戦場の貴族
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良かった。
明日も頑張る。
みんな有り難う。
また明日!
俺は親衛隊の詰所で簡単な話を聞かれて調書を取られた。
とは言っても、俺も事の経緯は良くわかっていない。
病院から出ればその時には既に騒ぎに成っていたのだから。
突き飛ばされた娘達を守る為に注意をこちらに向けようと発砲したのだ。
これをどう説明したところで、二.三行にしか成らない。
余りにペラッペラの調書に担当した親衛隊の隊員は頭を抱えていた。
その上で困った事に、俺はシグネットリングを所持していない。
シグネットリングとは手紙等の封蝋をする指輪……溶けた蝋に形を着ける指輪印章だ、それはヴェルダンの爺さんからは渡されてはいない。
このままではその書類に身分を乗せられないと目の前の担当は更に頭を抱えている……そんな演技のようだが。
まあ、カードが代用出来るのだ、が。
それは一般の民間の遣り方なので、それを親衛隊が貴族に対してヤレとは言えないのだろう。
先程からチラチラと俺に視線を飛ばしてくる。
まだ別に他の方法も在るのだろうが……時間が掛かりそうなので、懐からカードを出して渡してやる。
さっさと済ませたい、面倒臭いじゃあないか。
目の前の担当官も、貴族様からの申し出なら仕方無いと、これまた下手な演技でカードを受け取って、それを調書の右下に置いて……。
……。
俺をチラ見する。
ああ、と……ボケた振りして、俺はその置かれたカードを指でつついてやった。
同時にボヤッと光るカード……それを取り上げれば下に敷いていた調書にカードがコピーされて写っている。
もちろん、それは転写されているだけで、情報は読めるが悪用は出来ない。
シグネットリングかマイナンバーカードの代用品の様なモノだ。
そこまでしてペラッペラの調書も少しは形に成ったと安堵の溜め息をつく担当官。
親衛隊の厳つい黒服も見た目だけで、中身は一般庶民出の成り上がり小役人の小心者の様だ。
そして書類とハンコ好き。
国防警察軍とは随分と違う印象だった。
まあシグネットリングは今度、爺さんにねだってみるか……自分で造っても良いだろうけど、ヴェルダンの承諾さえ有れば簡単だろうが。
貰うよりも……その方が早いかも知れない。
そんなわけで小一時間程で解放された俺は皆の待つ外に出る。
子供達と娘達が戦車の横で集まっていた。
その中心はさっきの貴族様だ。
子供達から貰った菓子を食っていた。
まだ居たのか……とは言わない。
それはこの貴族の気遣いなのだろうと推測出来るからだ。
俺が離れて居る間に子供達や娘達を見ていてくれたのだろう。
ここは其ほど治安が良く無いのは先程の事でもわかるので、有難い事だ。
だが……さてと困る。
色々と助けて貰ったのだが、それをどう返したものか?
貴族同士で上下も有る、そのまま子供達のお菓子で済ますワケにもいかないだろうしと、悩まされた。
所詮は俺はナンチャッテ貴族だ、小次郎の知識は有るがそんな猿真似はすぐにバレるだろう。
だから貴族間の貸し借りの流儀は却下だ。
そもそもそんな権限は俺には無い。
そして渡せるモノも無い。
いや……有るのだ。
小次郎の知識の中にそれは見付けられる。
モノ……現物……それは奴隷の娘だ。
だが、それを差し出すワケにはいかない。
娘を助けてもらって、娘を取られたんでは本末転倒も良いところだ。
一晩、貸して渡すのも含めてだ。
さてそんな困った顔をして近付いた俺に、その貴族が声を掛けてくる。
「無事に出られた様だな」
苦笑いで答えて。
「お陰様で……有り難う御座います」
「なに……気にするな」
その言葉は催促にしか聞こえん。
「そう言えばお一人ですか?」
世間話で場を繋いで、何処かに活路を探さねば。
ああ……貴族って面倒臭い。
「皆には暇を出した」
短く一言で済ませる。
娘達の前だからとそれ以上は語らないようだ。
そんな感じのヒマなのだろう。
「それでお一人なのでしたら、お食事でもどうですか?」
見栄を張って全員に褒美を出したのだろうが……明日の朝までは相当にヒマになるんじゃあないか?
