第??話 異世界で食事をする際の注意点
異世界と言えば、昔は召喚されたり、穴に落ちたり、誘拐されたり、そういう形で行く事が多かったそうだ。最近は、不慮の事故で死に、転生して行くのがブームらしい。
死にたがりが増えたそうだ。
昔は、異世界に来てしまった人は、なんとか元の世界に帰ろうと頑張ったそうだ。最近は、異世界に定住するのがブームらしい……。
そんな現実世界に絶望した若者が、余りにも増えすぎてしまった。
不景気は人の心を腐らせ、互いに罵り恨み、経済格差が拡大すれば、誰もが浮世を呪い、異世界を求めてしまう事も必然だったのかも知れない。
時代は、いよいよ以てニート100万人の大台を軽く突破した。
無視できぬ規模になってしまったと政治家は慌る振りだけはして、大人たちは誰が悪いと責任探しに明け暮れる。
当然、何一つ問題の本質にたどり着く事もなかった。
ので、誰かが言い始めた。
「彼らは、時代の厳しさを理解していない怠け者ばかりだ。私の頃は毎日が仕事だった」と、1970年代に社会人になった老体の重鎮が言えば、
「ならば、厳しい世界で訓練させてはいかがか?」
合いの手を入れるのは、経済界の重役達。
こうして、ニートと呼ばれる経済弱者は、大富豪達のたいして興味もない実験の、道具として採用される。
こうして、厳しすぎる現実に耐え切れずドロップアウトしたニート達を、もっと厳しい世界に突き落とす事が決定された。
名目上は、【若年者更正プログラム】と言う名前の、全感覚没入型仮想現実ゲーム、略してVRMMOゲームというモノだ。
「どんな無能で役立たずでも、厳しい異世界を体験すれば、物語の主人公の様にきっと立派に成長するに違いない!」
いや、無理だろw
と、誰も突っ込まないあたりが、大人社会もいろいろ疲弊していたのかも知れない。
もしくは、無駄だと分かっていても、予算が降りて自社の売り上げが上がるのだから、若者がどうなろうと知った事じゃなかったのかも知れない。
大人達も失われた30年と呼ばれる経済不況を解決する事が出来ずに、延々と自らの無能を噛みしめる時代を過ごす羽目になっていたのだから、目先の売り上げさえよければ、他は考えたくないのだろう。
大人も、若者も、この国では等しく誰もが無能を味合わされる時代だった。
どうすればいいのか、何が間違っていたのか、誰も答えにたどり着けない、まさに煉獄の世。
だが、しかし。
異世界転生には、素晴らしきチート能力が授けられると言うご褒美が付きもの。
そう、例え現実世界で無能で役立たずなニートでも、異世界に来たら類希なる能力を与えられて、大活躍! と、なるはず。
「えー、実はチート能力案についてですが、技術的問題点はクリアできていますが、現状の参加者人数の規模を勘案しますと、特殊仕様を量産するには予算的な制約が著しく問題になりまして…………」
などと言う、開発運営部からの報告により、予算の事情でチート能力は与えられない事になってしまった。
実に、……無慈悲な事に。
――あぁ、この計画、ダメかもしれない。
なんて思っても、大人の事情が一度動き出したら、止められはしない。
そして、最初の実験台となった6000人の選ばれちゃった若者達が、異世界へと踏み出していった。
新たな時代を作り上げる力は、いつも人知れぬ若者の中にある。
かも知れない?
