娘達のくじ運
256ポイント
少し戻った
明日も頑張ろう
みんな
また明日
さて適当な挨拶を済ませたロベール……俺によって済ませられたが正解だが。
小首を左右に何度も振って自分達のテントに戻って行った。
何かが腑に落ちないのだろうが、それは考えてもわからんと思うぞ。
根本が違うのだ。
ロベールは元から貴族で。
俺はナンチャッテ貴族なのだから。
だから貴族らしく振る舞わないその理由に答えが出る筈もない。
平民や奴隷が目の前で死にかけて居ても、自分はワイングラス片手に膝に猫を乗せて旨い飯を食う。
それに疑問を持てないのだから、俺が何を説明しても頭の中には届かない。
ロベールの根本は……パンが無いなら菓子を食え! なのだろうなきっと。
そしてふと思う。
元国王が汚い老人の格好をして出歩いているのも、俺と同じ気持ちに成ったからだろうか?
それとも、俺の方が元国王に影響されたのか?
ドチラなのだろうか?
まあ、亜人も奴隷も獣人も自分と対等に見ても見られても別段、怒りも居心地の悪さも感じない……詰まりはドチラでも良い気もする。
今の俺はコウなのだ、それで良い。
帰っていくロベールの背中を見ながら煙草に火を着けると、入れ代わりに村娘達が戻って来た。
ロベールの所の奴隷娘も一緒だ。
手には白く丸い大きな卵を抱えている。
なんだろうかと、チラリと向かいのテントに目をやると、先に戻っていた従者が他の皆に何やら説明している素振り。
説明では無いか、ロベールに着いて来たのだから位か役職がその中では一番上なのだろうから指示だな。
もう一度、卵を持った奴隷娘を見る。
たぶん、そのまま家の村娘達が向かいのキャンプに居ると、他の者が粗相をするのでは無いかと感じたのだろう。
自分の所の奴隷では無くても、奴隷は奴隷の意識も有るのがわかっているので怖くなったのかも知れない。
俺の口振りで、奴隷に何かすれば怒られるそう感じたか。
だから土産を持たせる口実で自分達のキャンプから離したのだろう。
その証拠にか、キャンプに居る者に一通りの注意を終えた従者長はまたコチラに戻って来た。
マンセルに話し掛けているが、これはたぶん口実で自分の所の奴隷娘の見張りに来たのだろう。
チラチラとそちらを見ている。
彼は彼で俺の意図がわからなくても自身の仕事を全うしようと、そう言う事なのだろうと思われる。
その雑談なのだが、わかり易く38(t)軽戦車の速さに驚いて見せていた。
それに気を良くしたマンセル、色々と解説を始める。
「最近、エンジンを載せ変えたんだ」
38(t)をパンと叩き。
「160馬力だぜ」
鼻息が荒い。
それを聞いて驚いて見せた従者長。
だが、俺も驚いた。
「元は125馬力だろう、別物じゃあないか」
その俺の言葉にマンセルは俺を指差して。
「前に戦車長が言ってたでしょう、コイツはプラガエンジンだって」
笑いながら。
「でね、思い出したんですよ……家に有った三輌のヘッツアーって戦車モドキの中の一輌がプラガエンジンだったってね」
「それに載せ変えたのか……」
「そうです、エンジンとトランスミッションもね」
「それで速く成ったのか?」
「勿論です! 最高速度は55kmに上がりましたよ」
ほう……気が付かなかった。
まあ40kmから55kmでは、シュビムワーゲンやらバモスやらに乗った後では代わり映えしない気もするが。
「どうせなら、500馬力か600馬力にすれば良かったのに……」
思わず呟いた俺を睨んだマンセル。
「そんなエンジンはでかすぎて載りませんよ」
「ダンジョン産のエンジンなら小さいぞ」
ピンクのバモスを指差して。
「あれなんか排気量660ccで45馬力有る、それにローザと行ったダンジョンで壊したベンツは6000ccだが400馬力くらいだった筈だし、それに探せば同じ6000ccでも600馬力のやつも有る筈だ」
