腹の立つ街
290ポイント!
上がってる。
嬉しい。
明日も頑張ろうって、モチベーションも上げられる。
有り難うみんな。
また明日!
病院の建物に俺は1人で向かう。
動かせないエルはいったんはそのままだ。
医者を呼び出して確認してもらう方が良いだろうと思ったのだ。
その病院の前に立った時、後ろからコリンがやって来た。
「私も行くわ……説明が必要でしょう」
薬士として病状の事は話しやすいと、そう言うことか。
そしてその手には俺の紋章衣が握られていた。
マンセルに持たされたのだろう。
確かにそれは、話を聞かせる為にも有効に使えるだろうと納得する。
もうそろそろ、常に紋章衣を身に付けておいた方が良さそうだ。
頷いて待つ事にした。
待っている間に、珍しくマンセルが戦車を降りて歩いているのが目に入る。
警察軍のガレージに停まっている、マンセルが言うところの戦車擬きに近寄っている。
フィアット3000A型豆戦車に興味でも有るのだろうか?
いや、その豆戦車の前面ハッチを叩いて居る様だ。
その仕草を見るに、知り合いの戦車なのだろうか?
「どうしたの?」
横に来たコリンが俺の肩を叩く。
早く行きましょうと催促だ。
「いや、何でも無い」
そう返して、紋章衣を着込んでから病院の両開きの扉をくぐる。
中は広めのロビーだが、椅子等は無かった。
正面横にカウンターが見えてその奥に何人かの職員が見える。
医者や看護師には見えない、完全な事務系の様だ。
俺がロビーの中央に進むと。
1人の年配の男が、そのカウンターから出て来た。
「どうかされましたか?」
その男はチラチラと俺の紋章衣とコリンを確認している。
その目何かを迷っている様だ。
「旦那様、私が説明しても宜しいでしょうか?」
横に立つコリンが今まで聞いた事もない言葉使いで話し掛けてきた。
面食らった俺は曖昧に返事を返す。
だが、目の前の男の迷いはそれで消えたようだ。
目線をコリンだけに合わせた。
「実は、旅先で怪我をしてしまったモノがおりまして、応急措置はしたのですが一度、診察をと思い伺ったのですが」
「ほう、それは大変な目に会われましたな……して、患者は?」
「外の車の中に寝かせております」
「今、先生をお呼び致しますので……ここで、少々お待ちをお願い致します」
頷いた男は、カウンターに向き直り仕草で何かの指示を出す。
そしてもう一度向き直り。
「して、どの様な、お怪我をされましたか?」
待っている間に問診か?
目の前の男は医者には見えないので、退屈させない様にか?
そんな気遣いは要らん。
「頭に受けた怪我で、意識がハッキリしません」
コリンがそれに答える。
男は大層に驚いて見せた。
そして、チラリとカウンターに目をやる。
その先には若い女が何かを書き留めている仕草が見え隠れしていた。
問診票でも書いているのだろうか?
面倒臭い事をする。
そんなモノは後で良いだろう、先に医者を連れて来いと言いたいがソコは我慢だ。
「失礼ですが、患者様の年齢と性別をお教え願いませんでしょうか」
「名前はエル、八才で狐の獣人の女の子だ」
辛気臭い言い様では話が進まんと、少しイライラし始めた俺が口を挟む。
「あ……」
コリンが小さく唸る。
同時に何やら書いて居たカウンターの女も止まった、ペンを横に置く。
そして、目の前の男がまた迷い始める。
その態度の変化に驚いた俺は。
「なんだ? どうした?」
「失礼致しました」
先ずは頭を下げる男。
「当病院は人専門でして……その」
どう説明をするべきかと悩んでいる様だ。
と、ロビーの奥で通路の影から怒鳴り声が響いてきた。
「獣人だ! 何処の馬鹿貴族だ……そんなモン動物病院に連れて行け!」
「先生、落ち着いて下さい……聞こえてしまいます」
先に呼びに出た者だろう。
目の前の白衣の老人を必至に宥めている。
「済みません……今、紹介状をお書きしますのでそちらを持って街の外れの……」
