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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界の戦争
171/317

アルデンヌの森

336ポイントだ!

上がってる。


上がるとヤッパリ嬉しい。

なんだか……少しホッとした感じだ。

みんな有り難う。


明日も頑張る!

また明日!


 俺はその箱の中の一発を手に取る。

 細い鉄のパイプの先には丸いレモン型の弾薬、後端には小さな鉄の羽が付いている。

 サイズ的にも3.7cmの筒には入らない。

 だがそのパイプ、二重に成っていて外側のパイプは3.7cm砲の外径にピッタリと修まり中のパイプは砲の内径に合っている。

 それもその筈、これは砲口装着式のHEAT弾だからだ。


 『コイツで正解だ」

 コレが有ればt-34も倒せる。

 だが、箱の中には5発しかない。

 『因みにだが……他の場所には無いのか?」


 『それだけですよ……そんなおかしなに大金は掛けられません」


 金をけちったのか?

 それとも無茶苦茶に高いモノなのか?

 『で……いくらなんだ?」

 

 『一発……1000円です」


 『やっす!」

 けちったのか……。


 『使えるかも知れないモノに5000円は高いでしょう」


 『使えるよ、色々と制限は有るけどな」

 砲口装着式なので、装填は一度外に出なければいけないのと、その射程は100m……敵が動いているならもっと下がって50mだ。

 そこまで近付くのは至難の技だが、マンセルなら出来るだろう。

 そしてバルタなら外さない。


 『どのみち戦わないといけないんだ……マンセル西に進め」

 その方角は敵戦車の居る方だ。

 後方の歩兵が敵の塹壕に到達すればもうそこに戦車必要ない。

 俺達の仕事は全兵が飛び込む迄の牽制と護衛だ。

 

 『流石に無茶でしょう、俺達だけで……しかも使えるって言うそれも5発しかない」

 

 けちったからな。

 それに、応援のアルロン侯爵もルチニ男爵も何時まで経っても来ないのだ。

 俺達だけでやるしかない。

 あの一発では気付かれ無かったのだろう、それも仕方の無い事だ。

 無線機くらいは用意しとけよと言いたい。

 確かマンセルの話ではそれが有ると言っていた筈なのに……戦場で使わないでどうするんだって事だ。


 『盗聴されるからですよ」

 マンセルがボソッと答える。

 

 『そんなのは暗号か隠語で誤魔化せば良いのでは?」


 『捕虜を奴隷化すればどんなに難しい暗号でも意味は持ちません」


 成る程……それはそうか。

 しかし、相手に聞かれても良いような情報くらいなら……。


 『エルフはその能力の性質上、通信には簡単に介入してくるんです……通信機ではなくて脳に直接通信を出来るんですから、それの改編も簡単です」


 偽の情報に変えられるのか……。

 俺は口許を押さえながらに考えていた。

 

 『そうですね……戦場では使えませんよ」


 あれ……今は俺はズッと口を押さえているぞ……喋ってはいないし。

 念話も飛ばした記憶はない。


 『ペトラの能力でしょう……ズッと聞こえてましたよ」


 ペトラ?

 目線を通信席に送ると……こちらをジッと見ていたペトラがスッと視線を外す。

 花音の能力が足されたから強制的に他人の心を読めるのか?


 『他人じゃあ無くて……身内のです」


 でも、それをマンセルに何故繋げる……ペトラの能力は一人とだけのはず。


 『エルを経由してるんでしょう」

 

 それは、詰まりは……俺の心はみんなに筒抜けってことか。

 プライバシーってのはどこ行った。


 『プライバシーってのは良くわかりませんが、奴隷が主人の心を読むのは当たり前のことでしょう……出来る出来ないは別にしても、優秀な奴隷はみんなそれをしようと努力してますよ」


 プライバシーって……概念すら無いのか。

 しかし、俺だけが覗かれるのもなんだかなと思うのだが……みんなの心も俺に遅れよ、でないと不公平だろう?


 『いやらしい……」

 ハンナを見た。

 『エッチ……」

 ペトラか?

