気にしなければイケナイ事
264……。
今日は上がらなかったか……。
仕方無いよね。
もっと頑張らないとダメか……
明日はもっと頑張ろう。
また明日!
全員が集まり、夕食のパスタとピザも完成。
その頃には、もう日も暮れていた。
灯りは真ん中で燃えている焚き火の火だけだ。
そこをアウトドア用の簡易テーブルを幾つかで囲んで折り畳みの椅子に座って皆での食事だ。
ハンナの作ったパスタを潰したピザなのだが、普通に旨かった。
これは、作っている姿を見ていないとわからないレベルだ。
後から元はパスタだって言われても、俺なら笑って信じない……それほどに普通だ。
トマトのパスタも、これも旨い。
四つ切りの新鮮なトマトが本当に良く合っている。
ただ、このトマトは村娘達には今一のようだ。
味は甘くて美味しいのだが……柔らか過ぎて歯応えが無いのが駄目らしい。
俺にすればトマトなんて柔らかくて当たり前だと思っていたのだが、どうも彼女達の基準は歯応えが大事らしい。
そう言えば、ハンナの焼くパンも身がぎっしり詰まって噛み応えが有るモノばかりだ。
だが、そのパンも美味しいのだけど……。
「ハンナ、今日はパンは無いのか?」
想像していると、無性に欲しくなって聞いてみた。
「私も欲しい」
タヌキ耳姉妹も手を挙げている。
他のみんなも釣られて手を挙げていた。
ヴィーゼなんかは、頬を目一杯に脹らませてモゴモゴと声には成ってはいないが、その目は私も欲しいと輝いている。
肉が無いので犬耳三姉妹には少し物足りないのかとも思っていたのだが。
その食いっプリは豪快でガッツいている。
そしてヤッパリ、パンも欲しいようだ。
パスタの絡まったフォークを突き上げて自己主張していた。
「行儀の悪い」
端っこで大人しく食事をしていたクロエだった。
ロベールの所のロザンナと話をしてから途端に影が薄くなった。
その声も久し振りに聞いた気もする。
可愛い声なのに勿体無いとも思うが……やはりロザンナの事情がショックだったのだろう。
俺も、他のみんなも為るべくソッとしておいたのだ。
「これだから獣人は……」
尚も続けようとするクロエに対して、隣に座るニーナがいい放つ。
「その獣人の年下の子供に命を守って貰っているのは誰なのかしら」
前回の蛇の魔物を思い出しての事なのだろう、声音にトゲがある。
「そうね……行儀が悪いのは確かだけど、獣人はってのは駄目ね」
最年長のコリンもクロエを嗜める。
「その行儀はあんたが教えて遣りなよ」
ハンナの声も何時もとは違ってキツイ感じだ。
村娘達の視線がクロエに集まった。
だが、クロエは虚勢を張るように大きな声で。
「何で私が、この子等の為に……」
その時、横のニーナが突然に席を立つ。
もう目線はクロエには無い。
そのまま、自分の食事の皿を持って三姉妹の横に移動した。
それを目で追ったクロエ。
「何よ……あの態度」
と、オルガに同意を求める。
そのオルガもクロエから目線を外して、俺の横に移動してきた。
自分が孤立している事に気が付いたクロエ。
その事に驚き、怒りを滲ませた目を落として俯いた。
俺は頭を掻いて、声を掛けようと口を開いたのだが。
それをハンナがマンセルに質問をする形で遮った。
「ねえ、戦車の砲塔ってまだ完成しないの?」
質問はマンセルにだが、目線は俺を見ている。
それは、今はクロエには声を掛けないでとそう言う事の様だ。
甘やかさないで、なのか……それとも考える時間をあげて、なのかはわからないが、今はそのままでと言う事の様だ。
「もう粗方出来てるよ……後はギヤ比がこれで良いかだな?」
マンセルはパスタを酒で流し込みながらに応えている。
「飯が終わったらで良いから、バルタとハンナは戦車に来てくれ、調整するから」
頷いたハンナとバルタ。
「でも、戦車の装填手はハンナで決まりなのね」
