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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界の戦争
162/317

敵の斥候との前哨戦……その序盤

314ポイントだ!

増えてる。

まだ大丈夫なのか?

大丈夫だ!

いけるんだ!


うん。

頑張ろう。

頑張れる。

応援有り難う。

明日も書くぞー!!








 俺の叫びに即座に動き出す娘達。

 戦車の方は、敵戦車に確実に砲弾を当てながらに東に移動して行く。

 

 『全然、ダメージが通りません」

 バルタの泣き言は何時もの事だが、当たり前の事でも有る。

 3.7cm砲が効く相手の方が珍しいのだから。

 『倒す必要は無い……惹き付けたいんだ、だから同じ戦車に当てる必要も無いぞ」

 うっすらと見える敵戦車。

 俺には殆どが見えていないのだろう……見えているのその一部だけ。

 だがバルタは見える事は関係無い、雨と砲撃で多少は制限されるだろうが……それでも俺よりも確実に敵の位置を理解している。

 「順番にで、良いんだ……」

 見えない敵戦車を探す様にして呟く。

 

 そして敵戦車にも俺達は見えていない。

 正確には砲撃のマズルフラッシュしか見えていない筈だ。

 だから動きながら撃つ俺達のその通った後にしか敵の弾は着弾しない……今の所は。

 だが、これだけ連射すれば進む方向を予測するヤツも現れるだろう、それなりのフェイントも必要に成ってくる。

 『マンセル、ジグザグに……出来るだけ低い位置を探して走れ」

 敵の主力のt-34中戦車の砲は下を向く事が苦手だ、と言うか全くといっても良いほどに下は向けられない。

 だから、高低差の多いこんな丘の続く場所では、丘の頂点に出た時点では水平迄でその先の谷の下には撃ち込めない。

 そこに撃ち込む為には、もう少し進んで車体を下向けに前下がりにしなければいけない……それは詰まりは完全にその姿を晒す事に為るのだ。

 出来るなら、それをタイガーなりパンターで狙い撃って欲しいのだが……未だに砲撃は無い。

 そして敵もそのタイガーやパンターを恐れて居るのか、丘の上に顔を出しては一発撃って直ぐに隠れている。

 様子見だろうか?


 しかし俺達でこれを全部相手するのか? と、絶望的な気分に為る。

 どう見積もっても30輌以上は有る筈だ。

 敵もコチラの情報は掴んで居ると思われる、だから奇襲を仕掛けて来た筈だ。

 わからないのにそんな無謀な事はしないだろう……たぶん、アッチも貴族軍の様なボンクラの集まりならわからんが。

 一先ずは普通の軍隊として考えて、一撃離脱の奇襲ならこちらと同数。

 それなりにダメージを期待するなら倍か三倍の戦力は考える筈だ。

 どちらにもしても、俺達だけでは途方もない数だ。


 『あ!」

 バルタの叫びが頭に響く。

 若干に軽い心地の声音だ。

 

 『どうした?」

 

 『今の、感触が良かったです……倒したかも」

 

 その感触とやらはわからんが……音の響きか何かなのだろうか?

 だが、倒したとは?

 俺はキューポラから頭を覗かせる、雨が顔に掛って鬱陶しいのでそこらに転がっているヘルメットを頭に乗っけた。

 『見えないな」

 戦車の砲の向いている方角での事なのだろうが、闇と雨とで全く見えない、丘の上に立って貰えれば影が見えるのだが……。


 と、イキナリ目線の先で火柱が上がった。

 その炎の光で戦車の形とわかる。

 『ホントに倒したのか?」

 信じられない光景だった。

 ……。

 あれか?

 以前にマンセルが言っていた劣化魔石弾とかの威力なのだろうか?

 『ハンナ、今のは劣化魔石弾とかか?」

 もしそうなら大きな戦力だ。 

 『劣化魔石弾は、t-34を倒せるのか」


 『そんなの無理に決まってるでしょう」

 否定したのはマンセルだ。

 『劣化魔石弾は、タングステン弾のプラス10パーセントくらいって以前に言いましたよね」

 

 ああ……そう言えば。


 『だから100mの距離でなら7cmの鉄板迄ですよ」


 『て、事は……」


 『あれはt-34じゃあ無くて別の……軽戦車ですかね」


『軽戦車なら……t-70か、t-60」

 フェイク・エルフがソ連製の戦車に拘っているなら、生産量の多いその辺りの筈?