 『……恥ずかしいです」

 足をモジモジとしたバルタか……何故か裸足だ。

 『スケベだ』

 『私は別に良いですけどね……でも……』

 『お腹すいた』

 『あ! 魚』

 『忙しい、忙しい』

 『キー』

 『……』

 『……』


 『ペトラ……もういいです」

 どうでも良い事ばかりでわけわからん。

 

 『そらそうでしょう」

 マンセルが笑って。

 『若い娘や子供の考える事なんてそんなもんですよ」


 でもこれで一つ疑問も解けた。

 急に賢く為ったヴィーゼ……詰まりは俺の心を覗きながらに自分なりに考えたのか。

 いや、誰かの考えも同時に交ぜていたのかもな。

 

 『私は元から賢いです』

 ヴィーゼが念話でブー垂れた。

 その話し方……イナかエノの様だ。


 『それよりも、見えてきたけど……でも』

 ヴィーゼが敵の野砲を見付けたのだろうが……首を傾げている風でもある。


 『でも、なんだ?』


 『パト達の方に向いてるのは2つしかないよ……残りの3つは、反対側を向いてるみたい』


 『……どういう事だ? まさか予備? 戦闘中に野砲を遊ばせるなんて事はしないだろう……故障か?』


 『撃ってるよ……反対に向けて』


 反対側……森か?

 そこに意味は有るのか?

 『森も燃えてるみたい……もっと後ろかな、赤く見える』


 『森の奥の東はまた別の湖だ、森の南はすぐに……ヴァレーゼの街』

 ハッとして叫んだ。

 『奴ら……街を狙ったんだ!」

 二面作戦……いや、こっちはオトリか?

 道理でスンナリと進軍出来たわけだ。

 敵との物量差を考えればこんなに簡単な筈もない。

 

 『それならもっと簡単に、俺達が来る前か……それとも全力で倒した後での方が楽だったんじゃあ無いですかね」

 マンセルが考え込んでいる。


 『前は駄目だ、ここに向かっていた貴族軍がそれを知れば、街を取り返す作戦に変えるだろうからだ……そうなれば奴らも鬱陶しいだろう」

 完全に街が戦場に成る。

 後だとどうなる?

 俺達が全滅した後だ、それは街が危険だと知らせる事にも為る。

 抵抗される?

 でも所詮は民間人だ、それくらいは簡単に制圧出来るだろう。

 街を放棄される?

 普通には逃げ出さないよな……街に火を着けるくらいはするか?


 奴らは街を……もしかすると住人も含めての出来るだけ無傷で欲しがったのか。

 何の価値が有るのかは俺にはサッパリだが……奴らにはその価値が有ったのかも知れない。

 街を無傷で手に入れて……同時に貴族軍を壊滅させれば、次に来る俺達の国からの軍隊は補給地点を失う。

 実際にみんなヴァレーゼの街に寄ってからここに来ていた。

 俺が通ったルートには他に街は無かったし、一番に近いのは南のアンが居た街だが、そこは列車が通って居たので補給は簡単だがここまでは遠すぎる。

 手にいれた住人を全て奴隷にすれば……今度は自分達の補給地点だ。


 そうか……それは国境が変わるって事だ。


 『戦車長……どうします?」

 

 『今更、ヴァレーゼに行ったって手遅れだ……それに、こちらの敵も簡単には行かせてくれないだろうから、街は諦めるしかないな」

 そうだ、うまく乗せられてこんな奥まで引き摺られた。

 ここから街までは湖を大きく迂回しないと行けない。

 

 『でも、奴らあの森を抜けたんですね……」

 考え込むマンセル。

 『あの森は、木々も鬱蒼としてるし……地面は沼地に近い、そこを進軍するとは」


 成る程、だから貴族軍はこちらを戦場に選んだのか。

 そんな場所が戦場に為る筈もないと……。

 『アルデンヌの森だな……」


 『なんです? あそこはそんな名前じゃあ無いですよ」


 『ズッと遠い世界でそんな名前の戦場が有ったんだよ」

 第二次世界大戦でドイツ軍がその森を越えて奇襲を掛けた。

 それも二度。


 一度目は対フランス相手でその奇襲は成功している。

 こんな所を攻めてくる筈がないと思い込んだフランスの負けだ。


 二度目はその四年後、今度は連合軍……主にアメリカだが、と戦った。

 ノルマンディから上陸して来たアメリカ軍はその森を越えてくる筈は無いとその場所に新兵やら負傷兵を集める後方基地を造った。

 そこに奇襲を掛けたドイツ軍、二度目の戦場で二度目の奇襲なのに相手が変わると簡単に成功したのだが……最終的にはアメリカの決断の速さと物量に押し負けた。

 そんな場所だ。

 

 それと同じ事をやられたわけだ。

 奴らの方にもそんな知識を持った転生者が居たわけだ……。

 当たり前では有るか。 

 こちらに居て、向こうに居ない理由もない。


 『最初から負けていたのだ……」

 それを吐き捨てた俺。

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