***
普段の開拓村を離れやってきた街は、そこそこ大きな所だった。
魔界の近くにありながら守備兵力も充実して、案外安全な雰囲気がする。街並みは若干煤けていて、土壁と木材で組まれた家々に、時折コンクリの様な建物の外壁には、戦闘の跡が残る物も少し混ざっていた。
街ゆく人々は、場所がら武装した人間が多い。
兵士だったり傭兵だったり、商人も武器を携えている。
盾を背負っていたり、剣を腰にぶら下げて居たり、槍を担いでいた。夕暮れにもなれば、各々が夕食に出てきたり、もしくは住処に戻るところなのだろう。
そして、その食堂もまた、そんな人々で騒がしかった。
ただし、さっきまでは。
あれ程騒ぎ立てていた食堂の客たちも、水を打ったように静まりかえっている。
繁華街にある木造の大食堂には、今日も席からあふれる程の人間がひしめき合っていた。だれもかれも逞しいと言えば聞こえは良いが、大半が兵士か傭兵ばかりの粗暴な連中が多い。
「ここで揉め事起こしたら、俺らどこで飯食えばいいんだよ……!」
そう声を掛けて来る青年も、見た目は傭兵みたいななりだった。
今は、胸部鎧は脱いで足元の背嚢に縛ってあるが、草擦りや脛当ては付けたまま、両手剣もテーブルの横に立て掛けてある。
ただ、他の傭兵の様な険しい表情や、鋭い眼光はなく、どちらかと言えば平和ボケが似合う平凡な青年だ。
「仕方ないでしょ……。わたしは、お腹が減っていたの!」
反論する少女も、静まり返った周囲の視線を一身に受けて、ほとんど狼狽え気味だ。見るからにひ弱そうな二人が、屈強な男達に囲まれて、そして、肌を刺すような緊張と警戒を受けている。
「減ってたからって、はっ倒してどうすんだよ……」
食堂の真ん中では、床に一人の男が伸びていた。腹部に強烈な、気絶するほどの一撃を受けて、いろいろ逆流したモノをぶちまけてしまっている。
そんな風景ならば、この食堂ではいつも通りの喧嘩だ。
酒のつまみが来たと、周りの客たちが喧嘩を囃し立てるぐらいする。
ただ、いろいろが予想外な事になった。
伸びている男だって、まさか自分が突っかかった相手がこんな奴だとは今も気が付いていないかも知れない。
***
「たく、人を見るなり追い出すって、そんなレストランがあるかっての」
ツヴォイはまた同じ文句を言いながら、繁華街の中心部へ向けて歩いていた。
「仕方ないよ。わたし達の身なりじゃ、傭兵か盗賊だって思われちゃう……」
コウは苦笑いしながら言う。
隣を歩く少女の見た目は12歳程で、夕日に照らされた金髪が赤銅色に輝いている。長髪のそれを後頭部で軽くまとめ、残りが尾の様に揺れていた。
青年と同じように全身を防具で包み、手にはガントレットをはめている。背負う盾と剣は、体格に不相応な大きさ。この世界においても異様な格好だった。
「また、うるさい飲み屋になっちゃうね」
コウの言葉に、ツヴォイは重い溜息をついた。
「マジ嫌なんだよな。あっちの世界の飲み屋も好きじゃないけど、こっちの世界はマナーどころかホント無法地帯なんだから」
「だよねー。わたし達だけは静かに食事しようね」
「あぁ……」
そんなウルサイ方の食堂に入った二人は、いい加減慣れてきた強引さで適当に空いている椅子に割り込む様に座ると、「温かいメシをくれ! 二人分!」と言うツヴォイは適当極まる注文を、ウェイトレスの女性に投げ飛ばした。
これも、こちらでは普通の事だ。
逆に言うと、細かい注文は一切受け付けてくれない。
「ふぅ、早く期間終わんないもんかな……。いい加減、この街の飯は飽きた」
「ちょっと、愚痴り過ぎー。仕方ないでしょ。油と油と時々コショウしか無い様な食事でも、それしかないんだから」
そんな事を言っているコウの方が、明らかに不満たらたらと言う表情だった。
いや、不満に思っているからこそ、考えないようにしているのに、ツヴォイが口に出すからイライラが加速していた。
「わたし、寿司が食べたい! カレーも食べたい。ナン付きで! チャーハンでもいいな。あと魚! 魚料理が少なすぎるの!」
そんな食事への情熱に益々盛り上がっていくコウに、ツヴォイは苦笑いしか出来なかった。
どうせ、プログラム期間が終わるまでは戻れないのだ。
