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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界の戦争
150/317

水を得たヴィーゼ

302ポイント。

今日は変動無しか。

それも仕方無い。


明日は頑張ろう。

みんな有り難う。

また明日!


 遠ざかる岸を見ながらエノに運転を替わって貰い、俺はシュビムワーゲンのボンネットを伝い歩き鼻先のスペアタイヤの所に移動した。


 そして釣竿の準備。

 竿にリールを着けて糸の先にプラスチックのルアーを付ける。

 俺はシマノよりもダイワ派だ。

 そしてスピニングリールよりもベイトリールが好きだ。

 その違いは単純にカッコいいからだ、竿にリールがぶら下がっているよりも竿の上に丸いリールが載っかっている方が断然良い。

 そして柔らかい竿が好きだ。

 そんな理由で、竿はハートランドのノイケプラッガーと言うモノを選んだ。

 リールはミリオネアと言うなの金と銀の丸い鉄の塊の様なモノ……カッコいいし綺麗なのだ、コレが。


 と、棹先にピーナッツ2と言うルアーをぶら下げて投げる準備は万端なのだが……さっきから目の前をヴィーゼが泳いでいる。

 

 「ヴィーゼ君……いい加減に泳ぐのは辞めてくれないか?」

 いくら小さいとはいえ子供がバシャバシャ泳いで居ては釣れる魚も居なくなる。


 「え……ホントに釣りするんだ」

 今更ながらに驚いて見せるヴィーゼ。


 「だから釣りだって言ってるだろう」


 そんなヴィーゼ、チラリと岸の方を見て。

 「あの貴族様が居るから言ってるんだと思ってた」

 見た先にはアルロン侯爵とマンセルの孫が話をしているのが見れる。

 「マンセルのおっちゃんも、そう思ったから休憩なんて言って修理を止めたんでしょう?」


 「なんでそんな事を?」


 「だって、3日くらい居ないって言ってから……あの戦車は大きいし動かせないけど、攻撃は出来るんでしょう? 砲塔は動くって言ってたし」


 「詰まりは、マンセルはイザと言う時の為にタイガー1戦車の修理を送らせたと?」


 「じゃあないの? アレだけ急いでたのに急に休憩だなんて変じゃない」

 

 「ヴィーゼは中々に賢いな……それで裸でなければ大いに誉めてやるのに」


 「うわ……馬鹿にしてる」

 チャプンと水に潜ってしまったヴィーゼ。


 「でも……そう思ってるのはヴィーゼだけじゃあ無いと思うよ」

 エナも参加してきた。

 「あのバルタだって、水が大嫌いなのに一緒行くって言ってたし」

 大きく頷いて。

 「決断力が無くて何時も迷ってる、考えてるけど纏まらない、そんなバルタが……よ」

 首を振ったエノ。


 いや……バルタもえらい言われようだな。

 「まあ……みんな賢いって事だな」

 溜め息を着いて。

 「俺は釣りに行くんだよ……多少の寄り道はするかも知れないが、断じてこれは釣りなのだ」


 「寄り道って……」

 そっちがメインでしょう? と、そんな顔で俺を見るエノ。


 「釣りです」

 ヴィーゼの居なくなった水面、シュビムワーゲンが進む方向の90度横に竿を降ってルアーを投げた。

 少し柔らかく太目の竿はカーボンでは無くてグラスウールで出来ている、20数年前のモノとは思えない綺麗さだ。

 まあそれも当たり前の事では有るが……1997年のその時代で取って来た新品なのだし。

 しかし、その年代でもグラスロッドは珍しい、本来はカーボンに取って変わられてもっと古い時代の素材なのだ……それの復刻版の様な竿なのだ。


 ツリツリツリツリツリツリ……。

 剛性感バッチリのリールのハンドルをユックリと回す。


 「ホントに釣りしてる」

 呆れ声のエノ。


 「人の言う事はちゃんと信用しようね」

 リールを巻きながら……集中して。


 「人を信用しないのはパトの方じゃあ無いの?」

 ハンドルにもたれ掛かって溜め息。

 「あの貴族のオジサンもそうだけど……今までもそうじゃない、誰も信用しないし」


 「そんな事はないぞ……お前達は会ったその時から信用してるし……ペトラ達だってそうだ」


 「それは、私達が奴隷だからでしょう……裏切れないとわかって居るから」

 そう言ったエノをヴィーゼが背後から否定する。

 水中に潜り、俺の背中側に回って顔を出して居た。

 「違うよ、私達が子供だからよきっと……裏切ってもなんとでも為るって思ってるからよ」


 「どちらも間違いです」

 二人とも、俺をどんな人間だと思っているんだ?

