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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界情勢
132/317

各々の欲しいモノ

262ポイント!

上がってる。

とても嬉しい。


やっぱりポイントはモチベーションと連動していると、改めて思う。


うん。

明日も頑張れる。

明日も頑張ろう。


みんなありがとう。


 レースはココから道路に出て、駅上のショッピングモールを一周して、またココに戻るまで。

 そこそこ大きいエリアだが、距離も短いのでスグに終わるだろう。

 コース的にも表と裏の道路は広目で直線も長い、そこを繋ぐ道は狭い上に放置車両も多いので適当なクランクに成っている。

 まあ、前回と今回でチラリと見た程度なので適当なのだが……レース自体も適当なのでヨシとしておいてくれ。

 それにオルガ以外は誰も聞いちゃあ居ないし。


 犬耳三姉妹は薄く笑いながら、モンキーのエンジンを空ぶかしでブリッピングしながらニーナ達を挑発している。

 所詮は50ccのエンジンでそのままノーマルなので大した音も出る筈もないのだが、それでもニーナを苛立たせる効果はじゅうぶんだ。


 そのニーナ。

 負けじと三姉妹を睨み付けて……アクセルを捻った。

 ブブンっと小さい排気音を出すのだが……同時に出たニーナの悲鳴がそれを打ち消した。

 アクセルを吹かしたと同時にスクーターがピュッと前に動き出したのだ。

 そりゃそうだ。

 クラッチの無いスクーターでブリッピングは無理だ……そんな事をすれば、そのまま走ってしまう。


 「ニーナ……」

 流石にドキドキしたのか目が点に成っているニーナにもヘルメットを上から被せてやった。

 「怪我するぞ」


 そんなニーナを指差して笑う、犬耳三姉妹達の方を見て。

 「お前達も無茶して転けるなよ」


 「大丈夫」

 「もうモンキーは手足」

 「コケても舐めれば治るし」

 俺の忠告は届かないらしい。

 もう少し説教でもしてやろうかと、口を開けかけたとき。

 ニーナが俺に。

 「早くスタートの合図を頂戴」

 そう催促をしてきた。


 まあ……確かに俺が、バイクの事で人に説教をするのもどうかだろうかと思う。

 ドカッティ900ssを手に入れた時は、ノーヘルで前輪を浮かせるフル加速をしていたものな。

 ああ……勿体無い。

 あのバイク持って帰りたかった。


 そんな事を考えながら、両手を横に広げて五人の前の真ん中に立ち。

 「行くぞ……ヨーイ……スタート」

 そう叫んで、その両手を上に上げた。


 同時にアクセルを目一杯に回した四人。

 三姉妹のモンキーと、ニーナのビーノが勢い良く加速していった。

 スタートダッシュはビーノの方が若干に優勢のようだ。


 そして、一人取り残されたオルガは、ブツブツと何かを呟いている。

 「ブレーキを放して……アクセルをチョコッと回して……両足を上げる……」

 今更か?

 さっきも練習していたろうに。

 

 だけど、考えればそうか。

 初めてバイクに乗る時は誰だって不安に成る。

 俺もそうだったと思い出す。

 このオルガの反応が普通なのだ。

 まあ、それも直に慣れてそのうち無茶をするように成るのだろうが……犬耳三姉妹の様に。

 その点を考えればニーナが一番才能が有るのかも知れないな。


 そんな俺の横をトコトコとオルガが通り過ぎて行く。

 そのスピードは時速25kmくらいか?

 牽引した原付の法定速度は守られて居るな……ここの異世界ではそもそも法定速度自体が存在しないのだが。

 警察軍のアンでさえ、バイクで適当なスピードを出していた。

 完全な自己責任で、気分次第でオーケーのようだ。


 「賭けますか?」

 マンセルが俺の横に来て一言。


 「じゃあ……オルガに1票かな」


 「え! オルガにですか」


 「ここに確実に戻って来れるのはオルガだけだろう」

 笑って。

 「後のは……何処かでひっくり返ってそうだし」

 それ以前にコースを理解しているとも思えない。


 「成る程……」

 俺とマンセルは1つ目の角を曲がるオルガの背中を見送って。


 「じゃあ、行こうか」

 俺はその場を後にして歩き出す。


 「え! 何処へ」

 キョロキョロと俺とオルガの消えた角を見比べて。

 「待たないンですか?」


 「ここに居たって退屈だろう?」

 そのまま歩き進める。

 「結果は後で本人達に聞けばいいさ」


 

