砂糖缶
なし
「いいか。なんども言うが
商売は愛想だけでは
やってはいけないんだぞ。
誠実さ。
正直。
それが一番だ。」
「おめえも
店持つんだろ
何度も言わせんな。」
コーナーに
同じシーチキンを並べながら
店長は続ける。
「そして、スピードだ。」
きれいにおにぎりをそろえながら
「この街もスピードなんだよ。
いまが稼ぎ時だ。」
オーナーはいらっしゃいませえを
連呼しながら、レジに向かう。
むろん
私もだ。
これから2時間は
ずっとレジ。
次から次に
お客が来るからずっとレジ。
こんだけ並べた
シーチキンおにぎりも
すべてなくなる。
レジを打ち始める。
「あんなこたあ、
言ってますけど
いい親父さんなんですよ。」
さっとコーヒーを
抽出する。
何もいわずに
差し出す。
「よく覚えてんな。」
口角のあがる
職人さん。
「毎朝のことですから」
「でも、おれが買わなかったらどうすんだい」
「そんときゃあ、
俺が飲むだけですたい。」
かっかっかあと
笑いながら去る職人。
「まいどありいーー」
と、威勢のよい一声。
さとうかん。
こんな明るい彼だが
小学生の時は
砂糖の缶。
さとうかん。
といじられて
いじられて。
おまけに母子家庭だったもんだから
よけいだった。
くさくもないし。
明るくもない。
そんなさとうかんに
つんけんする。
奴等。
いやがらせは
たびたびだった。
なし