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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界の戦争
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戦場のカカシ


 エルフと言うのは馬鹿なのか?

 これだけのお膳立てをしておいて、それを棒に降るとは。

 いや、作戦そのもに無理が有ったのかも知れない。

 作戦は相手の行動を読む事も大事だが……エルフが考えるよりも貴族軍は予想外にバカだったのだろう。

 考え過ぎたエルフに、全く考える事を放棄した貴族軍。

 その2つが戦場でぶつかればただの泥試合に為るのか。


 お互いに強力な兵器を持っているので余計に始末の悪い事に為る。


 『戦車長……辛辣ですね」

 マンセルが呆れている。

 そして、俺の考えている事は今は駄々漏れなのだったとおもいだす。

 『その意見には異議は唱えませんが……それよりも今は前を向いていてくれませんかね?」

 そんなもっともな意見には頷くしかない。



 双眼鏡から覗く敵戦車にシャーマンは1輌しかない。

 エルフは白い星でフェイク・エルフは赤い星とを信じればシャーマンにはエルフとなる。

 それは今までもそうだった。

 詰まりはシャーマンが通信指揮車輌となる。

 どう考えても最優先撃破対象だ。

 ノモンハン事件での日本軍並みにしつこく狙ってやる。

 

 『マンセル……突撃だ」

 頭の中とは違い落ち着いた声での指示出しだ。


 『また、止まっちゃあいけないんですよね?」

 マンセルも落ち着いていた。


 


 敵戦車の集団に真っ直ぐ進む38(t)軽戦車。

 こちらの3.7sm砲では倒せそうな戦車は見当たらない。

 t-34中戦車ばかりだ。

 

 だが、その敵戦車はこちらに気付いて居る筈だが砲は向けてこない。

 小さな戦車だとナメられているわけでも無さそうだ。

 丘の上にタイガー2が姿を現している、それに釘付けに為っているのだろう。

 しかし、その後方には戦車は続いて来ない。

 完全に単独の様だ。

 その防御と砲で無双はしているが……それでも囲まれて袋叩きに合えば無事には済まないとは思うのだが、公爵は何を考えているのだろうか?

 

 『戦場ハイってヤツですかね?」

 マンセルにも見えている様だ。


 『そんなものは良くわからんが……戦闘ストレス反応ってやつか?」

 有り体に言えば壊れたとかそんな感じだが……お互いが切れてどうする。


 『まあしかし……俺達には都合が良い」

 キューポラから半身を出した俺は公爵のタイガー2を指差して。

 『カカシにでも成って貰おう」


 平原で最初のt-34と交差する。

 俺はその後ろを回る。

 t-34は気にせずにそのまま前方のタイガー2に砲撃をしていた。

 こちらの砲撃も撃っては居るがただ跳ね返されるだけだ。

 でも、今はそれで良い……バルタにも敵の砲塔を狙えと言ってある。

 注意を前と後ろに分散させる為だ。

 それは俺達の背後にピッタリと隠れて着いてきている三姉妹達が居るからだ。


 t-34の背後に一発当ててそのまま反対の側面に流れる様に滑り込む。

 そんな俺達に相当にイライラしている様だ、流石に砲塔がこちらに動き始めた。

 だが、俺達の後ろに居た三姉妹はもう居ない。

 バイクを滑らせて、そのまま転ぶ様に敵戦車の側面に取り付きファウストパトローネを構えて居る。

 それが敵戦車を挟んで見えるのだが、そのファウストパトローネの砲弾がこちらを向いているのはゾッとしない光景だ。

 狙いは間の敵戦車だとわかっていても威圧感が有る。

 小さい体で片膝のエレンでもだ。


 そのエレンが引き金を引いた。

 距離は10mと少しか、他人が撃つと随分と近くに見える。

 エレンの前後に火と煙を巻き上げて飛んだ砲弾はユックリと山なりで砲塔側面に突き刺さった。

 真正面から見てそのスピードに感じたのは思い込みも有ってかも知れないが、そう見えたのだ。

 そのエレンは敵戦車のその後を確認する事なくに立ち上がり、燃えカスの鉄パイプを放り投げながら、転げたバイクを引き起こし、後輪をスピンターンさせて離脱していく。

 次のファウストパトローネを取りに戻ったのだ。


 俺達も次の標的に向かう。

 三姉妹はまだ二人居る。

 同じ事を繰り返すのだ。

 