 二人じゃあ無いのか……6才のヴィーゼがこんなに賢く大人びた事を言うのだ、普段から皆が話している事を聞いていてに違いない。

 普段のアホっぽいヴィーゼは何処にいった……マッ裸で泳いででいるその姿はアホそのものだが。


 「どちらにしても……あの貴族のオジサンを信用していないのは確かよね」

 エノは首を振って。


 「信用しています」

 俺はリールを巻き続ける。


 「嘘ばっかり……じゃあ、釣りに行くって貴族のオジサンに言った?」

 ハンドル越しに俺を見て。

 「あのオジサンは一応はお客さんだよね? 挨拶して出てきた?」

 

 「いや……何も言わずに出た……な」

 ルアーには何も掛からずに戻って来た、それをもう一度投げる。


 「ほら……信用していないじゃない」

 助手席のペトラの肩を叩いて。

 「ねえ、そう思うでしょう?」


 突然に話を振られたペトラは、え! って顔に成る。

 

 それを見たエノは溜め息を吐き。

 「一番に年上なんだし……なんか言ってよ」

 

 「え……でも」

 どぎまぎを隠さずに俺をソッと見たペトラ。


 ザバっと音を立ててシュビムワーゲンの後席によじ登ったヴィーゼがその後ろから。

 「パトは私達が何も言っても怒らないよ」

 そう言うのだが……俺も怒る時は怒るぞ、と。

 「ヴィーゼ君……服を着ようね」


 「……あ」

 そう言われたヴィーゼ、アホ顔をさらして。

 「置いて来ちゃった……」

 

 


 そのままシュビムワーゲンは湖を北上し。

 俺の投げるルアーには一匹も掛からない。

 そして夜を迎えた。

 綺麗な月が湖面を反射している。


 この湖は思っていた依りも更に大きい様だ、西を見ても東を見ても岸は見えない、もちろんこれから向かう北も今まで進んで来た南にもだ。

 何処を見てもキラキラと波間に光る月光の反射だけだ。

 シュビムワーゲンが起こす波の音と、進む為の廃棄音が無ければうすら怖く為るだろう。

 

 「寝ないの?」

 後ろの席で寝ていた筈のエノの声がした。

 冬の始まりのこの時期の夜は流石に寒いのか毛布を被ったままでその顔を俺の顔の横に近付ける。

 助手席のペトラや後席の隣のヴィーゼを起こさない為の配慮だろう。

 

 「湖の大きさがわからないからね、少しでも先に進んでおきたい」

 もう随分と進んだが……国境は越えたのだろうか?

 湖の半分位だと聞いては居たのだが。

 何も無い湖面の上ではその実感も無い。


 「しかし……ヴィーゼって実は賢いのだな」

 何とはなしの雑談だ。

 実は暇でしょうが無かったのだ。

 話し相手に成ってくれるならそれは有難い。


 「そうね……内弁慶な所が有るけど頭は良い方だと思うわ」

 チラリとヴィーゼを見て。

 「盗賊の檻で年上ばかりと話をしていたからだと思う……そんな年上はすぐに居なくなっちゃうのだけど、またすぐ別の人が来たから話し相手には困らなかったと思うわ」

 少し間を置いて。

 「それも自分が大丈夫って思えた相手だけだけどね」


 「ふーん……そう言えばエルも賢いもんな」

 その二人は苗字が無い、正確には本人達もわからない。

 それを理解出来る前に盗賊に囚われて狭い檻の中で過ごしていた。

 話す言葉も、モノの考え方もソコで誰かの真似をして覚えたのだろう。

 二人の性格もそこで出来上がったものなのかも知れないな。

 「それに、今日は良く喋ってくれたし……俺も認めてくれたのかな?」


 「さあ……どうだろう」

 肩を竦めたエノ。

 「水の中で……自分が一番に得意な場所に居たから、安心しただけかもね」


 まあそうかも知れない……奴隷と所有者という立場を考えると、認めるとか認めないとか信用とかは端から有り得ない事なのかも知れない。

 俺は身体事半身に後を振り返りヴィーゼを見た。

 

 ヴィーゼは毛布も被らずに、股と口を大きく開いて寝息を立てている。

 スッポンポンのその状態で、大事な所も丸見えだ。

 まあ、獣人も獣ッポイ所が有るとして、腹を見せて寝ているのは信用されて居るからであろうと、そうして置くことにした。

 「エノ……でも大事な所は隠せと言っといてくれ」

 

 言われてもう一度ヴィーゼを見たエノ。

 「何時もの事でしょう?」


 「女の子なんだから……」

 もう誰にも注意されなくなったその姿は……ヤッパリ駄目だと思うんだが。

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