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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界の戦争
175/317

タイガー2重戦車の弱点

うむ……。

減りもせず。

増えもせずか。


反省は戦場から離れてからだ……と、言い聞かせて。

明日も頑張る。


みんなありがとう。

また明日!


 燃える戦車の影に隠れて居たその戦車、t-34は既に砲をこちらに向けていた。

 その砲の中に砲弾が詰め込まれているのかは外からではわからない。

 弾が入っているなら……それは何時でも撃てる状態だ。

 狙うその微調整だけでドン。

 その微調整すらもいらないのかも知れない。

 何故ならこちらの戦車は動いていて、その砲の先に向かっているからだ。


 ドンと砲撃音。


 俺の頬の横を砲弾が掠める。

 前から後ろにでは無くて……後ろから前にだ。


 そして目の前の敵戦車の砲塔そのものが弾け飛んだ。

 一発でt-34を仕留めたのはと振り替えればタイガー1重戦車の砲から細い煙が立ち上っていた。

 丘の上に立ち側に3号戦車を引き連れている。

 その2輌のセットはアルロン侯爵とルチニ男爵だろう。

 

 一瞬、あのタイガーにもバルタが乗っているのかとも考えたが違うとすぐに思い直す。

 この距離で、この正確さと早さは……それ自体が間違いだ。

 最初からこの敵戦車に狙いを付けていたのだろう。

 それはこの敵戦車も同じで、俺は偶然にその間に割って入ってしまっただけだ。

 タイミング的にも一歩間違えば俺の頭が吹き飛ばされて居た事だろう。

 混戦に成れば良く有る同士討ちだ。

 それは本来、敵の中に突出し過ぎたか、戻るのが遅れたかだが。

 横から単独で入り込んだ俺はその形に為った。

 俺が、飛び出したタイガー2の公爵に感じたそれと同じ事を回りに振り撒いて居たのだろう。

 俺もカカシに成ってしまったと……そう言う事だ。


 と、反省は後回しだ。

 味方の戦車がそこに見えても、俺達はまだ敵のど真ん中に居る事には違いない。

 誤射されない為にも味方が確認出来る範囲に移動すべきだろう。

 

 ここからなら、やはりタイガー2の側か……アルロン侯爵のタイガー1依りも近いし目立つ。

 それに何より目標のシャーマンもそこに居る。


 『なんだ、それじゃあ変わんないじゃあ無いですか」

 マンセルが笑った。

 

 『そうだな、このまま真っ直ぐだ」

 俺も笑う。


 それでも状況は変わった。

 もう単独ではない。

 敵を倒す選択肢が1つ増えた。

 子供達プラス味方戦車だ。


 

 目立つ丘の上から平な平原にまで到達したタイガー2重戦車。

 それに群がる様につきまとい砲撃を当てていくt-34中戦車だが、一向にダメージを与えては居ない様だ。

 その砲撃を意に介さず、遠い敵を選んで撃破しているタイガー2。

 単純に近い敵は早さが追い付かずに撃てない様だ。

 まあ一発撃つのに10分近く掛かっては仕方が無い、確実に狙えそうなのを狙うことに成るのだろう。

 敵もその事もわかっての接近線を仕掛けている様だ。

 それでも、タイガー2の背後から来る戦車の砲に撃たれて居るようだが。

 

 良く良く考えて見れば敵も味方も間違った戦い形はしていないのだ。

 バカ呼ばわりはしたが、それは端から見ればの結果だけだと思いしる。

 今は俺が一番にバカだと思われて居ることも理解してだ。

 

 そして、敵が狙った事が起こったようだ。

 タイガー2の足が止まった。

 あれだけ動き回った……引き摺り回された? そのどちらかは知らないが見事にウークポイントであるミッションが壊れたのだろう。

 排気管から排ガスの煙が吹き出しては居るが履帯は動く気配がない。

 それでも、砲も乗員も生きては居る。

 ここからは固定砲台としての仕事に為るしかない。

 それも何時まで持つかだろうけどだ。


 しかし、俺もそれを黙って見ているわけもない。

 折角の最大の攻撃力をみすみす捨てるのは惜しい。

 

 『シャーマンは後回しだ」

 そう叫んでタイガー2の回りを回るt-34に標的を変えた。


 三姉妹が飛び込んでいく。

 背中にはファウストパトローネ……いちいち取りに戻るのが面倒臭く為ったのか、今は3本が背中に刺さっている。

 ランドセルとそのベルトの間に無理矢理突っ込んで居るようだ、体が動く度にファウストパトローネも左右にグラグラとしていた。

 

 エルの榴弾は離れた位置の戦車を攻撃している。

 それは混戦に為っている三姉妹を巻き添えにしない為にと、単純に射程距離でだろう。

 流石に本来は移動が可能な中迫撃砲でもこれだけのスピードには着いて来られない。

 タヌキ耳姉妹はその護衛かそちらの方を狙っている様だ。


 

