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ファウストパトローネ  作者: 喜右衛門
異世界転生
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t-34中戦車の撃破


 通称ファウストパトローネ。

 正式名はパンツァーファウスト30、第二次世界大戦中のドイツの携帯式対戦車無反動砲だ。

 射程30メートルだが威力は凄まじく14cmの鉄板をぶち抜ける。

 目の前t-34の最も部厚い所で9cmでも、角度さえ間違えなければ一撃だ。


 それを体を捻り斜めに構える。

 ロケット砲では無いのだが筒の前から弾が飛び、筒の後方からその反動の火を吐くのだ、だから普通に正対して構えれば自身の足を焼く事に成る。

 それ故に少し妙な構えに成ってしまうのだ。


 狙いを定めて、引き金に手を掛けたその時。

 少女司令官が飛び出してきた。

 俺を抱えて引き摺ろうとする。

 「危ない!」

 そう叫びながら。

 

 何処かで、戦車の前に飛び出した俺を見咎めたのだろうが……余計なお世話だ。

 視界の悪い戦車で、下がろうとまでしているのだ。

 運転士にはここは死角に成るはずで、砲塔内も含めて車内の人間には敵戦車しか見ていない筈なのに。

 俺はそれを振りほどいて構え直す。

 尚も掴み掛かる少女司令官。


 その騒ぎに流石にt-34の操縦士が気付いたようだ。

 操縦席の真上のハッチを跳ね上げ頭を出して、銃を向ける。

 

 今度は俺が少女司令官を掴み引き摺って敵戦車の側面に跳んだ。

 「邪魔するな!」

 その叫びと共に、そこで少女を転がして側面を狙う。

 操縦士は運転をしながらの事なのでコチラにはそれ以上、気を向けない。

 それ以前に、たかが人間とタカを括っているのだろう。

 嘗められたモノだ。

 

 構えて。 

 一呼吸を置いて、引き金を引いた。

 轟音。

 そのすぐに後方を走り抜ける俺達の戦車。

 「きゃ! と、小さな悲鳴」

 これは少女司令官だ。

 俺が撃った砲撃にか? それとも側を通った戦車にか? 


 そして、俺の放ったファウストパトローネは敵戦車の側面少し後方の履帯を破壊した。

 「しまった! 外した」

 側面砲塔を、しっかりと狙った積もりがずれてしまった。

 だが、その反動と衝撃に驚いたのか操縦士が飛び出して逃げ出した。

 それを、背後から撃つ。


 そのまま、当たったかどうかを確認せずに開け放たれた操縦席のハッチに飛び付き、そこに火の着けた火炎瓶を投げ込んだ。


 後方から自動小銃の音が響く。

 それは、逃げ出した操縦士を少女司令官が撃ったようだ。

 俺の放った銃は外れたと言うことか。

 今度はその自動小銃を構えた少女に掴み掛かり、引き摺って敵戦車から放す。

 

 そんな俺に抵抗をする少女を怒鳴る。

 「戦車が爆発するぞ!」

 火炎瓶の炎が弾薬に引火する猶予はどれ程かはその時のうん次第だろう。

 

 俺の怒鳴り声に被さるように野太い悲鳴。 

 t-34の砲塔のハッチから火だるまに成った男が転げ落ちてきた。


 その顔、槍の記憶と一致する。

 盗賊のボスだ。

 

 少女司令官をその場に転がして、その男に駆け寄った。

 火を消そうと転げ回るボス。

 ソイツを仰向けに蹴飛ばし、その口に銃口を差し込む。

 「拐った娘は何処だ?」


 「火だ! 火を消してくれ!」

 聞いていないのか?

 それともワザと誤魔化したのか?