俺の時代ならそれくらいの筈。
「乗用車のエンジンだから」
38(t)をパンパンと叩いて。
「コイツのエンジン依りもサイズは小さいぞ」
全くの別物のエンジンだから簡単には載せ替えは無理だろうが、マンセルならなんとか出来るだろう。
俺のその言葉に少し口を尖らせたマンセル。
別に戦車に文句もを着けたかったわけではない、出来ればマンセルにも普通にダンジョンに入って欲しかったからだ。
それに文句もなら他に有る。
「それよりも、砲塔の旋回はなんともならんのか?」
この戦車の砲塔はやたらに重すぎるからだ。
「一応はハンナでも回せる様にギヤ比を変えたんですがね」
やたらに遅かったのはそのせいか。
マンセルも一応は気にしていた様だ。
「電動アシストとかは?」
またバモスを指差して。
「あれのパワーステアリングは電気モーターの補助が有るぞ」
同じモノをとは言わないが、似たようなモノ……。
「例えば電動アシスト自転車のモーターとかは使えないのだろうか?」
「それも……ダンジョン産の、ですか?」
語尾が荒い。
いかん、やり過ぎた様だ。
マンセルを怒らせてしまった様だ。
俺は、誤魔化す様に肩を竦めて頷いた。
そして、その場を離れる。
他人の趣味、特に好き嫌いの部分を突っ込むと、とても面倒な事に成ると知っているからだ。
だって、自分がそうだからだ。
さて、離れたのは良いが……何処に落ち着こうか? と、キョロキョロとしていると、村娘達が目に付いた。
今は獣人の子達もそこに混ざっていた。
卵を貰った様なので一応はお礼を言うべきだろうとそちらに行く事にする。
近付くにつれ彼女達の話し声が聞こえてきた。
「堕胎薬で良いのね……幾つ要るの?」
コリンが聞いて。
「出来るだけ沢山」
そう答えたロベールの奴隷娘。
チラリとそのロベールを盗み見る。
「毎晩……あの人達全員の相手をさせられるの、避妊薬では間に合わないわ」
「可哀想に……」
ハンナが呻く。
「同情?」
奴隷娘は俺が近付きているのに気づかずにか。
「あんた達は良いわよね……そんな大人数で相手にするのは一人か二人でしょう……私は、全部の事が終わったら、自分の指で掻き出すの、そうしないとドロドロのが腿に垂れて乾いて痒く為るのよ」
村娘達を見渡して。
「あんた達そんな経験は一度も無いでしょう? ニコニコと笑えて、そんな顔をしているわ」
「そもそも一度も……何も無いよ」
エレンが横から口を挟んだ。
「一度も? 要求もされないの?」
そのエレンに聞き返す奴隷娘。
それに頷いて指を差し。
「クロエなんか一度も触られてもいないよ……パトの奴隷を嫌がって何処かの奴隷と代わりたいって言ってたし」
「そうなの? ならクロエ、私と代わってよ」
詰め寄られたクロエは押し黙り、目を瞑り顔を下にして横を向く。
表情は笑いながらの奴隷娘だが、その目に笑みは見えない。
「ロザンナ……ご免なさい、それはクロエには無理よ」
答えたのはコリン、手には幾つかの小瓶が握られている。
それが堕胎薬なのだろう。
「ついこの間迄は、一緒に遊んで居たのにね……どうしてこうなったのかしら」
ロザンナと言われた奴隷娘が虚ろに空を見る。
「くじ運なのかしらね……あんた達は幸運だったのね」
クロエ達の幸運を恨みたい気持ちと、無事でホッとした気持ちとが混ざりあっての言葉だった。
その思いは同じ村の出身だからなのだろう。
そして、俺がそのくじを無理矢理引かせたのだ。
だがそれを今更どうする事も出来ない。
わざとくじ運と言ったのも、殆どの者がロザンナと大して違わないのだろうとも思える。
「まあいいわ」
コリンから薬を受け取り。
「食事が終わったら……私の本当の仕事が始まるの、だから出来るだけ体を休めとかないとね」
そう笑って帰っていったロザンナ。