それまで、このやり取りも続くのだろう。
リアル側に帰れたら、向うで幾らでも美味しい料理が食べられる。
「むー、水も出ない!」
コウが更にイライラと机を叩いた。
狙っているのかコウの素なのかは分からないが、余りに子供っぽい仕草だった。コウの身長もあいまって、ツヴォイは笑ってしまう。
「笑うことないでしょ! 分かってますよ。この世界では、水は誰も持ってきてくれませんものね! 自分で取りにいきますよ!」
「ありがとう」
席から立つコウに、自分の分もよろしくという意味を込めてツヴォイが礼を言った。
「むぅ!」
そんな嫌そうな唸り声を上げたが、文句を言わずに持ってきてくれるのはいつもの事なので、ツヴォイは変わらず笑顔だ。
コウが大勢の客の間をぬう様に歩き出したとき、ツヴォイは呼び止めようとした。
「おわ!」
「あだっ」
ちょうど木製のジョッキを両手に歩いてきた男と、コウが衝突して二人とも地面に倒れ込んでしまう。呼び止めるのは間に合わなかった。
当然、男の持っていたジョッキは転がり、中身のエールは床に吸い取られていく。
「あぁ、やっちゃった……」
ツヴォイが立ち上がり男の方へ行こうとしたが、それよりも早く男が自分で立ち上がる。
「誰だこの野郎! 俺のエールをどうしてくれる!」
かなり酔っぱらった様子の男に、ツヴォイは困ったなと声を掛けるタイミングを逸してしまった。
「よそ見をして突っ込んできたのはそっちでしょ!」
立ち上がったコウはエールまみれだ。状況を見ていたツヴォイからすれば、明らかに横から突っ込んだのはジョッキを持った男だったが、そういう責任論は、ココでは関係がない。
この世界では酔っ払いには絶対に突っかかるなと言う鉄則を、コウが忘れているのでコウが悪い。
「はぁ!? 何だ、ガキだと! テメェみたいな小僧が大人に逆らうのか!」
「ちょ、まっ!」
ツヴォイが呼び止めるか早いか、酔っ払いの振り下ろした拳がコウの頭を打ち付けていた。
「んがぁ!」
しかし、叫び声を上げたのは酔っ払いの方だった。
手を引くと、痛そうに押さえている。
「誰が小僧よ……。わたしは立派なレディーよ!」
声だかに宣言するコウに、ツヴォイは『あぁ、これダメなやつだ……』と泣きたくなってくる。
これでは、酔っ払いをますます怒らせるだけだろう。
コウの方も、空腹で脳みそが酔っ払っているらしい。
そんな騒ぎに気が付いた外野が、小娘に後れを取っている男をけなしたり、焚きつけたりと、拍車をかけ始めるから始末に負えなくなってくる。
「テンメ、このクソ石頭!」
言うなり、男が蹴り上げて来るが、素早く後ろにステップを踏んだコウはあっさり回避する。
勢い余った男は、そのまま体を回しながら尻餅をついてしまった。
小さな少女一人に、大の大人がそんなみっともない姿を晒せば、ましてや誰もが戦闘を生業としているここでは、男をバカにした笑い声が食堂をつつんだ。
少なくとも、男にだって戦いに身を置く者としてのプライドがある。それは職業的な信用にも直結して、ここでバカにされたままでは、今後の仕事に差し障る重大問題だった。
外野からもバカにされ頭に血が上った酔っ払いは、勢い余って腰の短剣を抜き放っていた。
「お、おい! あんた子供に剣抜いてんじゃねーよ!」
ツヴォイが止めに入ろうとするが、そのツヴォイを取り押さえる腕が、何本も伸びてくる。
「止めんなよ、あんちゃん!」
「楽しみがなくなるだろ」
「ははは! いい余興だ! やって見せろ!」
と、外野が羽交い絞めにしていくからどうしようもなかった。
「クソガキが、クドヴィナス傭兵団の十人隊長のオルキリア様を怒らせた事を後悔させてやる」
「なにが十人隊長だ!」
「ガキに凄んでんじゃねー!」
「女の子のに勝てるか、賭けが出来そうだな!」
「だははは! 俺は、小さな勇者に、ジョッキ一杯賭けてやる!」
そんな嘲笑交じりのガヤが飛び交えば、酔っ払いのオルキリアは益々顔を赤くした。
「うぬぬああ! うるっせぇ!」
今まで何匹もの魔物をその手で倒してきた彼にとって、こんなひ弱そうな少女一人、短剣で脅せば泣いて謝って来るに違いない。そう思っていた。
