親衛隊の街ヴァレーゼ
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だから
また明日。
応援有り難う。
夕方、ヴァレーゼの街に辿り着いた俺は少し驚いた。
そこまでの道程は比較的穏やかで何の問題も無くに2日で来られたのだが。
その間もエルの治療は続けられて、今では会話も出来る……まだ起き上がるには厳しい様子。
街の場所も2つの湖に挟まれた所に有り、その北は深い森に成っている。
その2つの湖は海かと見紛う程に大きかったのだが岸の植物は明らかに違っているので淡水だとわかる。
地図を見れば西の湖は細く長く、くの字に曲がった太い河の様な形……俺の知っている琵琶湖に似ていた、そしてその更に西には草原を挟んで、もう1つ湖が在る。
そちらは西の湖岸を山と崖に縁取られた3つの湖の中でも更に大きく太い縦長の形をしていた。
西から縦に長い湖、真ん中がくの字の湖、東が丸い湖……これが一番小さいのだがそれでも人が泳ぎ切るのは不可能に見える、俺では絶対に無理だ。
そんな景色なので外から見る街はとても綺麗だ。
明らかに観光名所……とても戦争をする場所とは思えない。
しかもここは国境の街だと言う。
真ん中の湖の北端は隣接するフェイクエルフの国。
西の山からはミュルミドーン人の支配する国。
3つの国が接する場所。
だが、攻めるにも守るにもこんな端っこの街に意味は見出だせないとも思うのだが。
重要な何かがここに在るとも思えん。
首を捻って街に入った俺が驚いたのは、そんな立地の事では無くてその街の中の様子だった。
人が大勢行き交う街。
活気が王都とは大違いだ。
曲がりなりにも国の中心であるのに、あちらはまるで廃墟のように人が見られなかった。
戦争中の街ならと納得は出来たのだが……こちらはそのまま歓楽街だ。
それも、どうもこれから始まる夜が本番の大人の店がメインのようだ。
それぞれの店の前には呼び込みの若いお兄さん達が声を張り上げている。
そんなお兄さん達に話し掛けて居るのは、軍人だろうか、濃い緑色の同じ制服を着ている、だが紋章衣は無い。
「国軍の奴等ですね……元は民間人ですよ」
マンセルが教えてくれる。
「奴隷兵士では無いのか?」
金を使って居るのが不思議だった。
「その奴隷兵士の上司ってヤツですよ……雇い主?」
少し間を置いて。
「奴隷兵士も混ざってる見たいですけどね」
そのマンセルが指した方を見れば、光る硬貨を直接渡している者も居た。
奴隷兵士でも一応の給金は出ている様だ。
まあ、多少の飴も無ければ言う事も聞かなく成るか。
いや、奴隷紋を使えばそれも簡単なのだろうが……一緒に居るのが辛くなる。
それは俺もよく分かると頷いた。
お互いに命を預けるのだ、仲間として信用したいのだろう。
貴族軍も数人が見られる。
紋章衣を着ている者、それに付き従う者。
そこは随分と偉そうにしているので、まだ少ないのだが悪目立ちしていた。
そして俺も目立って居るようだ。
皆がコチラをチラチラと見ている。
それはそうだろう、戦車で大通りを進んで居るのは俺達だけなのだから。
「兄さん、一杯どうですか?」
遠巻きに見ていた若い呼び込みの男達から1人が戦車に近付き声を掛けてきた。
指した店は普通の民家に見える。
「店で飲んで……もし気にいった娘が居れば、一晩の買い上げも出来ますよ」
ニコニコと揉み手だ。
酒はオマケで、娘の買い上げが本来の店なのだろうと理解した。
「何処へでも連れ出して大丈夫ですよ、翌朝に解放してやってくれればね」
何処へでもと言うのは……辺りを見渡して、宿屋もホテルも数が足らないのだろうと納得する。
街そのものは石とレンガで出来た低い……精々二階建ての建物が不規則に並び、中央には湖の街らしく大きな噴水も在る。
本来はもっと静かな保養地なのだろうと思われる造りだ。
戦争特需か……それを見越した目鼻の効く怪しい奴等が街から街へと移動しながら商売をしているのだろうか?