この後に自身も買いに出る積もりだったのなら別だろうが。
「食事な……」
少し考え出した貴族。
その積もりだったのか?
だが、答えは違った。
「この街にはまともに食事出来る所は無いようだぞ……」
ん?
と、街を見渡す俺を見て。
「食堂も含めて、それ用の店に成ってしまっている様だな……暫くは無理だろうこの街での普通の食事は」
子供達と娘達を一緒には連れては行けないとそう言う配慮か。
成る程。
「でしたら……街外れの何処かでキャンプをしてご馳走しますよ、娘達の料理は中々ですよ」
その状態の街なら宿も、女を買わねば無理なのだろうと諦めるしか無さそうだ。
「そうか……そうまで言うならご馳走に成ろうか」
ニコやかにそう答えた貴族に、俺はバレないように心の中で驚き、舌打ちをする。
てっきり、これから用事だとそう言って断られる……その積もりだったのだ。
金の有る貴族が1人でウロウロするのはその積もりだからだろうが。
当てが外れた。
「この街には長い滞在ですか?」
女にも飽きたのだろうか?
「いや、昨日に着いたばかりだ」
その返答も予想外だ。
違う趣味なのか?
「実を言うと、この街には寄る積もりも無かったのだが……」
少しいい淀み。
「戦車が壊れてしまってな、動かせないんだよ……で、一番近い街で修理を出来る者を探そうとしたら、街はこの有り様だ」
そして俺達の戦車に目を向けて。
「出来れば、何処かの他の街に送って貰えれば有難いのだが」
俺に目配せをくれる。
成る程……そう言う理由か。
俺達を助けたのも、戦車が目に入ったからか。
「それは構いませんが……配下の者はどう致します?」
何人居るのかはわからないが、一緒運べる人数だろうか?
「ああ、それは気にせんで良い……皆には暇だと言ってある、修理が済むまでは自由にしていれば良い」
配下に任せずに自分1人で解決させる積もりなのだろうか。
こいつもまた……珍しいタイプの貴族だ。
笑い出したその貴族。
「私も、君と同じようなものだよ」
それを聞いて、しまったと顔を歪めた。
思いが顔に出てしまっていたのだろう。
目の前の貴族は自分の紋章衣を摘まんで。
「この家には跡継ぎが居なくてね……まあ戦争だしそれ以前に魔物に殺られたりで良く有る話だ、で……別の家の三男だった私が養子に貰われたのだよ」
自分の左手をかざして見せた。
「君と同じでシグネットリングも無い……」
また笑って。
「家の血縁の娘の誰かに息子が産まれれば、それが本当の貴族様だよ」
目の前の男が産ませられればだろうけど……つまりは種馬にされたのか。
それは小次郎も同じ様なものだった。
ヴェルダンの長女は上手く身籠ったが……まだ息子かどうかは決まっては居ない。
俺はそれの保険でも有るのだろう。
娘だったら、俺がヴェルダンの孫娘のどちらかに……だ。
ついでに貴族としての勤めも果たせ、が……戦争なのだ。
それで死ねば、また代わりを探すだけなのだろうし。
つまりはここ、戦場に出てくる者は俺や目の前の男の様なナンチャッテ貴族か……跡継ぎに恵まれたその次男坊以下と、そうなるわけだ。
例え死んでも家に取っては惜しくもないそんな人間だ。
大昔からの魔物退治も貴族の仕事なのだろうから……それが普通で当たり前の事なのだろう。
小次郎の意識はそんな事は教えてもくれなかったが……しかし、知ってどうなる? と、そんな話でも有る。
それにナンチャッテでは有っても貴族は貴族。
そこに上下は当たり前に有る。
俺達は貴族のその名前を背負ってここに呼ばれたのだから。




