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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界の戦争
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戦車チョコレートとカチューシャ


 大きなノルディスク・アスガルド10人テントが向かい有って2つ。

 その間には大きな天幕が張られて、中心は火が焚かれて居た。

 そして俺のポップアップテントもその奥に建てられている……少し雑な位置にだが。

 まあそれは良しとして、俺は中央で集まる皆の所に近付く。

 今日の晩飯は羊豚の肉煮込みのようだ。

 もちろんハンナのパンも有る。

 もう出来上がって居るようにも見えるのだが、まだ誰も口を付けては居ないようだ。

 俺を待っていてくれたのだろうか?

 ならと、適当な位置に座る。

 そうしておけば誰かが料理を持ってきてくれる筈だ……主にバルタなのだが。


 だが、待っていても一向に配られる気配が無い。

 何故だろうか? と、当たりを見ればそのバルタが居なかった。

 「あれ……居ないな」

 

 「ニーナとオルガはお弁当を配りに行ってますよ」

 アリカが大鍋を確認しながら教えてくれた。

 「エレン達三姉妹も一緒です」

 リリーが食器の準備をしつつ。


 「で、バルタは?」

 相変わらずのガスマスクの麦わら帽子が俺の前を横切るので尋ねてみた。

 エルは何故にそれが気に入ったのかはわからない。


 ガスマスクが俺を見て。

 「シュコー……」

 「戦車の所にマンセルさんを呼びに行ったって」

 翻訳してくれたのはローラ。


 なんだ……居ないのはバルタだけでは無かったか。

 気付いて居なかった事は悟られない様にした方が良さそうだ。


 「先に食べる?」

 花音が珍しく優しい。

 心を読める能力は人を信用出来なく為る、表面上の社交辞令の裏の本音が透けて見えるのだからそれも当たり前だ。

 だからか、俺にはあまり近付かない。


 「違うよ」

 と、いつの間にか隣に立つ花音が言った。

 「何時もわけわかんない事ばっかり考えてるから、面倒臭いと思ってるだけ」

 俺の肩に花音の手が乗せられていた。


 俺の……性格のせいだったのか。

 面倒臭いってなんだよ、少しだけ思慮深いだけだろう?

 

 「それ」

 花音は溜め息を着いた。


 そして俺も溜め息を吐く。

 「みんなを迎えに行ってくるよ」

 そう呟いて立ち上がる。


 「行ってらっしゃい」

 手を振る花音は。

 「まあ……気にしないで」

 ニコニコと。


 気にしないでの、意味がわからん。

 面倒臭いって言った事にか?

 心を読む事にか?

 そもそもの花音そのもにか?

 ブツブツと愚痴りながらに天幕から外に出て、傘をさす。


 黒い大きな傘。

 コリンが渡してくれたヤツなのだが、年代はと骨と持ち手の部分を確認した。

 俺の時代のモノでは無いのはわかったが……造りが工業製品では無さそうだ。

 大戦中のものかコチラの世界のモノかはわからない。

 コリンはこれを何処で手に入れたのだろうか?

 等と考えてながらに歩いていれば……確かにこんな頭の中を覗いても面倒臭いだけかと納得もさせられる。

 

 少し気が滅入る。

 傘を叩く雨音のせいにして泥を踏む付けて、暗い夜の中を歩き続けた。

 今日は月も見えない。

 

 幾つかのテントを横切り、汚く使い込まれた天幕を目指す。

 一瞬、空が光った。

 そして地鳴りの様な雷の音。

 その間隔は短い。

 近い何処かに落ちたのだろう。


 「風が無いだけまだマシか」

 でもそのうちに吹き出すかも知れないが……。

 そう為るとテントは辛い。

 風で飛ばされる事は無いだろうが、煩くて寝られんだろうなと嵐だけは勘弁だと願うばかりだ。


 雨の音の隙間から賑やかな話し声が聞こえ始めてきた。

 傘を少しずらして見れば、奴隷兵士達の天幕が見える。

 その声の中には三姉妹の笑い声も混じっていた。

 楽しそうに笑ってやがる。


 「パト!」

 俺を最初に見付けたのはアンナだったが、三姉妹は揃って俺の方に走り寄ってきた。

 そして、俺に何かを差し出す。

 

 「これ貰っちゃった」

 三人が各々に持つのは、赤色のパッケージの板チョコ。

 その文字を読む。

 ドイツ語の様だ……俺には読めない言語の筈だが、それの意味は理解出来た。

 転生者には翻訳の能力が漏れ無く着いて来るという話だったが……それは同じ異世界の外国語にも通用するのかと感心してしまう。

 そして、書かれていた文字は……戦車チョコレートと有った。


 あぁ……と、頭を抱える。

 「それは、食うなよ」

 これは誰のか知識なのだろうか?

 小次郎か、それともライターや武器の持ち主か?

