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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界情勢
122/317

ソライロアサガオ

244ポイント。

伸びた!



ありがとう

みんな


明日も頑張る


また明日!


 コリンに薬を注入された魔物。

 見る間に真っ白のカビに覆われていく。

 と、同時にロータリーの草木もしなびてしおれる。

 それでもまだ数本の巨大なアサガオは駅の向こう側で立ち上がり、ユラユラと揺れてこちらを伺って居るようだ。

 コイツとは繋がっては居なかったのか?


 「イナ! エノ! アイツを撃て」

 効かないのはわかっては居るが、種飛ばしの物理的攻撃も有る。

 何もしないわけにはいかない。


 しかし、イナとエノはキョロキョロと首を振るだけで銃を構えようとはしなかった。

 俺は少しイライラとしてしまい、側に居たエノの銃を取り上げてロータリーの中へ。草木の繁みにと走り込んだ。

 カビて力なく垂れ下がる草木を掻き分けて少しでも近付いて撃とうと考えたのだ。

 もうここの魔物は動くことも出来ない程のダメージに見えたからだ。


 「パト! 危ない」

 その俺の腰に飛び付いたエノ。

 続いてイナも俺を止めようとする。


 「大丈夫だ、もうコイツらは動かない」

 そう叫ぶのだが、俺の腰を押さえた二人は離れる気配がない。

 「邪魔するな!」

 振りほどこう暴れてもガッチリと掴んだままだ。


 『バルタ! アイツ等を撃て』

 ガリガリとアスファルトを掻き、キュラキュラ鉄の擦れる音を立てた戦車が背後に来た気配を感じてバルタに命じた。

 力の無い草木を引きちぎって来たのだろう。

 もう既に戦車を止める力もないのだ。

 

 『どれをですか?』

 だが、バルタからは気の抜けた返事が帰って来た。

 まだビルの影で奴等が見えないのか?


 ドカン!

 全く別の所で爆発音が響く。

 そしてstg44の連射音。

 そちらは戦車が居る所の反対側。

 俺達が駅前に出る為に迂回した方の道。

 『何が有った』

 ロータリーに少し入り込んだ俺からは百貨店のビルの影でその方向は見えない。

 『変な魔物が出てきた!』

 同時に叫ぶ犬耳三姉妹。

 必死に応戦している様だ。


 『新手か?』

 植物以外の魔物が居たのか?

 『バルタ!そこからなら見えるだろう、援護をしてやれ』


 『敵って……どれの事?』

 なんだか慌てて居る様だ。

 戦車の所からでは見えないのか?


 『危ない!』

 コリンが飛び付き、俺を引き倒した。

 何かに怯えて居る様だが、それが何なのかがわからない。

 時折、首を屈めて避ける様な仕草をしている。

 みんなは一体何と戦っている?

 敵は目の前の巨大なコイツ等だろう。


 その俺の苛立ちを指差して、目の前を口を半開きにしてヘラヘラと笑いながら横切るオルガ。

 スキルの使い過ぎでおかしく成ったのか?

 そのオルガにエルが襲い掛かった。

 敵意を剥き出しで、一切の躊躇無くに殴り着けようと拳を振り上げた。

 

 それに驚いた俺は叫びを上げて。

 「何をしている!」

 イナとエノを引き摺りオルガに手を伸ばす。


 『コリン! 気付け薬をばら蒔いて、一番強力なヤツを』

 頭に最大音量の念話が鳴り響いた。

 何事かと見れば、駅の出入口からニーナとペトラが飛び出してきている。

 二人共に口と鼻を手で押さえていた。

 『コリン! 早くして』


 何かに怯えて経たり込んで居たコリン、地面にゴソゴソ魔方陣を書いて小瓶を取り出して、それを震える手で振り撒いた。

 

 強烈なアンモニア臭が辺り包む。

 完全な臭いの暴力だ。

 近くに居た俺とタヌキ耳姉妹はもちろんの事、少し離れたオルガとエルもが、のたうち回る。

 『もう、魔物は居ないから!』

 ニーナが続けて叫んでいる。

 『それは幻覚だから!』

 

 何を言っている、実際に目の前に魔物が居るだろう!