話を終わらせまいとかコリンが続ける。
「砲弾を私も持ってみたけど、そんなに重くは無いじゃないの……他の誰かでも出来そうなんだけど」
「そうだな、3.7cm砲の弾は700gか1kg以下だが……」
通常弾だと700gだが、タングステン弾は350gしかない……だけどマンセルの用意した劣化魔石弾と言うなんとも怪しい砲弾は持って見ると1kg近く有った様な気がしたのだ。
700グラムはコーラの700mlのペットボトルかミネラルウオーターにも700mlが在ったが……その重さだ。
確かに1発の重さは知れているのだが。
「それを単発か数発ならそんなに問題は無いのだろうが、戦場にも依るが最悪は90発を連続で撃ち切る事にも為る筈だ……そうなれば体力も必要だろう?」
「戦車長、今は120発……積んでますよ」
マンセルが訂正をする。
だが、その数字は俺の知っている数に会わない。
怪訝な俺に捕捉を入れたマンセル。
「バルタもハンナも小さいですからね、その余ったスペースに積んでるんですよ……ほら、ハンナが椅子代わりにしている箱、アレもそうです」
それはパイプ椅子では無かったのか?
いつの間にか変わっていたか……気付いていなかった。
「装填速度も出来ればもう少しスピードを上げてくれるといいんだけどな」
そんなマンセルの注文に苦笑いのハンナ。
「練習しとく……」
「練習ならオルガもね」
ニーナがフォークでオルガを指す。
「スクーターのビーノの練習よ」
犬耳三姉妹も頷いている。
どうもニーナと三姉妹は妙に仲良く成っている様だ。
昼間のレースで意気投合ってヤツか?
何処かの少年漫画みたいな展開だな。
「でも……昼間のレースで勝ったのはオルガだぞ」
笑いながらだが、一応は言っておく。
「最初に帰って来たのはオルガだし」
「なんでよ!」
ニーナを含めた四人が声を揃えて叫んだ。
「最初に決めたろう? 一周だって」
四人に指差して。
「レースってのは、そう言うもんだろう?」
ブー垂れた四人はオルガに向かって口々に叫んで。
「明日も競争よ!」
ふむ……レースと言う言葉は避けたか。
明日もマトモに決めたコースを走る積もりは無い様だ。
もう笑うしかないと、大笑いした。
「で、今日は何処まで行ってきたんだ?」
もうそれは、競争と言う名のツーリングだろう。
「ダンジョンを一周してきた」
「グニャグニャ曲がりながらだけど」
「直線は私達の方が速かったけど……曲がるのはニーナの方が速い感じだった」
一応は競争してたのか。
「で、何か面白いモノは見付かったか?」
その問いには三姉妹は小首を傾げる。
回りは見て無かったようだ。
「向こうの方にスライムが固まってたよね」
ニーナが指差して答えた、その余裕が有る分ニーナの勝ちじゃあ無いのか?
その指した方向は、西側の様だ。
俺達が入ってきたのは今回は北からだから、そちらは前回の時に入って来た方向か。
確かに何も見るべきモノは無かった気がする。
でも、スライムがそちらに固まるのは何故だ?
そんなに餌が豊富でも無かった気がする。
と言う依りも元々まったく見掛けなかった……餌となる、死体なのだが。
意味は有るのだろうか? と、マンセルに視線をやるが。
そのマンセルは肩を竦めてわからないと、そんな仕草だ。
他の者に聞いたところでわかる筈もないと、引っ掛かる事では有ったが考えるのは止めにした。
ヒントすらないのにそれは無駄なことだと諦める。
俺にそれがわかるわけがない。
だが……一応は気を付けておいた方が良いのかも知れない。
なにせココはダンジョンだ、何時何が起こるかはわからない。
その準備はしておこう。
気にしなければいけない事がまた増えたようだ。
スライムとダンジョンの事。
そして、クロエの事。
後は……ここに来て大人しく成ってしまった花音の事か。
やはり、あまり長居はできないか……。