飲み屋の店も普通の民家を借り上げてそのまま使っている様だし、家主も相当に儲けて何処かに旅行か?
外へ連れ出せと言うのは家主に気を使ってかも知れない、またはそれは別料金で店側が少しでも経費を安く済ませようとの事か?
後の清掃費を考えての事?
それに娘達は、奴隷なのだから何処に連れて出ても逃げられる心配もない。
金は現金でも奴隷は持ち物として登録されている、それを盗むか壊せば持ち主にバレるのだろう。
だから、宿代をケチルなら、どこぞの森か原っぱか湖岸で楽しめと、そう言う事らしい。
需要に足りて無い宿代は高いのだろうしな。
俺はにこやかに呼び込みの男に笑って返す。
「済まんが、まだこの街に着いた処でな……先に病院に行きたいのだが何処に在るのだろうか」
用事が済めばまた戻ってくるよと、そんな顔でだ。
「でしたら、この先の噴水広場の奥に親衛隊の詰所が在ります……その隣です」
とても親切に答えてくれた。
もちろん下心は隠して居ない。
初めての街で怪しい店に興味が有るのなら、最初に親切にして貰えた者が進める店にするだろう……そんな目論見だ。
「有り難う……また後でな」
その気は全く無いが、お互いに気持ち良く別れる為の一言だ。
しかし、普通に親衛隊との言葉が出てきたな。
この商売は親衛隊の許可を得ていると、され気なくの主張か?
まさか胴元が親衛隊とかでは無いと思うが……しかし、娘を買い集めて居たのは事実だ。
違法に奴隷紋を移した後の使い道を考えれば、簡単に売るわけにもいかないだろうしと。
呼び込みと別れる俺は笑っている顔で隠して、そんな別の事を考えていた。
噴水広場はそこも人で溢れている。
軍服を着た者と金で買われた娘のカップル達だ。
嫌らしい笑と、張り付けた業務上の営業笑いが木霊する。
誰も本心で笑う者の居ない所も、中々に気味が悪いものだと目を細めた。
1人、目に着いた男などはチラチラと他所の女を盗み見ている。
金が足らなかったのか?
それとも先を越されたのか?
笑いに隠して悔しさが見え隠れしている。
今日はこの女で我慢してやるかと……。
見ていてあまり気分良いものでは無い。
そして見る親衛隊の詰所。
あまり大きくは無いようだが、一際ガッチリとしている。
レンガにコンクリートを塗り固めて、窓には鉄格子がはめ込まれていた。
成る程、それと人目でわかる威圧感……そんな建物だ。
流石にその回りには怪しいカップルは居なかった。
その建物、横がガレージに成っている。
そして、その横には大きめの荷馬車が有った、それを牽いているのは馬では無くて小さな戦車だ……ルノーFT17……いやフィアット3000A型の方か?
その2つはほぼ同じモノだ、と言うかフィアット3000はルノーFT17のイタリア版改良型だエンジンと砲塔が違う、特徴的な胴体はそのままほぼ同じだ。
そしてA型とは銃機関銃を横に2門並べて搭載している重さ6トンの豆戦車だ。
「これはまた……珍しい戦車だ」
対戦車能力は皆無だが魔物相手ならじゅうぶんだし、馬の代わりとしてなら遅い速度も問題無いのだろう。
「アレは戦車じゃあ無いですよ」
ボソッとマンセルが呟く。
マンセルにとって履帯付で、回転砲塔の戦車砲以外は戦車じゃあ無かったっけ。
フィアット3000Aは回転砲塔は持っては居るが機銃だしな、アンが欲しがった2号戦車L型ルクスと同じと言う事だ。
細かい拘りだ。
だが、その割にはジッと見詰めているマンセル。
何か気になるのだろうか?
まあそれは良いと、その隣の建物を見た。
こちらは普通のレンガ造りだ。
だがその出入り口が他とは違って大きく広い。
成る程病院だとそれでわかった。
「マンセル達はここで待って居てくれ」
俺は1人で戦車を飛び降りた。