特に、若すぎる年齢のくせに武具を揃えているあたり、どうせどこぞの貴族のはねっ返り娘かなんかに見えた。最弱の魔物でも倒して、良い気になっているに違いない。
止めに入ろうとした青年も、その娘の従者かなにかだろう。あちらも軟弱そうな見た目だった。
「おい、ガキ! 調子に乗るのもいい加減にしろよ! 今すぐ跪いて謝るってんなら、俺だって命までは取ろうとは思わねぇがな! そうじゃねぇなら、社会の厳しさってのを教えてやるのも、大人の役目だぞ!」
特に、魔界最前線の社会ルールは力こそすべてだ。
流石に殺人になると、この街最強の国軍警察が出張って来るが、社会を舐めている貴族の娘なら、ちょっとぐらい痛い思いをさせても逃げ切る自信がオルキリアにはあった。
「…………ゴタクはそれだけ?」
「あぁ?」
オルキリアの耳には、予想のはるか斜め上を飛んでいく言葉が届いていた。
まさか、目の前の少女からそんな言葉が出て来たとは思えず、思わず聞き返してしまう。
「なにが大人よ……。人の夕食を邪魔して…………」
「コウ、落ち着け! 静かに食事しにきたんだろ、な?」
ツヴォイの言葉は、しかし視線をうつむかせたコウには届いていない様子だった。
「わたしは、静かに、平穏に引きこもりたいだけなのに…………。こんな世界に無理やり閉じ込めて……、いろいろ背負わされて…………。大人なんか……」
しかも、いろいろ今日までの不満が漏れだしてきていた。
これはいけない、とツヴォイは焦る。
完全に八つ当たり態勢に突入し始めている。
「おい! 俺が本気でないとでも思っているなら、今すぐ思い知らせてやるぞ!」
いよいよオルキリアがコウに短剣を差し向けてきた。
こっちの酔っ払いも、一切退く気はないようだった。
「できるモノなら……、やってみなよ!」
「んなんだとぉう!」
真っ向から叫ぶコウに、ついにオルキリアもキレてしまった。
「泣いて詫びろ!」
オルキリアが短剣を持った右腕の脇を固めると、一気にコウへ襲い掛かっていく。
突き出した短剣は、一直線にコウの元へ向かっていった。
それを、コウの不機嫌に座った目が待ち構える。
「待て! やめろ!」
そう叫んだツヴォイは、いったいどちらを止めようとしていたのか。
「うがあぁあ!!」
刺される前から、コウが叫び声をあげた。
食堂に来ても脱がずに、ガントレットを装備したままの腕を持ち上げたと思えば、即座に打ち出す。
そして、オルキリアの繰り出した短剣に激突する。
金属音を響かせて、鋼の装甲に弾かれた短剣が宙を舞う。
「あ?」
短剣が飛んでいく軌跡を、オルキリアは目で追いかけてしまっていた。
そんな無防備な懐に、コウが全力で踏み込む。
そして、再び右腕を引き絞ると、全身の体重を込めて容赦なく撃ち放った。
「ぐぶぇっ!?」
深々と、コウの右腕がオルキリアの腹部に突き刺さる。
体をくの字に折り曲げ、吐しゃ物をまき散らしながら、オルキリアが崩れ落ちていった。
***
食堂は静寂に包まれた。
まわりの客には、コウはどう見てもただの女の子見えていた。
確かに、見た目は傭兵みたいな恰好をしているが、子供が揃える武具としては不釣り合いにしっかりしている。だとしたら、財力のあるいけ好かないどこかの貴族の娘に違いない。
怪我でもさせて、怖い思いをすればそれで酒が旨くなる。
そんな風に、客たちも考えていた。
だが、結果は全くの予想外だった。
まさか、少女の方が傭兵の男を一発で沈めるなど、誰も想像できはしない。
だが、こうなってしまった後なら分かる事がある。
よくよく見れば不自然なのだ。
いや、不自然さがない事が、不自然なのだ。
貴族の娘が英雄譚にでもかぶれて酔狂で武具を身にまとう事は、百歩譲ってあるかもしれない。
しかし、ならば着慣れない鎧に不自然さがなければいけない。
「…………」
食堂の客たちは言葉に出すことも、その不自然さに触れば、自分も得体のしれない何かに巻き込まれるのではないかと恐れ始めていた。
鎧が、あまりにも少女に馴染んでいる。
それどころか、どの武具も傷だらけで、一回や二回の戦闘を経験したぐらいではない事を物語っていた。
そして、先ほどの突きを見切って、最小限の動きで弾いたのは、訓練だけで身に着けられる技術じゃない。
――こいつは……、いったい何者だ!?
