戦場にピクニック気分で行く、その前日
小屋の中の全員に目線を向けられて、少し面喰らう。
いや、念話なのだからバルタだけを呼んだ積もりでも子供達には聞こえてはいるのだろうが。
なぜ村娘達も俺を見ている?
だがすぐに思い当たった。
そうだ、村娘達も奴隷なのだから念話の対象に入っているのだ。
「結局は止めたのね」
目の前でカップを抱えたコリンが呟いた。
結局はでは無くて、結果的にはだが……。
そのシーンと静まり返った中を、今度は身を小さくして横切ってくるバルタ。
俺の目の前まで来ると、回りを気にしながらに。
「今すぐですか?」
「いや、1日置いて明後日の朝には出ようと思う」
それに頷いたバルタ。
「でだ、今回は本当に戦争だ……バルタは行かなくても良いんだぞ?」
砲主としてのバルタは優秀だが、庭に居る戦車兵を借りても良いと思っている。
それは砲主もそうだが装填手もだ。
バルタは俺の所有にはなっては居るが、軍人と言うわけではない。
ワザワザ危険な所に行く理由も、俺がそれを命じなければない筈だ。
だが俺のそんな言葉に、体を硬直させて涙目に為るバルタ。
「うわ、今度はパトがバルタを泣かした」
クロエを馬乗りに為る形でちょうど止まっていたエレンが俺に抗議しようと立ち上がり詰め寄った。
「行くに決まってるじゃん」
「馬鹿みたい、ワザワザ人を殺しに行くの? 自分が殺されるかも知れないのに」
残されたクロエが言い放つ。
「住む所も、ご飯も用意して貰って……それが当たり前なんて思える程に馬鹿じゃないの、私達は」
アンナも俺の側に来て。
「獣人は保護してくれる人が居るから生きていられるのよ……奴隷はどうかは知らないけどね」
ネーヴもクロエに言い放つ。
知らないとは言いながらも奴隷だって同じでしょう? そんなニュアンスも読み取れた。
「確かに……そんな恥知らずには成りたくは無いわね」
エルがペトラの手を引いて俺を背にクロエを睨む。
「……いや、……」
俺が声を出そうとするとイナが被せて来て。
「無理強いはしないとパトは言うし、たぶんここに残っても怒りもしないでしょうけど……でもそれだと私の存在意義が無くなる」
エノも。
「パトを守れないなら、ここに居る意味も無いの……それならここから出ていって」
「私達を勝手に奴隷にしたのはその男でしょう」
「じゃあ別の所の奴隷に成れば良いじゃない……今日来たところなんだからアンに頼めば交換出来るんじゃないの?」
エルはクロエを指差した。
「ねえ……あなた達は全員で行くの?」
俺の向かいに座ってたコリンが聞いた。
それに頷いた獣人の子供達全員。
「そう……じゃあ私も行くわ」
コリンが言った。
「そうね、何が出来るかはわからないけど……私も着いて行く事にするわ、体力には自信有るし」
ハンナもだ。
「じゃあ、装填手はどう?」
「私達も一度経験したけど、難しくは無いわよ、パトの指示とバルタの手伝いだから」
イナとエナがそう進める。
「コリンとハンナが行くなら……」
アリカがそう言ってこちらに来ると、後ろからリリーも着いてきた。
「ねえ……あなたも行くの?」
ローラが花音に聞いている。
花音はそれにもちろんと頷いていた。
「じゃあ……私も」
それを見たローラは少しだけ考えて、そう答えた。
「あんた達裏切るの?」
オルガが苦々しく言い放つ。
「そんな男のオモチャに成るなんて最低よ」
ニーナだ。
「ハゲでデブで威張り散らしたエロ爺よりは随分とましだと思うけど?」
ハンナはそう答えながらお茶を啜る。
「裏切るも何も……私達の保護者はこの男なのだから仕方無いわ」
コリンも同じように啜る。
「私もハンナも覚悟は出来てるし……」
突然に自分の名前を言われたのに少し驚いたのか、側に居たイナとエナにコッソリと聞いている。
「ねえ……痛く無かった? 辛いのは無い?」
それに二人で耳打ちで返す。
「まだ何もされてないから……わかんない」
こそこそと。
仕方無いので俺もそのこそこそに混じって一言。
「まだも何も……端からそんな気は無いよ」
それに驚いたコリンとハンナにイナとエナ。
「イナとエナは今更なぜにに驚く」
こそこそ話で突っ込んでやった。
「じゃあ、なんで女ばっかり奴隷にしたの?」
コリンが俺に聞いてくる。
それには答えは一つしかない。
「成り行きだ!」
「たぶん、自立出来なさそうだからでしょう」
エルはそう思っている様だ。
「じゃあ私達二人はギリギリってところね」
コリンとハンナが頷き合っている。
17才だと、十分に自立出来るだろうとは、突っ込まないでおこう。
それを言えばキットもっとややこしく成りそうだ。
「まあいいか……合計は俺とマンセルも入れて17人だな?」
殆ど遠足だな?
