山の上の敵
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伸びた!!
良かった!
有り難う。
明日も頑張ろう。
伸びて良かった……。
タイガー1戦車の上に顔を出したアルロン侯爵。
俺はその横をバイクで並走して、ルチニ男爵を借りると告げた。
だが、アルロン卿は首を横に振り、自分も連れて行けと言う。
戦場に来る前からの行動力と奇襲を簡単に提案出来る貴族らしからぬところが気に入ったそうだ。
なんとも胡散臭い理由付けだ……背中に紐でも付けているのかと勘繰りたくなる。
まあその紐の先を握っているのが敵では無いなら構わないのだが。
大方、元国王かその一派だろう。
別段、それが親衛隊でも問題無い……今、利用出来るなら何でも良い。
それに、ただの勘違いの可能性の方が大きいかも知れないのだ。
……まあ、少しだけ気を付けて置いた方が良さそうだとしておこう。
ただ、一つ条件を付けられた。
ほんの少しだが時間をくれと言う。
勝手に連隊を抜けるのはヤハリまずいらしい。
いや、みんな好き勝手に動いて居るじゃあないかと突っ込みを入れたいところだが……一応は上や下に対して示すべき態度と言うモノが有るらしい。
ここら辺は御貴族様の何かしらなのだろう……俺にはどうでも良い事だ。
なので、取り敢えずの約束事……準備が出来次第、信号弾を打ち上げるとしておいて俺は一人で皆の所に帰る。
陸軍の歩兵の足に合わせると為ればそれなりに時間も食うだろうとそれも含めての後での合流だ。
さて伝令と勧誘。
伝令の内容はアルロン侯爵が適当に広めてくれるだろうと、その2つの仕事を終えた俺はバイクで皆の待つ西に戻る。
ついでに敵と味方の動きが見えたのはオマケとしては大きい収穫だ。
あのまま連隊を組んで前進を続ければ近いうちに激突する。
その場所はヤハリ丘の上の稜線に成りそうだ、お互いがそれを越えるのに苦労するだろうからだ。
登っている最中は敵を撃てるが、頂点に立てば下に居る敵の良い的にされるだろう、最初からそれを誘っていたであろう敵もだからその場所を登ったり降りたりを繰り返している。
最終的には焦れた貴族軍がそこを越えようと飛び出すと思われるが、そのままでは結構な犠牲が出る。
だから、そのタイミングで横から国軍を突撃させたいのだが歩兵でも有るので、そこは戦車の援護が必要だ。
敵戦車も稜線に砲を向けていれば横から国軍。
横の国軍に砲を向ければ稜線を味方戦車が越えてくる。
その時、もし可能なら照明弾を打ち上げている敵の砲兵も叩きたいが……それをやるには別動隊がもう一つ必要に為るだろう。
完全な闇に戻せば、歩兵でも簡単に戦車に近付けるのだが……。
まあそれも全てが上手くいけばだ。
戦場は熱したアスファルトの様なモノだ、熱いうちは液体の様に狭い隙間も含めて様々な所に入り込み、低い方へイキ易い方へと流れようするが。
冷めれば簡単に固まって全く動かなくなる。
そんな事を考えながらバイクを走らせていると。
『パト……敵が居た』
西の湖岸側、小さな山に向かわせたイナからだった。
『撃って良い?』
エノも確認した様だ。
『待て……敵の規模と装備を教えろ』
二人で対処出来るのか?
『デッカイ戦車?』
『でも天井が無いよ』
オープントップか?
『まるっこい感じだね』
『砲も上を向いてるし……照明弾を打ち上げてる見たい』
『星のマークが横に無いか?』
『有るね……うん』
M7プリーストか……。
アメリカの自走砲だ。
なぜそんな所に配置した?
意味は有るのか?
『後は兵隊が一杯居るね』
『15人くらいには居るね』
プリーストなら乗員は7名……残りは何の為に居る?
『なんか筒見たいの覗いてる人が何人かと……後は狙撃兵?』
『後ろに立っている人に何かを話してる』
『それはエルフよ』
いきなりエルが割り込んできた。
『念話で通信してるのよ……微妙だけど気配はするわ』
詰まりは観測兵と通信兵か……狙撃手とプリーストはオマケなのだ。
『そこから……俺達は見えるか?』
低い山だが位置的には結構な高さが有る。
『見えるね……戦車もテントもバッチリ見える』
成る程、コイツらの指示でカチューシャと戦車は動いていたのか。
だが、通信は厄介だ。
連合軍だとはわかっていたのでエルフも居るだろうとは思っては居たが……俺達に有った通信の優位性は始めから無かったと言うわけだ。
『イナ……エノ……見付からない様に監視を続けろ』
『エル……そこからカノン砲を撃ち込めそうか? 国軍の砲兵だ』
『無理ね……精度が悪すぎて仕留め損なうわよ』
そうか。
戦車を向かわせるか?
