断絶
曽祖父直平がやってきて、歓迎の宴が開かれた。
父直盛と母新野のお方は笑み崩れ、次郎法師の還俗の日を決めようとしている。
下座で次郎法師はその様子を見ていた。
その様子はどこか他人事のようだ。
その傍らに控えたお花は影のように自らの意識を薄くしていた。
盃を渡された直親は一息に飲み干す。
見事、見事とほめそやす声。
「姫、そんなところにいないでこちらに」
ここ数年呼ばれたことのない名で呼ばれた。
「いえ、まだ還俗したわけではありません、私はここで結構です」
次郎法師はそう言ってかたくなに下座にいる。
「まあそう言わずに、ああそれと新しい小袖を仕立てねばなりませんね」
うきうきとこれからを考えているらしく母は上機嫌だ。
直盛が何か言おうとしたが、その時直平が遮った。
「僧籍にあるものを宴に出すことはない、帰らせろ」
一瞬時が止まった。
次郎法師は両親が何を言われたのか理解できない顔で曽祖父を見ているのをただ眺めていた。
曽祖父は苦虫をかみつぶしたような顔で次郎法師に下がれという。
「わかりました」
次郎法師は一礼して宴の席から離れた。
お花は慌ててその傍らに並んでその場を離れる。
「よろしいのですか」
「よろしいも何も、お爺様のおっしゃることはもっともだ、漱石にある私が宴の席にいるなどとんでもないことだ」
それでも何となく納得しがたいものを感じているようだった。
その翌日さらに直平の言い分は両親を困惑させた。
次郎法師の還俗を許さないというのだ。
母は次郎法師のもとに来て泣き崩れた。
その母を慰めながら、琴の次第を聞きだした。
「直親は元々養子分、ならばお前と婚儀を上げる必要はないとお爺様はおっしゃったのです、どうしてお前をこんなに疎んじるのか」
そう言って声を上げて泣き出した母の肩を撫でながら、父親の様子が気になった。
「父上はどうおっしゃったのです?」
「もちろん反対しました、しかし、一晩かけて説得されたのか、婚儀はなしだと」
後は嗚咽で言葉にならない。
「それは致し方ないでしょう、曾お爺様と父上がそうおっしゃっているなら私は従うだけです」
「次郎法師様」
お花が声を上げる。
しかしそれを遮ってさらに次郎法師は言葉を続ける。
「それと、お花をこの立場から解放してやってください、これ以上私に付き合わせるわけにはいかない」
「次郎法師様」
「お花、今ならのち添えの口くらいならある、これ以上私に付き合うな」
お花はその場で泣き崩れた。