 『またはbt-7か……」

 5000輌以上の生産で、大戦中の戦場に普通に有ったとするとそのどれかだと思うのだが。


 『機関砲に撃たれた感じも無いのでt-60は無いですよ」

 そうだなt-60軽戦車は20mm機関砲を積んでいた筈。

 『それに、まだ劣化魔石弾は使ってない筈だから……消去方でbt-7じゃあ無いんですかね?」


 それにハンナも頷いて居た。

 戦車の話では無くて劣化魔石弾をの話でだろう。


 『前に戦車長が、環境とか人体にとか言っていたので、そんなに多くは積んで無いですし……それにコストも考えると」

 マンセルが唸る。

 値が張るのだろう。

 『今回は20発です……早々は撃てませんね」

 


 『その劣化魔石弾だが……どう言うモノなんだ?」

 劣化ウラン弾とはモノが違うのか?


 『魔石ですけどね、灯りや暖房に使われてる魔石って見た事は有るでしょう、ほら、戦車の中に有るこれです」

 車内のランタンの様な灯りを指差している。

 確かそれは暖房にも為ると以前に聞いた。

 その2つはモノが別物なのかはわからない。 

 『それのエネルギーの使い果たした魔石……本来はゴミなんですけどね」

 敵の戦車の砲弾を器用にかわしながらに続ける。

 『一定の力を与えると、使い切れずに残った魔素が燃え上がるんですよ、熔けて火が付く感じです」

 バルタも次々と敵戦車に当てているが、倒せる戦車には当たってない様だ、全てが弾かれている。

 『その溶けた時にセルフ・シャープニング現象ってのを起こして、鋭い針に自分から形を変えるんです、それが刺さって穴を開ける……序でに鉄も溶かす程に燃え上がる」


 そこまで聞いて、まるっきり劣化ウラン弾と同じじゃあないか?

 『比重も重いのか?」

 劣化ウラン弾のその高い威力はそのせいでも有る。

 

 『いえ……軽いですよ」

 戦車を大きく曲げながら。

 『だから、初速が速くなる……その分、有効射程は短いですけどね」

 バルタの撃った砲弾が敵の戦車に火花を上げさせるのが見える。

 『100mが限界で、500mに成れば通常弾とかわりないですね」


 そこは劣化ウラン弾とは違う様だ。

 やはり別物か……。

 『環境には影響は?」


 『有るかもですね……戦車長に言われて調べたんですが、燃える時には魔素を巻き散らかしている様です、詰まりはダンジョンの魔物を倒した時のその感じ」


 『それは、魔素酔いも有るのか……」

 転生者の俺には大した事は無いが、現地人のマンセルや獣人の子供達には影響が出る可能性が有るのだろう。

 やはりあまり使いたく無い砲弾だ。


 『製造法も聞きますか?」

 マンセルは集中すると口寂しく為るタイプなのか?

 何時もは酒でそれを誤魔化しているが、戦車の中に酒の瓶が見えない。

 たぶんだが、テントに持ち込んでそのままに成っているのだろう、今回は補給もしていないし……マンセルの燃費を考えればもうそんなに残ってもいなさそうだしな。

 

 『いや……それは後でいいよ」

 そんなマンセルに付き合う程に暇でも無い。

 ってか……十分に付き合ったろうから、後は独り言でなんとか凌げ。


 『そろそろ奴等も本気で来るぞ」

 出遅れた戦車も揃って、初撃の様子見も終わる筈だ。

 こちらからのマトモな反撃も無いとわかったろう。

 今までの丘の上での警戒するような動きから、その丘を降りてくる動きに変わる筈だ。

 『ここからが本番だ」

 そう呟いたその時。

 バルタが2輌目の戦車を仕留めた。


 火を吹く敵戦車。

 今回は近い所に居たヤツだ、だから形もハッキリとわかるbt-7だった。


 それが合図と為ったのか。

 敵の後方から照明弾が打ち上げられる。

 獣人の居る俺達には有利も不利も無いが……普通の人間だけの奴等には有利しかない。

 そしてその照明弾を打ち上げると言う事は、奴等は獣人を使っていないと為る。

 俺が一番に懸念した所だ。

 見えない者と見える者とでは、その戦いに歴然の差が産まれる。

 詰まりは俺達は見えるが、奴等には俺達は見えないのだ。

 この照明弾が消えればだが。

 

 だが、明りが灯された事で俺も奴等が見えた。

 丘の上に続々とt-34が現れる。

 その中の混ざる敵の軽戦車、bt-7とt-70も見える。

 そして数は少ない様だが、丸いシルエットのM4シャーマンだ。

 それらが一斉に砲を並べる。

 狙いは俺達から少しズレているが……その先は、貴族軍のキャンプと並んで停まっている戦車だった。

 

 そして、敵戦車の砲撃が始まった。

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