04.竜の話。肆
――さて、五月蠅いのも居なくなったので、今までに起こったことを整理しようと思う。
推測混じりではあるが。
現状、俺はドラゴン?である。
御伽噺やゲームなどに出てくる、デフォルメされたドラゴンではなく。
ドラゴンスレイヤーの伝説にでも出てきそうなモノだ。
黒い体表。
黒い翼。
曲線を描く一対の角。
金色に、一本黒く線の入った瞳。
鋭そうな牙。
見た目を簡潔に説明するなら真っ黒ドラゴンだろう。
俺は前世で流行っていた、“異世界転生”をしたらしい。
“目を開けると異世界だった”という、割とテンプレ物の。
(ああ、今日も仕事か)
と“目を開ければ、どう見ても寝ていた自室じゃない所で、自分の体も人間のモノではなかった”、ってソレなんてラノベ?
と、呆然としたのは随分と前のことだ。
転生したとは言うものの、前世の事をあまり憶えている訳ではない。
目を開ける前に仕事に行かないと、と考えていたので社会人だったらしいのだが。
どんな仕事だったのか、何歳だったのか。
どんなものが好きだったのか、嫌いだったのか。
どんな性格で、何て名前で、性別は何だったのか。
人間だった、という曖昧過ぎる記憶。
本の内容ばっかりやたらに入っていたのは少し、いや大分ヒいたが。
ドラゴンになってからは、いろんな事があった。
幼竜だったから親竜が居そうなものだが、何時まで経っても出て来ない。
幸運な事に、空腹にはならなかった――不思議なことに、この体は空腹を感じない。試した所飲食は出来るのだが、生理現象が発生しないのだ。食べた分量は一体何処へ……?――ので、困ることは無かったが。
長い間何も起きなかった――とても退屈だった。飛べるようにもなっていたが、暫く飛ぶとその先へ進めなくなるのだ――が、いつからか人間が襲い掛かって来たり切り掛かってきたり魔法を打ち込んできたりするようになった。
幾ら食らうかと思ったが、攻撃は全く通らなかったのでさっさと返り討ち。
同じ恰好をした集団をさっくり縛り上げて送り返したら、何故かやって来る集団の数が増えた。
それからは面倒になったので全部――致命傷にはせず、戦えなくなる程度に――半殺し。
戦えない負傷兵は向こうの足を引っ張ってくれる。帰って行くまでずっと煩いが。
確か、この前に来たのが一番新しかっただろうか。
そして子供が一匹迷い込んできたのがその次の日。
あれ?となると一番近い襲撃日が一昨日になるのか?
……割と最近だった。
いや、濃すぎるだろ……。
腹立たしい程爽やかな笑顔の子供が目に浮かんだ。
やっぱあの鬱陶しいのを送り返して正か――。
「こんにちは、ドラゴンさん。遊びに来ました!」
うげ。
今嫌な幻聴が……。
聞かなかったことに――。
「あれ、寝てるんですか?ドラゴンさーん?」
うん、無理だ。
渋々だが、目を開ける。
送り返したのは“人間だから手心云々”とかではなく、“殺すと後が面倒”だからです。
千年に渡る非情な現実(ダメージ皆無とは言え、人間による攻撃)の前に消失したのです。
この時点で、転生してから大分長い時間が過ぎています。見つかるまでが数百年、見つかってから約千年。
永すぎた生で時間感覚が……と言うやつですね。
ちなみに“同じ恰好をした集団”は、お城から来た兵士軍団のこと。