異変
翌日は朝は、俺はテントの中で目が覚めたのだが。
俺、専用の筈が……ヤハリか獣人の子が何人か潜り込んで居た。
もう大概慣れたので騒ぐ事もない。
最近は寒く成ってきたので、行火代わりだと思う事にしていた……実際、暖かいのは本当だ。
村娘達は、昨日の夕食後に自分達もテントが欲しいと言い出して、アウトドアショップから持ってきたコールマンの普通のドームテントを幾つか広げて、其々に潜り込んで寝ていたようだ。
俺が起きた時にはみんなは既に起きていたので、どのテントに誰がかはわからない。
その子供と娘達。
バイク組の五人は朝食後、一番に飛び出していった。
ノリノリの4人とイヤイヤの1人。
もちろん引き摺られて行ったのはオルガだ。
バルタとハンナは戦車の砲塔に篭り各々で練習をしている。
後の者は基本、マッタリだ。
雑誌を見て、話をして。
お菓子を食べて、話をして。
ここに来てからは、獣人の子も村娘達も区別無く交ざり合っている。
多少の好き嫌いは有るようだが、各々のグループの固まりつつあるようだ。
基本は年齢と、興味なのだろう。
ただその中で、クロエはその輪からは離れてポツンと独りで座っている。
それは村八分と言う依りも、自身の信念を信じて曲げたくないと言う頑固さでの事の様だ。
そのクロエの信念は誰にも受け入れて貰えない様に成っているし、それ以上に間違っていると思われる様に変化している感じだった。
そして、そのクロエに俺が干渉する事も禁じられている。
コリンが言うには、自分で変えないと駄目な事らしい。
有り体に言えば、奴隷を受け入れろ……と、だ。
もう1人の心配事の花音は、お菓子組に混ざって居るのだが。
話をするのも聞くのも上の空の様に見える。
心ここに在らずの状態だ。
母親の事を考えてのホームシックなのだろう。
その事を俺に聞かず、口にしないのは、母親の死を理解して帰る事も出来ないと知っているからだろうが……それでも気持ちは寂しいのだろう。
8才の子供にしては頭は良いが……しかしヤッパリ8才の子供なのだ。
自分の心を頭で押さえる術はまだ乏しいのは当たり前だ。
そんな花音の手を引っ張りエルが何かを言っている。
それを聞いたイナとエノが。
「遊びに行ってきていい?」
また昨日の続きでウインドウショッピングにでも行くのだろう。
序でに面白そうなモノは取り敢えず持ってくる、そんな感じの遊び。
「いいよ」
これは、たぶん皆が花音に気を使っての事なのだろうと思うので断れはしない。
花音の事情誰にも、は何一つ話しては居ないのだが……薄々と何か感じている様だし、俺が何かをするよりも、子供達に委せて置けば良い様な気もする。
そのホームシックなのだが、俺にはさっぱりそれがない。
元の世界に帰れるなら帰っても良い……と、思うそれぐらいなのでわからないのだ。
転生者の脳に傷で感情とか感傷とかが壊れたせいなのか……それとも元からの性格なのかは自分でもわからない。
いや、シャーマンの力は性格も変えるとかとも言っていたので、そのせいかもだ。
どちらにしてもわからないモノはわからないので、ヤハリ俺にはどうする事も出来ないのだ。
等とボーッと考えているのは、俺も暇で……そして孤立しているからだ。
別段、子供達にも村娘達にも構って欲しいとは思っていない。
こちらから構いに行く事も考えない。
独りでも良いし。
まとわり付いて来ても気には為らない。
どちらで良いのだ。
しかし、暇なのは確かだ。
俺は腰を上げて、戦車の所に向かった。
マンセルの仕事を確認したいのと、バルタ達の訓練の様子も見たいとの後付けに近い理由でだ。
外に置かれた戦車。
その横には軽トラのアクティにピンクのバモス……そしてシュビムワーゲンが並んでいる。
小さい車ばかりだが、子供達や村娘達が運転する事を考えればベストな選択だと思う。
その全てがミッション車なのは、単純にこの世界……戦中のドイツ人の転生者にオートマチック車に馴染みが無いからだろう。
渋滞の無いコッチの世界ではミッション車の方が結局は乗り易いと言うのも有るようだし。
登りや下りの多い未舗装路ではオートマチック車は逆にギクシャクしてしまう。
勝手にギアが変わるのがこれ程面倒臭いとは思いもしなかった。
まあ積載の都合で重さもコロコロ変わるのがまた駄目なのだろう。
牽引カーゴも引っ張っているし……。
と、そこにゴーレム君達が二人で、カヌーを上に担いでやって来た。
「旦那……これ、欲しかったんでしょう?」
その後ろにはマンセル。
「ああ……」
頷いては見たもの、それを運ぶ手段はどうするんだ?
