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幕間 その頃の友人達2

 昨日、最後の幕間と言ったな………あれは嘘だ。


 はい、今度こそ正真正銘の最後の幕間です。



 「セイヤァッ!!」


 駆け出した拓磨が一息で魔物牛(クジャタ)に近づき、持っている剣を目にも止まらぬ速さで振り抜く。

 グレイより渡された特異級(ユニーク)である剣の切れ味はとても鋭く、クジャタの前足部分を深く抉っていった。


 「拓磨、下がれっ!」


 すかさず背後からかけられた声に、追撃を仕掛けようとしていた拓磨は、咄嗟に下がる。

 同時に、前足を切り裂かれたはずのクジャタは、怯むことなく拓磨へと突進を繰り出そうとしていた。


 「『エアハンマー』ッ!」


 しかし、その攻撃は、突然顔がガクンと上を向かされることにより、中断させられた。


 攻撃のタイミングを見計らっていた樹が、空気を圧縮してつくりあげたハンマーにより、クジャタの顎を跳ね上げたのだ。


 「美咲!」

 「了解ッ!」


 樹が作り出した隙を使い、疾風の如く飛び出した美咲が、クジャタの横ギリギリを走る。

 すれ違いざま、腰に差した鞘から抜剣し、美咲はクジャタの横腹に剣を突き刺した。

 柔らかい肉を切り裂く感触に美咲は顔を顰める。それでも肉を抉る剣の動きは止めず、最深部まで突き刺さった瞬間に、一気に引き抜いた。


 『RRRAAAAAAAAA!!??』


 吹き出す血液と共に、低く野太い悲鳴が美咲の耳に届き、まだ一太刀足りないと理解した。

 再度追撃を仕掛けようとしたが、視界の隅に捉えた光景に、美咲はバックステップでクジャタから後退した。


 「えいっ!」


 場違いな、随分と可愛らしい掛け声が美咲達の耳に届く。

 声の主は叶恵であり、手に持った杖をクジャタに掲げると、その途端、最早虫の息であったクジャタを光の柱が包み込んだ。


 叶恵が愛用する、上級光魔法の『浄火(パーティクル)』だ。


 『その光は、悪しき者を罰す聖なる炎となり』


 そんな、宗教じみた言葉が美咲の脳裏を過ぎった。称したのは樹だが、まさしく目の前の光景はその通りで、光が消えると、クジャタは新たに外傷を作った様子もなく、その場に倒れていた。


 「よしっ、今晩の晩飯確保!」

 「悪いけど、私は乾燥肉でいいわ……」

 

 それを見て高らかに叫んだ樹の言葉に、嫌な顔をして美咲が首を振った。

 正直、あの肉を抉る感触を思い出すと、食が進まないと思ったのだ。



 ◆◇◆



 樹達一行は現在、王族から提示された『冒険者となる』『学校へ行く』『迷宮へ行く』という3つの選択肢のうち、『学校へ行く』というものを選び、それに伴い移動をしていた。

 現在は移動開始から3日目の夕方辺りになる。既に【ルサイア神聖国】から【アールレイン王国】へ越境を果たしていた。


 この世界での学校は、地球とは違い、冒険者や魔法使いとなることを目標にした教育機関である。

 もちろん机の上でお勉強、ということだけとはいかない。日本で言うところの実技教科というものがあるし、何より冒険者を育成する学校は、実際に魔物と戦うことも多々ある。


 要は、危険なのだ。死人が出たこともあると、樹は本で得た知識を思い出していた。

 

 樹達が行く学校は、皆例外なく、冒険者を育成する学校、『第一育成機関』だ。

 【アールレイン王国】の首都にある学校で、地理や魔物との戦闘の基本、この世界の歴史などなど、色々なことを学べるらしい。


 第一から第四まで学校はあるが、第一のみ他機関と比べて入学難度が高い。


 優秀な人材を一箇所にまとめる、という目的はあるだろう。実をいえば、冒険者育成機関とは言っているが、正確には『高ランク冒険者を育成する機関』であるため、それも一つだろう。