しどろもどろに答えた目の前の男。
「いえ、結構です」
と、その言葉が終わらないうちに返すコリン。
「旦那様、参りましょう」
そして、俺の手を引き踵を返した。
「腹を立ててはいけませんよ……コレが普通の対応です」
それは小声で俺だけに聞こえるように。
だが、口調はやはり何時もとは違う。
それはコリン自身が腹を立てていて、自分をも戒めて居るようにも聞こえた。
病院の出入り口の扉を乱暴に押し開けて外に出る。
なんなんだあの態度はと、込み上げる怒りはどうにか押さえる事には成功したのだが。
外では、別の騒ぎが起きていた。
ハンナが軍服を着た男に、車か引き摺り出され様としている。
それを止めようと、子供達と娘達が叫んで居た。
軍服の男は酒に酔っている様だ。
「金は払うって言ってるだろうが、大人しく着いて来い」
ダミ声が響く。
「だから、私達は違うって言ってるでしょう」
軍人に掴み掛かり叫んで返して居るのはクロエだ。
それを突き飛ばして、引き摺り出したハンナ諸共に地面へ転がして睨み付けた男。
「なんなんだ!」
叫んだ俺の声に反応した子供達。
心配そうにして俺を見る。
もちろん銃に手を掛けて居る者は居ない。
親衛隊の詰所の前でそれは駄目だと理解して居るワケでは無いようだ。
どうして良いかがわからない様で狼狽えて居た。
俺は早足で押し倒された娘達の所に向かい、同時に腰の拳銃を抜いて空に向けて発砲すた。
辺りに銃声が響きわたる。
突然のその音に噴水広場に居た全ての者が動きを止めてコチラを向いた。
その中でただ1人動く俺は。
「キサマ、何をしている」
そう叫んで拳銃の銃口を向けた。
イキナリの発砲と俺の剣幕に驚いた酔った軍人はヘタリと尻餅を着く。
「いえ……ちゃんと金は持ってるんです」
懐から幾つかのコインを出して見せた。
「コイツらは売り物じゃあ無い」
頭に来た俺は軍人に掴み掛かった。
「何の騒ぎだ」
その俺の背後から数人の男の声と気配。
振り向けば、黒服の親衛隊が詰所から飛び出してきた様だ。
俺と俺の持つ銃を見咎めた親衛隊達は、今度は俺に銃を向けて口々に叫ぶ。
「銃を下ろせ」
「その男を放せ」
だが、それが切っ掛けに成った。
子供達が一斉に銃を親衛隊に向けて、戦車の砲塔迄もが回りだした。
静まりかえる噴水広場。
時間が止まった様だ。
銃を構えたままに睨み合う両陣営……子供達と親衛隊。
その時間をもう一度動かしたのは、広場に居た別の男だった。
「その貴族は悪くない」
そう言って出て来た男も紋章衣を着た貴族だった。
その丈は膝の下、脛を半分ほど隠している。
俺よりも上位の貴族様だ。
「見ていたが……その奴隷兵士が貴族の持ち物を盗もうとして居たようだぞ」
わざわざ貴族と連呼したのは、親衛隊に向けての事だろう。
貴族を裁けるモノは近衛兵だけだと、そう示す為に。
「みんな……銃を下ろせ」
俺は子供達にそう命じる。
俺も銃を腰に戻した。
「お前達も銃を下げろ」
怒鳴り声が親衛隊の詰所から響く。
見えている者の声では無いようだ。
「しかし……発砲はいかんよな、こんな街中で」
先の貴族が俺の側に来て。
「始末書くらいは書かんとな」
そう笑う。
広場の全ての者に聞こえるくらいの大きな声でだった。
それは、親衛隊にそれで済ませろとそう圧を掛けて居る様にも見える。
そしてその圧に親衛隊は負けた様だ。
端から貴族に喧嘩を売る気は無かったのかも知れない、騒ぎをどう納めるかの助け船に乗っただけなのかも知れないが。
「事情を聞かせて貰えますか?」
俺にそう声を掛けるのは、親衛隊をせいして怒鳴りを上げた者がそれなりの偉いさんとそんな雰囲気を醸しながらに前へ出て来ての事だった。
大きく溜め息を吐いた俺はその、偉いさんに向き直る。
「中でか?」
それにニコリと笑った親衛隊の偉いさん……隊長か何かだろうか。