 俺はバルタに砲撃を辞めさせて、走る戦車の上を伝い砲の先を片手で掴んだ。

 もう片方の手はHEATを持っている。

 『落ちないで下さいよ、戦車長」

 マンセルが心配するが、外付けの砲弾なのだ俺も戦車の外に出るしかない。

 そのためにイチイチ停まって居ては、そちらの方が危ないだろう。


 『射程は短い……出来るだけ近付いて撃て」

 これはバルタとマンセルへの指示だ。

 実際に射程は100mもない。

 モノはファウストパトローネと同じなので、飛ばす火薬が少し多い程度だから射程もそんなモノだ。

 当てさえすれば、最強戦車のタイガー2でさえ穴を空けられるのだから威力は絶大だ。

 ただ射程が短いだけだが……それが最大の弱点と成る。


 そのまま一気に駆け込んだ。

 こんな無茶な事は昼間の明るい時には絶対に出来ない。

 見えて居ればとっくに機銃で蜂の巣だ。

 

 マンセルが敵戦車を掠める様に38(t)を操る。

 バルタがその背面を撃ち抜く。

 俺はペトラに次の弾をハッチ越しに受け取りまた準備をする。


 三姉妹はバイクから飛び降りて敵戦車の側に張り付きファウストパトローネを撃ち込む。


 あっという間4輌のT-34を沈める。


 その後は、走りながらに燃えカスの鉄パイプを投げ棄てて、背中の次の1本を取り出して次に備えた。

 タイガー2と倒した戦車の影に潜んで次を待つ。

 

 敵もヤられたとわかれば次の戦車を差し向けてくる。

 タイガー2には常に4輌で当たるとそんな戦略らしい。

 敵ながら突っ込んで来る勇気は称えたいがそんな暇もない。

 遠くからの砲撃も合わせて避けながらの攻撃で精一杯だ。

 

 二波目を目を凌ぎ、その勢いタイガー2を中心にしてぐるりと回り三波目に備えた。

 

 子供達は倒した戦車の影から影に走り込んでいる。

 同じ場所にはジッとしている勇気は無いのだろう。

 

 と、倒した戦車の下から人が飛び出してきたのが目の端に掛かる。

 手に布の鞄を持っている様だ。

 その戦車兵は真っ直ぐにタイガー2の、俺達から見ても反対側の側面の死角に入り込み俺の視野範囲からも消えた。

 38(t)でもう一度回り込むのは無駄な動きだ。

 もう次は直ぐそこだ。

 

 俺は、スピードの乗った戦車の上から飛び降りて受け身で地面を転がり、単身でタイガー2の背後から回り込む。

 走りながらに背中のルガーを取り出しそのまま敵の前に飛び出した。

 

 兵士はタイガー2の車体を登り砲塔との隙間に鞄を押し込み詰めている。

 場所はターレットリングの在る薄い隙間。

 そこは砲で狙うには小さすぎるが、全ての戦車に共通の弱点でも有るところ。

 詰めた鞄にはおそらく、砲弾を2個か3個か潰して火薬を入れて有るのだろう。

 その起爆に手榴弾のピンを抜く動作が見られた。

 イギリスのギャモン手榴弾をお手製で造ったのだ。

 

 それを理解出来た俺は、敵を撃つ間も惜しんで戦車の後方に飛び伏せる。

 ソビエト式f1手榴弾……通称レモンは爆発迄に3から4秒。

 形はアメリカ式のパイナップル、MK2手榴弾に近いがそれよりも1秒程早い。

 使い慣れたドイツ式と同じなのでタイミングは体が覚えていた。

 

 背にしたタイガー2から爆音が伝わる。

 火柱が上がる大爆発なのだろうが、そんなのを見る余裕もない。

 それでもタイガー2の装甲はその爆発を遮ってくれた。

 伏せた俺の上を圧縮されて熱く為った空気が膨らむ様に通り過ぎて……次に薄く為った空気を吸い込む様に冷たい風が逆に戻る。

 一瞬の出来事だが、それが終わるのを感じて跳ねる様に起き上がり。

 もう一度敵兵の方へと向き直る。

 耳鳴りが辺りの音を消してしまっていて同時に平衡感覚もおかしく為っている違和感だらけの虚構の景色に感じるがそれでも必死で敵兵を探した。


 何処だ!

 首を降り。

 銃を左右に巡らせる。


 少し先に丸まり転がっているのを発見した。

 手足が変な方向に投げ出されていてピクリとも動かない。

 自身も爆風に巻き込まれたのだろう。

 逃げるには火薬の量が多過ぎたと、そんなところか。


 俺は確かめる様に3発の銃弾を撃ち込んだ。

 戦場でイチイチ確認はしていられない。

 生きていようが死んでいようが弾を撃ち込んでやれば……それは確実に死んでいる。

 

 そして、タイガー2を見上げる。

 砲塔の横から煙が上がっているが……生きているのかはわからない。

 形はそのままにそこに在るからだ。

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