 冒険者になるだけなら誰でもなれるのだ。にも関わらず育成機関があるのは、冒険者の中でも高ランクを目指すため。


 年齢に規定はないが、若い人が多いのは当たり前と言えるだろう。特に貴族の子弟等が多く、子供のうちから武術や魔法を習っているものが多い。


 第一育成機関の優秀な人材の中に、勇者を入れる。それは勇者の育成だけにならず、恐らく他生徒への影響も考えているはずだ。


 一応、樹達も周囲の人間には学校へ行くよう言っては見たものの、実際はどうなるのかわからない。


 刀哉の死(実際には死んでいないが)を乗り越えることが出来た生徒は少ない。表面上は既に問題なくなってきてはいるものの、なんの拍子にトラウマが蘇るかわかったものじゃない

 中には魔物との戦闘にトラウマを負った者もいる。


 (いや、平和な国で暮らしてきた俺達にとって、その反応が普通なのかもな)


 樹は自嘲気味に、心の中でそう呟いた。

 なんの躊躇いもなく魔物を殺せる自分たちの方がおかしい可能性が、樹の頭の中ではあった。


 いや、頭では、殺すことに抵抗感が無い方が安全であることを理解している。

 だが、日本人であるということから、それを素直に認めることが出来ないでいた。

 日本の道徳的な考えが、樹に矛盾をもたらしているのだ。


 まだそれを割り切れるほど、樹は大人ではない。自分では周りより大人びていると思っていても、精神は成熟しきっていない。


 「───なぁ、アイツらは無事についてこれてると思うか?」


 ふと、先程倒したクジャタを見事な手際で解体していた拓磨が、誰にともなく口を開いた。

 

 「さぁ? こればっかりは俺にも分からない。何人来るか分からんしな。だが、少なくとも魔物の強さ的には、そう遅れをとる程じゃない。パーティー単位で行動していれば大丈夫だと思うけどなぁ……」

 「そうか………まぁ確かに、他の奴らにはグレイ先生のとこの騎士団が付いてるし、問題ないか」


 近くにいた樹が答えると、拓磨は参謀の答えを信頼したのか、深くは考えていなかったのか、解体した肉をマジックポーチへと収納する作業へと専念した。



 実は樹達は、他の勇者より先行して移動を開始していた。


 これは、他の勇者に気を使った結果だ。少しでも気持ちを整理する時間を与えようとしたのだ。


 もちろん口実としては、勇者の中でも一二を争う戦力の樹達が先行し、移動ルートの魔物を討伐しながら進むことで、より安全を確保するという理由がある。

 今の勇者達の精神状態は、王族も知っている。最近では王女がなにやらケア(〃〃)をしているらしいが、ともかく、ふとしたことで遅れをとる可能性も有り得るのだ。


 そのため、王族側も樹達の提案を快く頷いてくれた。渋った場合には、樹が理屈に理屈を重ねた口撃をするつもりではあったが、そんなことにならずに済んだのだ。


 なお、後列の勇者達にはルサイア騎士団から騎士が数名お供として付けられるらしく、これが樹達が先行する後押しにもなった。

 もし勇者だけで移動することになれば、拓磨達が同行した方が安全だが、騎士が同行するならばそれも心配ないという結論に至ったのだ。


 樹達に騎士が同行していないのは、騎士団からこれ以上人員を割かせるのを、心苦しいと感じたからだ。


 グレイが騎士団長をやっているということもあってか、ルサイアの騎士団は皆気さくで、それでいて練度も高い。だからこそ、心苦しく感じたのだが。


 クジャタを収納し終えた拓磨が水魔法で手を洗い流しているのに乗じて、樹はそこに手を差し出した。


 「……いや、自分で出せよ。お前も水魔法使えるだろう?」

 「拓磨の方が魔力は多いだろ? 戦闘中魔法使うのは俺の方が多いんだし、良いじゃんか」


 樹に正論を言われ、拓磨は無言になりながらも素直に樹に手を洗わせた。

 口論では樹に適わないことを、拓磨はよく理解していた。

 同時に、代わりに他のことで仕返しするということも、決まっていた。

 