 

 「それが俺の質問に対する答えか?」

 銃を口に突っ込みながら激鉄を引いた。

 オートマチック銃なのでその必要は無いのだが、その脅しが効いたようだ。


 「裏門の馬車だ!」

 呻く様に。


 「裏門の馬車だ!」

 それを俺が重て叫ぶ。


 「ソイツがボスか?」

 這いつくばったままの少女司令官が俺に尋ねた。


 「そうだ」

 まだ、銃も火もそのままで。

 「生きて捕らえたいなら、火を消してやれ」


 頷いた司令官が。

 「誰か!」

 それに答えてか何処からか数人が駆け寄り。

 服を脱いでボスを被い、火を消した。

 その間、俺の銃はそのまま。


 「もう、それは抜いても……」

 少女司令官が俺にそう声を掛ける。


 「まだだ……娘に傷一つでも有れば引き金を引かねば為らないのでな」

 ボスの目が俺に釘付け。

 その目は完全に怯えている。

 「お前の部下が……紳士なら、もう少し長生き出来るぜ」

 俺もボスの目を睨み付ける。

 「人選が正しかったか? 運試しだ」


 「娘達が居たぞ!」

 何処からかの叫び。

 

 「花音!」

 それに呼応するように俺も叫ぶ。

 「怪我はないか?」


 「……」

 返事が無い。


 俺の顔に作られた笑みが張り付いた。

 

 「待て……助けてくれ」

 大丈夫だ……無事だ……何もしていない……そんな言葉は出てこない。

 それは、いつ拐った娘かはわからないからだろう。

 つまり、何人かの娘には……いや今までの娘達にはそれなりの仕打ちを与えていたのだろう。

 暴力か?

 自由を奪ったか?

 

 「そろそろ報いを受ける時間かな?」

 その問に悲鳴で答えたボス。


 「もう……良いのではないか?」

 いつの間にかに少女司令官が俺の側に立っていた。


 その少女に顔を向けて。

 「お前も……女なのだろう?」

 目を細めて。

 「コイツを許せるのか?」


 首を振りながらだが、ハッキリと。

 「コイツが盗賊で誘拐を組織的に行っていたのはわかった……だが、それを金に変えるなら奴隷商と繋がっている筈だ」

 成る程、女よりも先に警察軍の司令官なのだな。


 「あ! 居た!」

 幼い叫びが背後から。

 見れば花音が走ってくる。


 「何かされたか?」

 

 俺の気に押されたのか、その場で立ち止まり。

 ユックリと首を振る。

 「捕まれた時はちょっと痛かったけど……怪我はしてない」

 俺の怒りが自身に向けてでは無いとわかっていても、怖かったのだろう。

 少し畏縮させてしまった様だ。


 俺は銃をボスの口から抜いて背中のベルトに挟み込んだ。


 そして、司令官に顎で頷いてやる。

 

 その頃には、盗賊の残党も粗方片付いて居た。

 味方の戦車がやられたのを見て、その時点で戦意の殆どを失っていたのだろう。

 国防警察軍のボンクラ兵でもどうにか為ったようだ。


 


 盗賊のボスが二人の兵士に挟まれる様に抱えられて、引き連れられて行くのを眺めながら煙草に火を着け、戦闘が終わった38(t)の側に行く。

 近くに適当に停まっていた。

 そして、傍らには花音。

 

 そんな俺に、運転席のハッチに半身を出しながら親父が。

 「娘さん……無事で何よりだ」

 

 「ああ、助かった」

 

 「しかし、ヤッパリあんたは凄いな!」

 t-34を指差して。

 「あんなデカイのを生身で倒しちまうなんて……そんな人間初めて見た」


 俺も凄いと思う。

 これもライターと銃と撃ち終わって筒だけに成ったファウストパトローネのお陰だ。

 そう心の中で礼を言う。

 それに銃が答えた……私達は知識と経験を見せただけだよ、それを実際に体を動かして成し遂げたのは君自身さ。

 それにライターとファウストパトローネの残骸も頷いている様だ。

 改めて不思議な気分に成る。

 俺がシャーマンだと言うのはもう疑いようも無いようだ。


 そこに声が掛けられた。

 「私も……初めて見ました」

 俺の後方に立っている少女司令官。

 

 振り向いて。

 まだ居たのか?

 と、それは声には出さない。

 が、一つ嫌味。

 「邪魔が入らなければ……もっと楽に倒せたのだがな」


 それに目を伏せた少女。

 自身も邪魔をしたと理解をしていたようだ。

 「それも合わせて詫びなければいけないか……」


 「合わせてか?」

 もちろんこれも嫌味だ。


 「忠告を無視した」

 そう答えて頭を下げる。


 「それの詫びはいい……痛い目には有ったようだしな」

 国防警察軍の兵士達の方にも数人の怪我人が確認出来る。

 動いているから怪我人として目立つが。

 もしかすれば死人も出ているかもしれない。

 薬にしては高く着いただろうに。


 「で……次は何処に行く?」

 親父だ。

 「今度は本当の戦場か?」


 「何を言っている?」

 何故、俺がそんな所へ行かねばならん?


