日は昇ってはいるがまだ午前中だ。
今日一日はユックリとしようと朝から風呂に入ったのだが……ややこしい事に成りそうな予感がする。
アンが居てややこしく成らなかったのためしはない。
「まあそれはいいが……そのバイクは?」
本当は気になるところでは有るが、敢えて無難な話で誤魔化そうとそう聞いた。
「ローザが見付けて来てくれたんだ」
パンとバイクのタンクを叩いたアン。
「貴方のバイク、2台も有るぞ」
と、ガレージを指差す。
俺はその指されたガレージを覗いて驚いた。
端にドカッティ900ssとホンダのドリーム50が置かれている。
だが、驚いたのはそれではない。
真ん中に2号戦車のルクス……その砲塔に5cm砲が載っかっている。
後方に隠れ見えるプーマには砲塔が無いので、それを移植したとはわかるが……それが何故にここに有る?
これは計画段階で消滅したドイツ軽戦車のレオパルトだ。
「あ、戦車長……どう思います? これ」
マンセルが俺を見付けたのか声を掛けてきた。
「どうと言われても……レオパルト軽戦車だよな」
「レオパルトと言うのは良くはわかりませんが……軽戦車なのに20トンを越えているですよ」
否定的な目で戦車を睨んだマンセル。
「ああ……重いな」
俺も一応の相槌。
「でも5cm砲だよ」
そこにローザが割って入ってきた。
「t-34中戦車と正面切っては無理だけど、上手く立ち回れば倒せる性能はあるし凄いじゃない」
さあどうだ!
と、そんな顔に見える。
「速度も55km出るし……装甲も50mmも有る」
「10トンの38(t)と変わらん」
その38(t)はガレージの奥の奥に追いやられている。
速度はエンジンを載せ変えての話だ。
「t-34も倒した」
鼻息荒いマンセルには、普通にでは無理だけどなとは言わない方が良いのか?
「まあ……スペックだけなら3号戦車と同じだな」
重さも装甲も砲も同じ、サイズも似たようなものだし……違いを探すとすれば搭乗人数か?
3号戦車は5人だが、レオパルトは4人だ。
その人数の差は大きい。
そのまま戦力差に成る。
「でしょう、それならコストの安い3号戦車の方が優れている事に成る」
俺の同じだの一言にマンセルも頷いた。
「こんな無駄なものを造って……」
パンとレオパルトを叩いたマンセル。
「でも……こっちの方がカッコいいじゃない」
ローザも理屈ではわかっている様だ。
「形は……パンターにそっくりだしな」
そこの部分には俺も同意だ。
「でしょう、でしょう」
俺の言葉にはしゃぐローザ。
「戦車長はどっちの味方なんです?」
じろりと俺を睨んだ。
「この戦車……買えるんですか? この値段なら4号が買えますよ」
その一言には俺も唸るしかない。
明らかに無駄金だ。
4号中戦車の方がはるかに強い。
砲も7.5cmだし、t-34中戦車やシャーマン中戦車と並べるスペックだ。
「無理だな……金が無い」
有っても4号を買う。
「その点は大丈夫」
ニコリと笑うローザ。
「仕事を少し手伝ってくれればすぐだよ、そんな金額」
「仕事?」
ローザの仕事って何だ?
戦車を売り歩くのか?
「簡単な仕事」
端に有るバイクを指差して。
「ダンジョンに行って、そこに有る車やバイクを動く様にしてくれたら良いだけ」
? な顔に成る俺に説明を続けたローザ。
「後は私が、それをここで売るから」
そう言って両手も目一杯に拡げて。
「ヴェルダン&ローザ商会をここでやるの」