『でも、私なら当てられるわ』
当てられる?
『トラックでそっちに向かってるから……少し待って』
8cm,sgrw34迫撃砲か……射程は2,400m。
結構近付かないといけないな……。
『エレンとアンナで護衛に走れるか?』
『わかったすぐ行く』
二人の返事は早かった。
『……私は?』
こっちはネーヴ。
『俺が帰るまでは戦車に乗ってろ』
その俺の声に、ブー垂れた意識を乗っけてきたネーヴ。
だがそんなことは知らんと、話を変る。
『ところで軽トラは誰が運転してるんだ?』
『ローラよ、あとヴィーゼも一緒』
エルの返事は簡潔だ。
『コリンの手伝いは良いのか?』
『そっちは……今は落ち着いてるわ』
今度は少し言葉尻を濁す。
小さいが悔しさも伝わってきたので大半が駄目だったのだろうか。
まあそれは仕方無い、死ぬヤツは死ぬのが戦争だ。
俺だって目の届く範囲を守るので精一杯なのだし……それ以上は出来ればの事だ。
最近はそれも無いか……子供達にも直接戦闘を指示している。
守られているのは俺の方だ。
『エル、射程内に入ってもすぐには撃つなよ』
『何で?』
走りながら撃つ準備でもしてたか?
『まだ、敵の撃つ照明弾を利用したいからだ』
ついでに国軍の歩兵が動いて居るのも見せたい。
歩兵であってもある程度の規模に為れば敵も無視は出来ない筈だ。
そこに戦車と歩兵を向かわせるだろう、そしてその戦車は軽戦車でも十分と考える。
対戦車戦も有るのだt-34やシャーマンの様な主力はそのままにだ。
bt-7やt-70なら俺達の戦車でも対処出来る。
貴族軍も標的の数が減ればそのぶん楽に為るだろうからt-34と存分にやりやってくれ。
と、戦車が見えてきた。
38(t)俺達の戦車だ。
その向こうに人影も見える……それも大軍で。
あれが国軍の歩兵か。
マンセル達はその歩兵の進軍に速度を合わせて北上している様だ。
時折バルタが発砲しているが、もう敵戦車が来ているのだろうか?
『バルタは何を撃っている?』
『敵の歩兵です』
バルタは普通の声音だ。
戦車を撃つ時のように弾んだ感じは無い、魔物を撃っている時に近いか。
『対戦車砲を引っ張っている小さな部隊がバラバラに西に移動してるのよ』
教えてくれたのはエル。
ヴィーゼを連れて来たのはそれを見る為か。
『ある程度叩けば……敵の野砲も撃ってくるでしょう? その位置も知りたいからバルタに叩いて貰ってるのよ』
『野砲の位置とは?』
『ロケットと一緒に撃っていたのに、今は止めてるでしょう……でも、そのうちに撃って来るのはわかってるから反撃の準備を砲兵に頼んでいたのよ』
『国軍の砲兵が大人しいのはその為か?』
『敵もこっちの砲撃が怖いのよ』
詰まりはこっちの反撃はそれだけ正確だったってことか。
エルの能力か?
ヴィーゼの能力か?
どちらにしても位置さえわかれば何時でもと言うわけだ。
『ところでエル……敵の戦車の動きは見えるか?』
『本隊から別れて西に移動を初めている戦車が……結構居るわね』
その口ぶりではまだ直接に狙えるわけではないのだろう、距離では十分に射程内だが地面の起伏の問題か。
そこにカノン砲を撃ち込まないのは、敵にその位置を知られたく無いからか。
野砲は位置を知られればそれで終わりの様なところも有るので、お互いが移動しながら必死に隠れている真っ最中なのだろう。
『国軍も自走砲にした方が良いんじゃあ無いか?』
『その財布……握っているのは国ですよ』
マンセルの突っ込まれた。
その国の予算を管理しているのは誰だったか? と、そんな意味も込めてだろう。
そしてそれはケチな爺さんを指していると思われる。
ヴェルダンのジジイだ。
『帰ったら……文句の一つも言ってやろう』
回り回って俺が何か言われるではないか……。
……。
あれ?
マンセルが俺に対して何時も金がないと言ってたのは……。
もしかしてヴェルダンを知っていたからか?
だからタイガーもパンターも……4号ですら無理だと……。
ジジイめ……怒鳴り込みは決定だ。