 「そうだな、補給が先か」

 一人頷く親父。

 「弾は三発しか撃っていないが、燃料が必要だな……戦車用とワシ用の」

 

 「いや、だから親父とはここでお別れだろう」

 そう制して首を振る。

 

 「何言ってんだ、ワシとお前さんはもう雇用契約を結んだろう? これから先も一蓮托生じゃないか」

 

 「いや、それは一時的に……」

 嫌な予感がする。

 ソッと背中の銃のグリップを握り、確認。


 雇用契約は絶対だね。

 解雇の権利は雇い主には無いよ。

 雇用契約を破棄出来るのは雇用者だけだね。


 さらりと教えてくれた。

 

 魔法の契約だから……縛りは絶対だよ。


 心の中での質問。

 それを無理に破れば?


 罰が有る。


 例えば立場の逆転、君が親父さんの奴隷に為ってしまうね……。

 それを保護にするには……死を選ぶしかない。


 そんな無茶苦茶な……。


 やってしまったものは仕方無い。

 戦車事、親父さんを養ってやるんだね。


 最後は大笑いされた気がした。


 ガックリと膝を着く俺。

 その時、背後で爆音。

 今頃t-34戦車が爆発した。


 t-34 ソ連中戦車


 ソ連で、機械にして英雄となった戦車。

 通称ロジーナ(ロシア語で祖国)


 バルバロッサ作戦(ドイツのソ連進行)で、ドイツ軍を驚愕させた。

 それまでは戦車戦闘の不馴れな国としか戦闘をしていなかったドイツが初めて本物も戦車戦を経験する事に成る。

 ソ連のt-34は、先のノモハン事件で日本軍に叩きのめされた戦車戦闘の教訓を生かして造られた、詰まりはドイツよりも先に戦車戦闘のなんたるかを学んでいたソ連が造り上げた戦車。

 バルバロッサ作戦ではドイツの対戦車砲はドアノッカーと言われる程に役に立たなかった。

 後のドイツ戦車、タイガーやパンターに大きな影響を与えた戦車である。


 ただ、欠点も多く。

 主砲の俯角(上下角)が浅く下を向く角度が少ない。

 視界がとても悪くて、初期型砲塔は四人乗りで戦車長は運転士、もしくは砲手も兼ねた。

 (後期は砲塔が大型化されて五人乗りとなる)

 機械の精度も悪くて、バックギアを入れるのにデカイスパナを運転士が側に置いて、それで叩いて入れていたと言う。

 真っ直ぐに走るのは速いが、曲がるのが苦手。

 排気管はマフラー(消音機)が無く、直に下に出されて居たので音と土煙でその存在が直ぐにバレる。

 ラジエーターも弱く。

 火炎瓶による攻撃は防げる様には成ったが、それでも火が着きやすい。

 (t-34での戦死者のその殆どが車内の火災で焼け死んだ)

 等々。


 なので、それに気付いたドイツ軍は背の低い対戦車砲、突撃戦車(砲塔を無くして全高を落とした戦車、回転砲塔が無いので真っ直ぐに前しか撃てない)人が近付き爆弾を張り付けるなどで対抗出来る次の戦車の繋ぎとして凌いだ。

 そして後半はパンツァーファウストでの攻撃と、タイガー戦車が天敵となった。

 実際の所、t-34の最大の敵はタイガー戦車やパンター戦車が登場するまでは、航空機か歩兵だった。

 クルクスの戦い時点では、タイガーやパンターによって、その優位性は失われていたが、そのままアップデートを重て戦後、朝鮮戦争、ベトナム戦争、ソマリア紛争にも使われ続けた。

 1995年のボスニア・ヘルツェゴビナ紛争(冷戦終結後)にも見掛けられたと言う。

 今現在も、キューバ、レバノン、リビア、イエメンで稼働可能状態に有る様だ。(現役だと言うが……ほんとかな?)

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