もう大概、荷物は積めないと思うのだが。
しかし、ゴーレム君達はそれを軽トラの上に載っけた。
見れば二箱の上に鉄パイプの櫓が組んである。
「こうすれば屋根の代わりにも成りますしね」
カヌーを縛り付けて、その上から幌を掛ける。
「その幌は?」
「そこらの車に着いてたヤツを適当に剥がしてきたんですよ」
出来上がった状態を指して。
「雨も多いし、荷物も増えたし、こうしとけば安心でしょう?」
確かにだ。
空を見上げれば、雨は止んではいるがどんよりと重い雲はそのままだ。
そして、俺も嬉しい。
実際の処、カルーは別段必要無いものだろうが、マンセルが気を効かしてくれたのだろうと、それも嬉しい。
その時。
イキナリ空間がグラリと揺れた。
心臓をギュッと掴む感覚。
それは以前に経験した、異世界への転移と同じだ。
俺は胸を押さえて踞る。
そして、目の前のマンセルは青い顔でた折れ込み、のたうち回りそこいらに吐き散らかした。
そこに戦車から飛び出して来たバルタも一緒に為って吐いている。
その背中をハンナがさすっていた。
ハンナはそれ程の影響は無いようだ。
せいぜい俺と同じくらいの事か。
しかし、尋常じゃあ無いのはこの二人を見ていればわかる。
何かがこのダンジョンで起こったんだ。
俺はその場はハンナに委せて、キャンプに走って戻った。
雑誌を読んで話をしていた村娘達の手には、雑誌はもうない。
落としてしまって床に有る。
だが、村娘達もハンナと同じでそれ程では無いようだ。
ただビックリとした……俺の感じと同じ様だ。
『エル、そこのみんなは大丈夫か?』
バルタが駄目なら他の獣人はと確認だ。
『……』
返事は無い。
「エルは……倒れたみたい」
側に居たペトラが教えてくれた。
「念話は繋がるけど、会話には為らないの」
「側に花音が居るだろう、会話は出来るか?」
その俺の指示に頷いて目を瞑るペトラ。
「獣人の子達は全員が駄目みたい……みんな倒れたって」
花音は無事なのか。
村娘達と俺もだ。
転生者には……その血が濃い者にはさして影響は無いのか?
「ニーナかオルガには繋がるか?」
「同じみたいです、三人共倒れたって言ってる」
「バイクでだろう、怪我は無いのか?」
「それは大丈夫みたい、擦り傷程度だって言ってる」
獣人の子供達依りも亜人のマンセルの方が酷い状態なのか?
いや、以前に言っていた魔物が沸いたその揺らぎってヤツかも知れない、マンセルは一度それを経験したと言っていたそれだ。
そしてそれが積み重なって、よけいに酷くなったとかか?
だが、その考察は今は後回しだ。
以前にマンセルが経験したモノと同じとするならば、それはダンジョンに魔物が沸いたと言う事だ。
それはどれ程の危険な魔物か?
そして、何処に何匹沸いたのか、そちらの方が大問題だ。
『……。
念話を飛ばそうとして、それを止めた。
今は偵察を出来そうな獣人の子は居ない。
皆がダウンしている。
仕方無いと俺はシュビムワーゲンに向かった。
その偵察……俺が行くしかない。




