01.竜の話。壱
――昔々、或る処に、一体の竜がいた――
《触るなと言ってるだろうが!!》
「えぇ、ケチィ」
《触るなと言ったら触るな!》
「いいじゃん、減るもんじゃなし」
《減る!触らせる為にあるモンじゃない!》
「えぇー」
《まったく……》
「沢山あるんだからいいだろ!?一枚くらいいいじゃんかよ!」
《そーやって隙あらば毟ろうとすっからだろ!?大体だな、俺の鱗なんざその辺に落ちてんだろーが!》
そう、今の会話から分かるように、俺は人間じゃない。では何か?と言うと、ゲームやアニメにありがちな見た目のドラゴンだ。
といっても、デフォルメされていない、伝説にでも出てきそうなものである。
そして、俺のことを爛々とした目で見ているこの物好きな子供は、「鱗に触りたい」とかほざいているのだ。
しかも、鱗ならそこら中に落ちているのにもかかわらず、だ。ああ、また――
《だから、しつけえよ!んっとに油断も隙もねえ…》
今のところは、触られる前にぺしっ、と尻尾で払っているが。
この子供には舐められまくっているが、俺は大人を一吞みにできるサイズなのである。
返り討ちにしても大丈夫な人間共と違い、力任せに薙ぎ払えば一瞬で一巻の終わり、なのだ。
こんな生意気な奴でも、死んでしまえば寝覚めが悪い。と、そんな訳で手加減をしているのだが。
タチの悪いことにこの子供は性懲りもなく俺に触りに来るのだ。
《おい、もうすぐ日が暮れんぞ》
「うえ、マジかよ!じゃ、じゃあまた明日な!」
《二度と来んなって言ってんだろーが!》
「んなつれねーこというなって!またな!」
……まあ、日が暮れる前には帰っていくのだが。
昼少し前にやって来て、日が暮れそうになると帰っていく。
二度と来んなとは言いつつ、実は少し楽しみでもある。
初めて俺に襲い掛からず、話しかけてきた珍しいこの人間が来るのが。