 アニメショップとアウトドアショップの間の通路そのまま進んで行くと。

 左手はゲームショップ、その奥がパソコンショップ。

 向かいはカヌーやサーフボートが置かれている。

 何処まで行ってもインドアとアウトドアが向かい合わせだ。


 そして、俺の目はそのカヌーに釘付けに成ってしまっていた。

 木製のカナディアンカヌーだ……とても美しく組上がったそれはもう芸術品だ。

 それをうっとりと眺めていると。


 そんな俺を見咎めたマンセル。

 「旦那……どんだけ水に浮きたいんですか?」

 笑いながら。

 「シュビムワーゲンもそうだし……もしかして旦那が戦争する理由もこの国に海が無いからですか?」

 

 それは知らなかったが……それがどうして戦争なのか?

 はてな? な、顔をマンセルに向けた。

 

 「戦争で隣国を奪って海に出ようって魂胆なんでしょう?」

 成る程と勝手に納得して頷いているマンセル。


 だが、それは違うぞ。

 海はそんなに好きじゃあない。

 俺の好きなのは淡水で、湖だ。

 大小は関係が無く、ベタ凪ぎのガラスの様な綺麗な水面が好きなんだ。

 無機質な平面に見えて、その下には必ず生命の息吹が潜んでいる……そんな不思議に見いられるんだ。

 等と力説しても誰もわかっちゃあくれないので黙っては居るが……勘違いはしてほしくはない。


 そんな俺とマンセルのやり取りを聞いていたアリカが。

 「自転車ってアレでしょう」

 指差している先に自転車屋が在った。

 カヌーが置いてある隣の店だ。


 ここに来て、所々で引っ掛かるって立ち止まるのが退屈に為ってきたのだろう。

 少し面倒臭そうにしているアリカ。

 それでも極力、黙って静にしていたのは村娘達の女子力の高さの顕れか?

 いや……ペチャクチャと背後で雑談はしていた様だが。

 スグにハシャギ回る獣人の子供達依りも遥かに女の子をしている。

 

 だが、それも限界の様だ。

 俺は指された方を見て。

 「俺とマンセルは自転車屋に行ってくるから……もう皆はここから自由行動だ」

 先程からウロウロと其なりの時間を掛けて動き回ったが、魔物の気配も無さそうなので、もう良いだろうと判断したのだ。

 「さっきに本屋に行けば、美容の本とかファッションの本とかが有るんじゃあ無いのかな?」

 たぶん、そんなモノを見ている方が良いだろうと進めて見たのだが。

 やはりか頷いた村娘達は、そちらに戻って歩いていった。

 「何か有れば叫ぶわ」

 ペトラの肩を叩いてコリンが告げる。

 念話で叫ぶとそう言う事だろう。


 やはり退屈していたようだ。 

 頷いて、そこで別れる。


 


 自転車屋は相当にお洒落な造りに成っていた。

 近所の町の自転車屋とは大違いだ。

 レーサーその物の矢鱈に軽そうな自転車に、頑丈そうなマウンテンバイクがメインでそこに高級そうな折り畳み自転車が混ざるそんな感じの店だ。

 もちろんそれ以外も置いている、滅茶苦茶に太いタイヤのサスペンション付きの自転車とか。 

 背の低いリカルベント自転車とか。

 そして探していた電動アシスト自転車もママチャリを含めて色々なタイプが有った。


 俺はマンセルに電動アシスト自転車の説明を、現物を指しながらにしたのだが、マンセルはそれを聞いちゃあ居ない。

 既にモーター部分をバラシ始めている。

 唸ったり、頷いたり、首を捻ったり。

 完全に自分の世界に入り込んでいる。

 ……。

 「マンセル……俺はアウトドアショップに行きたいのだが」

 ……。

 返事は無い。

 俺は頭を掻きつつ溜め息一つ。

 

 と、俺の服の裾を引っ張る者が居る。

 振り返ればバルタだった。

 「あれ? バルタはコリン達と一緒に行かなかったのか?」


 少し苦笑いをしたバルタ。

 今一、村娘達とは馴染めて居ないだろうか?

 どうも見ているとバルタは内弁慶っぽい所がある。

 いや、エルとの関係性を見ていると、もっと大人しく引いた感じか?

 自己主張は最初の、一緒に行く言ったそれきりだし。

 基本は人付き合いが苦手な感じか。

 「一緒に行こうか」

 マンセルはそこに置いていく事にした。

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