 しかし次々と戦車を倒す俺達は流石に目立って無視出来なくなったのかこちらに砲を向ける者も現れた。

 そんな者達も前後の確認をしつつなので視界の悪い戦車では上面ハッチを開けて、そこから体を晒して覗くしかない。

 それは今度はタヌキ耳姉妹の餌食に成るだけだ。


 幾つかの戦車の砲塔の上には死体が載っかっている。

 それでもフェイク・エルフは逃げ出す事はなかった。

 その状態でこちらに砲を向けて撃ってくる。

 それを避けるのだ。

 『3・2・1・左だ!」

 数字は秒数、機械的に砲を撃ち込む敵戦車はその間隔も常に一定に成る。

 もちろん、砲手と装填手によってその間隔はまちまちだが、何発か撃たれた敵戦車の秒数は常に数えて居た。

 わかるヤツだけだがそれでも少しは助けに成るだろう、そんな感じだ。


 だがそれが出来るのは1輌の敵戦車のみ。

 2両以上に狙われれば犬耳三姉妹が突入するしかない。 

 そして今は3輌の敵戦車の砲がこちらを向いている。

 その上に副武装の機関銃でバイク部隊まで牽制し始めた。

 後退を余儀無くされる三姉妹。


 『パト! 頭を引っ込めて』

 その時叫んで来たのはエルだった。

 

 同時に8cm,sgrw34からの3.5kg榴弾が降ってくる。

 3.5kgとは言っても火薬の量ではない、砲弾が3.5kgなだけだ。

 そもそもが榴弾とは火薬の破壊力では無くて、火薬によるその側の破片を飛ばして攻撃する、言わば大きな破片手榴弾なのだ。

 なので普通に戦車の近くに落ちても大した効果は無い……が、直撃すれば別だ、特にt-34は無理な大量生産をされたせいで鉄の材質が悪くホプキンソン効果により内壁の装甲鉄が剥がれて飛び散ると言う弱点も有る。

 狭い戦車内で無数の鉄の破片が飛び散れば先ずは致命傷に為るしかない。


 直撃させる事が可能ならばだ……だがエルは5発も撃てば一発は当ててしまう。

 8cm,sgrw34中迫撃砲なんて榴弾をばら蒔くだけで狙えるモノでは無い筈なのに。

 『当ててやがる……」

 唸るしかない。

 距離と方向を正確に把握出来る、そんな能力のお陰なのだろう……それをエルは持っている。


 『なあ……マンセル」

 開いて塞がらない口を無理矢理動かして呟いた。

 『ヴェスペって……手に入らないか?」


 『自走砲ですか? 確か10.5cm榴弾砲を積んだヤツ」


 『そうだ……それ」

 唾を飲み込み。

 『2号戦車の車体を流用したヤツだから、安いだろう?」


 『まあ……値段はそうですね」

 戦車を動かすのは止めないマンセルは。

 『生きて帰れたら探して見ますよ」

 素っ気ない返事だ。

 まあこの戦車よりも性能が良いから仕方無いのか?


 『別に拗ねているわけじゃあ無いですよ……第一アレは戦車じゃあない」


 そりゃあそうだ、だから自走砲と言っている。

 

 『それに見付けたとしても……誰が運転するんですかい?」


 チラリとマンセルを見た。


 『ワシは絶対に乗りませんよ……戦車以外は嫌です」

 言い切っている。


 『それも誰か探さないといけないのか……」


 『そんな事をグダグダ言っている間に、シャーマンが目の前に来ていますよ」

 ふと見上げれば確かにシャーマンだ。

 双眼鏡を必要としない距離では有るがまだまだ遠い。


 しかし、ここら辺り迄来ると味方の戦車の砲撃が敵戦車を叩いている。

 もちろん逆もだが……。


 その幾つかの火の吹く戦車を避けつつ迂回して、動いている戦車を探す。

 もう照明弾も上がっては居ないが、ここでは燃えた戦車が松明代わりだ。

 横からの明かりは影を造り易いが、それでも十分な明るさは有る。


 敵の砲弾を交わしつつ、火の着いた戦車を回り込むと……いきなり敵戦車と出くわした。

 影に隠れて見えて居なかった。

 バルタも燃える戦車の砲弾の爆発音に耳を誤魔化されてしまっていたようだ、俺の体にバルタの驚きの震えが伝わった。

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