 そう叫ぶ為に魔物を指差そうと駅の向こう側を見たのだが……その居る筈の魔物は消えていた。


 

 雨に打たれてうずくまり、茫然とした俺の横をニーナが歩いて行く。

 そしてコリンの側で何やらを話をして幾つかの小瓶を受け取っていた。

 「どう……成っている?」


 「どうもこうも……あなたたち全員が幻覚を見せられて居たのよ」

 側に転がる大きな黒い塊の臭いを嗅ぎ。

 「これのせいね、これに含まれる成分がそうだと思うわ……削られるか潰されるかして粉末に成ってここらに充満してたのよ」


 「それを俺達が吸った?」


 頷いたニーナが俺の所に近付き、コリンの小瓶を俺の顔に近付けた。

 さっきの強烈な臭いがもう一度、それが鼻の奥から後頭部を叩く。

 呻きと唸りが同時に吐き出される。

 それと同時に頭の中のモヤモヤとしたものが完全に消えて無くなった。

 

 そして、目の前の景色は最初に見たロータリーの景色に戻っている。

 ただ真ん中に巨大な草が倒れては居るが、それ以外は今まで見ていたモノとは全然、違うものだった。

 草木は鬱蒼とは繁っていない。

 確かに草木は有るのだが、所々に固まって這えている雑草のレベルだ。

 ジャングルには程遠かった。

 「でも……戦車を持ち上げたり……砲塔を押さえ込んだりは……」


 「それなりの規模は有ったけど、ダンジョンの全体を覆う程じゃあ無かったって事よ」


 「実際の魔物と幻覚の魔物の区別がついて居なかったのか」

 確かに見ただけで行き止まりだと引き返しては居た。

 その時は車を降りて迄は確かめては居ない。

 「触ったのはスーパーの前と戦車を囲んでいた草だけだ」


 「それも含めて魔物にコントロールされていたのね」

 

 物理的と合わせて幻覚で閉じ込める魔物だったのか。

 雨で俺達だから回りくどい事をしたが。

 魔法使いならスグに焼き払うを選択しただろうが、それは幻覚で対処するのだろう。

 力任せな魔物なら、触れさせない様に幻覚でコントロールする。

 「成る程……嫌な魔物だ」

 姑息だがここまで大規模に遣られれば、脅威にしかならん。


 「だが……幻覚を見せる魔物が普通に居るのだな」

 

 「魔物じゃあ無くても普通に有るわよ、キノコとかカビとか、そこらに這えてる雑草とかね」


 「ああ……」

 確かにそうだな。

 それに、コイツはアサガオにしか見えん。

 俺達の世界でも園芸用に売られている西洋朝顔の種は幻覚作用が有ると聞いた事が有る。

 本当の名前はソライロアサガオだったか?

 確か……強烈な副作用も有った筈……なんだったか?


 「暫くするとお腹が痛くなるから、その前に下痢止めの薬をコリンから貰って置いた方が良いわよ」


 それだ!

 そのまんまが大きくなって動く様に成ったのか、コイツはとカビで枯れかけた巨大なソライロアサガオを見た。


 頷いた俺は。

 「ここから出よう」

 そこらに座り込んでいる娘達を引っ張り立たせて車に戻った。

 散々な目に遭った。

 もうじゅうぶんだ。

 

 車に乗り込み、ふと見た後ろの大荷物。

 これも幻覚のせいでハイに成っていたからか?

 俺も含めて娘達も妙にハシャイデいた気もする。

 駅から出たその時から、徐々に幻覚を見せられて居たのだろう……たぶん。

 これから戦争に行くのに、何で釣具なんだ?

 化粧は意味が有るのか?

 犬耳三姉妹の派手なランドセルは……あれはやくに立ちそうだが。

 このピンクのバモスも、やはり普通なら選ぶ事は無い筈だ……だよな?

 そして、今も少し幻覚が残って居る様な気もする。

 わけのわからない考えが頭に引っ掛かってしようが無い。

 どうでもいい事がグルグル回っている。

 これは絶対にそうだ。

 ソライロアサガオのせいだ!



 ダンジョンを出た俺達は、休む事も無く森を移動した。

 ピンクのバモスは引き続き俺が運転している。

 俺も犬耳三姉妹もタヌキ耳姉妹もそれ以外のダンジョン組は誰もが疲れ切ってている筈なのにそれを感じないのだ。

 眠気などは欠片も襲ってこない。

 

 それでも朝方には休める場所を探して、キャンプと為った。

 だがそれは眠気に負けたのでは無く、便意に負けてしまった。

 コリンの薬は飲んだのだが、それ以上に下痢が酷くてどうしようも無くなったのだ。

 俺を含めての全員が腹を押さえていた。

 なので、そこでのキャンプは丸々1日過ごす事となってしまった。


 森の中の少しだけ開けた場所。

 ダンジョンからは9時間以上離れた所だ。

 トイレはその周りの5分程の所の草むら。

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