 俺が倒した転生奴隷兵士のヘルメットも有ったが……今はそれが誰の知識かもわからんが。

 その戦車チョコレートは駄目だとわかる。

 「それには麻薬が練り込んで有る」

 第二次世界大戦中にドイツが兵士達に配ったモノだ。

 戦車チョコレートと名前が有るのは最初の検証段階で戦車兵が選ばれたからだ。

 煩く、狭く、限られた視界の中で敵に向かって進む戦車兵の恐怖を抑え込む為に麻薬を使う実験。

 その結果、全ての軍に配られる事に為る。

 恐怖も痛みも空腹も睡眠欲さえ消し飛ばす、そんな強力な薬だ。


 「麻薬?」

 なにそれと、そんな顔の三人。


 「この間の植物の魔物に幻覚を見せられたろう?」

 頷く三人を見て続ける。

 「あれを見せる為の薬だよ」


 ジッと戦車チョコレートを見詰めた三姉妹。

 「食べられないの?」


 「頭がオカシク為る程の恐怖を感じた時に、違う方向で頭をオカシクさせてその恐怖を忘れる為のモノ……だから、普段は食べない方が良い」

 効果は半日か1日かで、その後が大変に為る。

 麻薬の副作用で抑うつ症状が出る。

 三姉妹に自殺でもされたらたまらん。

 そう成らなくても依存の恐怖も有るのだ、ほんの一瞬の能力向上を得るには失うモノの方が多すぎる。


 だが当時のドイツ軍兵士に取ってはとても大事なモノでも有った筈。

 二時間後か三時間後には銃で撃たれて死ぬのだ。

 後遺症も依存も死ねばそれは起こらない。

 命の重さはこのチョコレート依りも軽いのだ……それが本当の戦争だ。


 「これをくれた人に礼を言わねばならんな」

 俺の心は複雑では有るが、その者にとっては意味の有る贈り物の筈だ。

 「誰に貰った?」


 三姉妹に手を引かれて天幕の中央に連れて行かれた。

 ソコでは大きな寸胴鍋を並べたニーナとオルガが居た。

 二人でお弁当を配っているらしい。

 お弁当とは言っても、食器を持った奴隷兵士に鍋からすくった食べ物を入れて居るだけの様だ。

 何処かで見た配給食料のその感じに見える。

 引き換えに硬貨を貰って居る所だけが違う様だ。


 そして料理は羊豚だった。

 俺達のテントで見たそれと同じモノ。

 皆が旨いと口々に言っているのがそこかしこから聞こえてくる。


 「お手伝いをしていたら貰ったの」

 三姉妹がそう言って、その人物を探す為にかキョロキョロと首を振り始めた。

 何処かに行ってしまったのだろうか?


 まあ、見つからないなら仕方無いとニーナ達に声を掛ける。

 「お前達もコレを貰ったか?」


 俺が指差す、三姉妹の手に持つチョコレートを見て。

 「私達は断ったわ……お代は普通に頂いてるから」


 そうかと頷いて。

 「もう暫くは掛かりそうだな」

 並ぶ奴隷兵士達の列を見た。

 ニコニコと娘達の配る食事が楽しみな様子も伺える。

 俺も終わるまでは待つとしよう。

 邪魔に為らない天幕の端に……ギリギリ濡れない所に移動して、外の様子を伺う。

 相変わらずに雨は激しい。

 時折光る雷も落ちる場所は近い様だ。

 そして、その方角は敵が居る北を向いている。

 こういう時に奇襲を掛ければ……勝機も有るのだろうにと、やはり溜め息だ。


 そんな俺に後ろから声を掛けて来た者が居た。

 「貴族様」

 振り向けば、少し身形の良い感じの男と……その後ろには見覚えの有る男。

 「先日はこの者が失礼な事を致しまして……」

 丁寧に謝る手前の男。

 後ろは以前に酔ってクロエ達を殴った男だった。


 「いや……俺も銃を抜いたのでお互い様にしておこう」

 顛末書も書かされたのだし、俺も悪いのだろう。

 

 「以後は気を付ける様にはしつけますので……」

 うんたらかんたら謝る男の話は適当に聞き流す。

 「その上に上等な食事の用意まで……」

 まだ続くのか? と、愛想笑い。

 

 「それは、代金も頂いている」

 

 「食事の価値よりもはるかに安い金額で、とても助かって……」


 「子供達の小遣い稼ぎだからな、気にするな」

 段々と面倒に成ってきたので、話に被せる様にして返事を返す。


 「それよりも……」

 戦場に為るであろう方を見ながら。

 「これからの事の方が……」

 俺の話も途中で切られた。

 側のこの男にでは無い。

 雷や雨の音にでも無い。

 ……。

 遠くの方で光る筋が闇夜の空に舞い上がるそれだ。

 

 俺の異変に気付いた男も黙り込む。


 そして、何処からか下手なバイオリンの音の様なモノが聞こえ始めた。

 何処からかじゃあ無い、北の敵の方からだ。


 俺は勢いを付けて振り向いて叫ぶ。

 「カチューシャだ!」


 目の前の男の口はポカンと開け放れて居るだけ。


 続けて叫ぶ。

 「敵襲だ!」

 光の筋が真上まで来た。

 「スターリンのバイオリンだ!」


 それとほぼ同時に味方の陣地内には、ミサイルが降り注ぎあちこちで爆発が起きた。

 カチューシャ……ソビエトのロケット砲。

 先に奇襲をやられた。

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