 「準備終わったかしら? 終わったなら移動したい───あなた達、何してるの……」

 「気にするな。(クジャタ)は収納したからいつでも行けるぞ」


 突然冷水から沸騰したお湯に変更されたために、『あっつ!? あっつ!?』と叫びながら指を抑える樹と、してやったりという顔をしてそれを見ている拓磨。

 その光景を目にした美咲は呆れ顔でそう呟いたのだが、拓磨は真面目そうにそう答えた。


 何となく、樹に仕返しをしたのだろうと美咲は理解出来たが、同時にやりすぎではとも思った。


 「拓磨、度が過ぎると危ないわよ?」

 「いや、この程度(〃〃〃〃)なら大丈夫だろう」


 一応釘を指してみるが、拓磨は笑って聞き流すだけだ。

 とはいえ、実際に火傷をしている訳でもないので、美咲もあまり強くは言えなかった。度が過ぎるとは言っても、今の樹達は皮膚も強化されていて、多少のことでは火傷もしないのだから。


 「そうは言っても、気をつけなさいよね」

 「分かってるさ。それより、さっさと移動しよう。流石にここで野宿は避けたい」


 拓磨が言いつつ、未だ大袈裟に指を抑えている樹に目線を送った。


 やはりというか、大袈裟にリアクションしていた樹はすぐに気づいて、恨めしそうに拓磨を睨みつつも素直に頷いた。

 何を言ったところで、自業自得という言葉が返されてしまう未来を見てしまったからだ。


 「そーいえば、今ってどこら辺なの?」

 「……樹」

 「いや、どこら辺って言われてもな……首都まで今のペースで歩くと、後2日ぐらいかかりそうな所?」

 「うわー遠いっ」


 叶恵の無邪気な質問に、拓磨は樹に助けを求め、樹は少し考えて、自身の脳内に浮かぶ地図と、現在までの移動距離を計算した結果を伝えた。

 それに、叶恵が一転してげんなりとした顔をする。


 「聞かなければ良かったのに。樹君、この近くに街はあるの?」

 「確か森を抜けた先になんとかっていう街があったはず。そこまで行けば、野宿は避けられる」


 今のところ初日は宿だが、2日目は野宿であった。

 どんな時でも対応してくれる拓磨と、知識万能な樹のお陰で、宿取りや野宿時の準備などは問題なかったが、野宿は緊張と警戒から体が全く休まらず、今日の朝は全員疲労で疲れ切っていた。


 だからこそ、この森を抜けた先にあるという街に行きたいのだ。


 「夜になる前に森を抜けんなら、少し走った方がいいっぽいな」

 「オッケー!」


 時間を考えると、歩きでは夜になってしまう。

 樹は3人に向かってそう言うと、叶恵の元気な返事が返ってくる。


 レベルに対してのパラメータの数値的には、勇者はそれぞれ違いはあれど、常人より高い。

 運動音痴の叶恵も、身体能力自体はそれなりだ。


 もちろん、勇者の中では【筋力】や【体力】の数値はダントツで低い。その分を補うように【魔力】や【知力】は突出して高いが、今は置いておいて。

 だがそれはあくまで勇者の中ではであって、常人に比べると、叶恵は前衛職と比べてもそう見劣りがないほどには【筋力】【体力】のパラメータは高いのだ。


 刀哉がこの場にいればすぐにでもまた深い思考に入り込み考察をしていただろうが、あいにくここに彼は居ない。

 樹はまだパラメータやスキル等のものを"この世界では当たり前"という風に認識しているので、考察には至らない。


 樹は叶恵の返事に頷き返し、ある程度余裕を持って走り始めた。


 


 実は、この話は本来第7章の最初に持ってくるはずだったものなのです。

 前から第7章は友人視点、三人称でやると言っていたのですが、ここにきて、唐突に変更しまして、いつも通り刀哉視点で進めようと思ったわけです。


 唐突に変更してすいません。とりあえず、そういうことなので……突然変更したせいで、ストックは少ないのですが、まぁおいおい。


 明日からしっかりと本編開始です。よろしくお願いします。

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