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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界情勢
120/317

薬とコリン

242ポイント……。

今日は伸びないか。


そろそろ退屈してきたのか?

それとも、動かない魔物では駄目だったのか?


ウーム。

少し考えよう。


明日に期待だ。

みんなまた明日!



 少しづつだが前進した俺達は見覚えの有る場所に辿り着けた。

 駅前のロータリーだ。

 徒歩ならそこから脱出は出来る……筈でも有ったのだが。

 ソコも完全に草木が覆い尽くしている。

 既にロータリーどころか百貨店にも入れない。

 

 そうだろうと予想は着いていた。

 駅前から離れてから、散々に走り回ったのに駅周辺には戻れなく成っていたからだ。

 ダンジョンの何処からでも見える、一部の高い建物……詰まりは駅前のこの辺り、目指そうと思えばその方角はすぐにわかる。

 だが車を手にいれて、あれやこれやと手にいれた物を持って居てはそれを中々選択しづらい。

 ましてやこの危機感の薄い魔物では特にだ。

 直接的に攻撃をされて追いかけ回されればスグにでも、車や荷物を放棄しても逃げ出す事を考えただろうが……これも含めてのここの魔物の戦略に填まったのだろうか?

 

 「これを枯らすのは、やはりキツいか?」

 ロータリーの鬱蒼と繁ったジャングルを指差してオルガに確認をする。


 「こんなの多過ぎる……時間が掛かっても良いなら、少しづづ枯らすけど」


 だろうなと俺も頷いた。

 手榴弾を投げ込んでも何発必要かもわからない、広いスペースに密度が濃すぎる。

 

 「取り敢えず、ミミズは蒔いておこう……嫌がらせ程度だろうけど出口の一つでは有るしな」

 そう言って車から一度降りて、オルガに預けて居た餌ミミズを一つ受け取り中のビニールを破いて投げ付けた。

 蔦にぶつかり腐葉土がバラけるのを確認して、また車に戻る。

 もっと根本的な攻撃方法が有れば良いのだが……現状はこれが精一杯だ。

 銃では弾が小さすぎて、それでも撃てば数本の蔦くらいは断ち切れるだろうけど、それにどれ程の意味が有るのかもわからん。

 手榴弾でも狭い範囲を爆風で飛ばすくらいだし。

 こういう敵は、冒険者ならどう対処するのだろうか?

 やはり魔法だろうか? 

 炎で焼き尽くす?

 魔法の炎なら雨も関係は無さそうだ。

 地道に剣で断ち切って進んでも俺達よりも早いかも知れない。

 

 等と愚痴っていても始まらない。

 ここに冒険者も魔法使いも居ないのだから。

 剣と魔法の異世界に銃や戦車を持ち込んでも限界が有るのは、今思い知らされた。

 数日前にアンが言っていた、転生者が持ち込んだ知識なり技術が中途半端で面倒事の種に成るとはこの事か。


 駅前ロータリーを横に見て、先に進んだ。

 一つ目の交差点。

 この車を見付けた場所だ。

 そこを曲がれば、その先の隠れた交差点に出口が在り、マンセル達が居る。


 だが、そこに道が無かった。

 交差点を曲がった瞬間に」行き止まり。

 部厚い草木が道そのものを埋めている。

 これは裏に回っても同じなのだろう。

 出口の交差点を基準に十字に次の交差点手前迄を完全に塞いだ様だ。


 こうなれば駅前のロータリーとどちらが楽かの判断だけだ。

 「オルガ……どっちが良い?」

 交差点の真ん中で停めた車の中で、目の前の道路と駅の方を交互に指差して聞いた。

 これをどうにか出来るのは今の所はオルガだけだ。


 「どっちも一緒よ!」

 そう吐き捨てたオルガ、勢い車から飛び降りる。

 同じなら、荷物も一緒にの欲に従ったか。


 そのオルガをコリンが呼び止めた。

 「そのカビだけど、少し貰えない?」


 「良いけどなにするの?」

 餌ミミズの箱を一つ手渡して。

 中を開けるでも無いので、もう鞄の中のモノはカビを繁殖させているのだろう。

 

 「薬を造ってみるの……出来るかどうかはわかんないけど」

 

 「薬術のスキルでの除草剤は雨だと駄目なんだろう?」

 俺も確認する。


 「今までの有りモノは駄目だけど……散布するなり地面に撒くなりのは、所詮は雑草の駆除の除草剤だから、単に植物に効く毒なの」

 餌ミミズの箱に目線を落として。

 「でも、これって生きてるのよね……毒と言う依りも植物を攻撃してるのよね」

 自分の言葉をもう一度考えるように確かめながらに話をするコリン。


 纏まりの無い言葉だが、言いたい事はわかった。

 毒ガスと生物兵器は別物で、その生物兵器を造れればとそう言いたいのだろう。

 今まで助手席で静かにしていたのはそれを考えていたのか。

 