ところで、そんなに連れて行っても大丈夫なのか?
後でマンセルにでも聞いてみよう。
駄目なら近くの村ででも待たせるか?
「ちょっと待ってよ……私達はどうなるの?」
クロエとニーナにオルガだ。
「うーん……留守番?」
少し考えて。
「ローザは居るけど、他人だしな……本宅の誰かに頼むか?」
そうか、置いて行くとなればその辺も問題なのか……いつ帰って来れるかもわからないし……そもそも帰ってこれるのか?
ちょっと言って直ぐに終わるのだろうか?
下手すると何年もか……。
「アンに相談かな?」
預かってくれるのだろうか?
そんな唸っている俺を見て、慌てた様に叫んだ三人。
「私達も行くわよ!」
行くのかよ!
結局は20人か……移動はどうしようか。
戦車には4人。
シュビムワーゲンには5人?
牽引車に6人くらいか?
残り10人……どうしようか?
と、数えていれば19人しか居ない。
「あれ? 1人足りない?」
もう一度数えてみる。
「ヴィーゼは?」
「呼んだ?」
裸のヴィーゼがそこにやって来た。
全身ずぶ濡れで、湯気が立ってる。
もしかして、独りでズッと風呂に入っていたのか?
その日の晩飯は何時もの様に、各々がお椀を持って本宅の調理場の裏に行き、俺を含めてメイド長から分けて貰う。
少し何時もよりも少ないと文句を言ってクロエを睨み付けていた犬耳三姉妹だが、小屋の裏を貸した冒険者達がまだラプトルの肉が余っていて腐らせるのもナンだと招待してくれたので、辛うじて喧嘩に成らずにすんだ。
半分宴会のノリで皆がガッツイている。
その時に、ホンダの軽トラのアクティを返してもらい乗り切れない者はそれで行こうと為る。
運転はイナがシュビムワーゲンでエナがアクティだ。
もちろん先にマンセルには確認をしていた。
こんなに大人数は大丈夫なのかと。
しかし、マンセルは笑って貴族軍なんてそんなもんですよ軽く答えるだけで直ぐに酔いつぶれてしまった。
そんなもんのその内容は聞けずじまいだ。
まあ大丈夫と言うなら構わないのだろうと納得して肉を食う。
俺は翌日は昼前まで寝てしまっていた。
村娘達が俺を起こそうとしたらしいが子供達が疲れているから駄目だと、またもや喧嘩の原因に成りそうだったのをマンセルが止めたらしい。
流石に伊達に歳を食っていないのか、髭面でガタイの良い体格のせいか、皆が言う事を聞いたようだ。
マンセルはそのまま何人かを連れて仕事を頼んだ様だが……その内容迄はわからない。
俺が起きた時に一緒に寝ていたヴィーゼに聞いた話なので、ココまで解読出来たのは自分自身を誉めてやりたい気にもなったくらいだから。
寝起きのまま、ヴィーゼと二人して少しボーッとしながら階下に降りればとても良い匂いがした。
見れば食卓にパンが置かれている。
ハンナが焼いたらしい。
どうぞと勧められて食べたそのパンはとても美味しかった。
日本で食べるフワフワのパンとは違い、しっかりと噛み応えの有るライ麦パンだ。
ハンナもドイツ人だと良くわかる味だった。
この異世界は人や亜人や獣人のごった煮の様な感じで、血が混じる事も多いらしいので見た目では区別は着き難いのだが、造るパンの味は直ぐにそれとわかる。
因みにだが、純粋な人間は少し濃い感じのアジア人ポイ感じに見える。
それも、もしかすれば転生者にアジア人が多かったからなのかも知れない。
ドイツの土地が転生されて出したのは最近と言う話だし……と言っても30年以上は立つらしいが。
この話はハンナに聞いたので確実に理解出来た。
そして少し嬉しくもある。
パンが懐かしくも美味しいのと……。
少なくともハンナは友好的に接してくれた事がだ。