 俺が知っている代表的なもので。

 毒……詰まりは科学兵器ならサリン。

 生物兵器なら炭疽菌。

 第二次世界大戦の時にはどちらも兵器として完成されていた。

 サリンはドイツだが、これは使われる事は無かった。

 ドイツの総統が非人道的過ぎると言ったとか……そんな笑い話にも成らない話もあるが、終戦後に連合国軍にサリン兵器を接収されている。

 炭疽菌の研究は日本が一番進んで居たようだが、兵器の形にしたのは連合国軍だった。

 実験と称して数回使用した程度だが、こちらは使われている。


 しかし、その科学兵器と生物兵器の歴史自体は古い。

 古代ローマ時代にその両方が使われて居た。

 科学兵器は飲み水の池に大量の毒草を放り込んだり。

 生物兵器は感染症らしき病死の死体を敵の領地に投げ込んだりしていた。

 どちらも立派な科学兵器で有り生物兵器だった。


 その歴史の古さを考えれば、この異世界でも親和性は高いのかも知れない。

 実際に毒は魔法も含めて有りそうだし、コリンの言葉にそんな感じも読み取れた。

 まあ有ってもおかしくはない。

 なら生物兵器だって造れるんじゃあ無いのか?

 そもそも薬自体が毒で有り、生物兵器でも有る。

 抗生物質は感染症を引き起こす細菌を攻撃する生物兵器だ。

 ウイルスに効かないのが悲しい所だが、細菌とウイルスは別物だからそれは仕方無い。

 魔法でなんとか成らないだろうか?

 風邪を治療出来る薬。

 それが出来れば21世紀の俺達の世界を越えられるのに。

 

 「で、出来そうか?」

 風邪薬ではない、白絹病の対植物魔物用の生物兵器の方だ。


 「取り敢えず……3つ造ってみた」

 膝の上で魔方陣を浮かべて小瓶を取り出している。

 赤い液体、青い液体、黄色い液体だ。

 「ただ、どれも直接……体内? 草だから草内? に入れないと駄目」


 「3つを合わせてか? それとも別々にか?」


 「たぶんその3つも、あんまり効かないと思う……でも、経過が知りたいの」


 成る程、試作の思索か。

 一番に効いたヤツを材料にもう一度、詰めて考えるのか。

 「取り敢えず遣ってみよう」

 頷いたコリンを確認して。

 ローラに向き直る。

 「針と糸をくれ」



 コリンと一緒に草の側に行き、少し太目の蔦の茎に糸の着いた針を刺して糸を通す、その糸の根本は地面に置いた小瓶に入れる。

 毛細管現象を利用して糸に吸われた薬が直接茎の中に入る様にするためだ。

 それをそれぞれ離して3つ作る。


 経過観察を始めたコリン。

 そのコリンにオルガが叫ぶ。

 「なんだか知らないけど、どうにか成るなら早くして」

 相当にシンドイのだろう。

 オルガの前の道路を覆う草木の所々に白いカビが絡み付いて居るのが見える。

 範囲はソコソコに広がっては居るが、劇的にとはいかない。

 徐々に萎びていく、そんな感じだ。


 「あ! 早い……」

 経過観察をしていたコリンが叫んだ。

 生物兵器としての薬もオルガのスキルの影響でも受けたのだろう。

 驚くコリンに。

 「で、どれかいけそうか?」

  

 「待って、また造るから」

 黄色い小瓶を取り上げてそれを空中に描いた魔方陣に放り込んだ。

 暫くの時間、目を瞑りブツブツと何かを唱え始めたコリン。

 呪文か? と聞いて居れば、それはただの愚痴だった。

 これは駄目だし……。

 あれは今一……。

 こうすれば?

 ああすれば?

 魔方陣の中で何かをやっているのだろう。

 中が見えない俺にはサッパリだ。


 そして出来上がった薬。

 今度も三色、緑、紫、ピンク。

 それも同じように試す。


 「時間が掛かりそうだな……」

 これを何度も繰り返すのだろう。

 当たりを引くまで、延々と。

 

 「大丈夫……次で終わるわ」

 経過観察をしていたコリンが、先の赤い液体の小瓶を手に取り。

 目の前のピンクの小瓶に少しだけ注いだ。

 その下の地面に魔方陣を描きながら、魔法でか? 中の液体を混ぜる。


 出来上がった薬は無色透明に成っていた。

 色味が変わる理由はわからないが、効くなら何でも良いとそれを針と糸で蔦に注入する。


 途端にその辺りの草木のカビが加速度を着けて一気に広がった。

 「これ自体に毒性は無いけど……このカビの栄養には成る筈よ」


 「それはオルガのスキルを助ける薬か」

 俺の問に頷いたコリン。

 「後はこれを幾つか造って、手分けしてばらまけば良いのよ」

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