「ここで揉め事起こしたら、俺らどこで飯食えばいいんだよ……!」
一変した場の空気に、外野から抜け出してきたツヴォイが焦る。
「仕方ないでしょ……。わたしは、お腹が減っていたの!」
「減ってたからって、はっ倒してどうすんだよ……」
こんな事では、今日は夕食なしになりかねないとツヴォイは困り顔だった。
もし傭兵の男を倒したのがツヴォイだったのならば、ここまで警戒されなかっただろう。
ひ弱そうだが、骨のある青年だと思われる程度かもしれない。
だが、少女が大人を一撃で倒すなどあってはいけない。
どう考えても、少女の細腕にはゴリラみたいな筋量はないし、拳に乗せられるような体重も無いはずだ。物理的に無理なはずだが、魔術を使った様子もない。
この食堂に居る人間は、誰もが魔物との戦いを生業にしている。
つまり、不測の事態、予想外の状況に極めて敏感、神経質だと言っても良い。
彼らにはコウが既に少女ではない、場合によっては魔物以上に危険かもしれないナニカだと、考え始めていた。
こんな空気では、何かのはずみで誰かが剣を抜けば、雪崩をうって襲われかねない。そうなると、夕食どころではなくなる。
どうする? どうしたらいい!?
冷や汗をたらしながら、ツヴォイが必死に周囲を見渡す。
その目の前を、ウェイトレスが我関せずという涼し気な表情で通り過ぎた。
豪胆っぷりにツヴォイも驚かされるが、次の瞬間には、とん、とテーブルに料理が置かれた。
ウェイトレスが運んできたものだ。
荒事になれている客達ですら、少女のやらかした非常識な事態に固まっていると言うのに、この食堂のウェイトレスはまるで騒ぎなど気にしていないようだった。
「ごゆっくりどうぞ―」
なんて、ツヴォイ達に笑顔までくれる。
この状況で、ごゆっくりしていいのか!? と、ツヴォイは更に混乱する。
「ど、どうも……」
そのあまりに平常運転な対応に、ツヴォイの方が気後れしてしまう。
そんなウェイトレスが持ってきたモノは、この世界では少し珍しい深い丼型の器だった。
その中身を見た瞬間、コウが即座に席に着く。
そして、テーブルの箸をつかみ取ると、
「いただきます!」
この状況で周りを無視して食べ始めるコウの神経にも驚きだが、ツヴォイにはそのどんぶりの中身が、そこから漂ってくる香りが、さらに驚かされる。
「マジか……この世界に、あったとは」
ツヴォイもこの世界で始めて見る、馴染みの料理に驚きを隠せなかった。
汁に浸してある麺類に狂喜乱舞するコウ。
今だけはツヴォイにもその気持ちが良く分かった。
この際、どうせなら死ぬ前に喰ってやると、急いで席に座りツヴォイも箸をとる。
「いただきます!」
そして、数か月ぶりのラーメンにかぶりついた。
すすり上げる麺は仄かに黄色く、ダシはもしかしたら薄すぎかも知れないが、それ以上に懐かしさと、そして口に放り込んだ一見ベーコンが、間違いなくチャーシューを再現していて、それが見事に――(以下略)
始めまして、辰政です。
実は、これは第一話ではありません。
おまけ話で、物語の雰囲気を感じてもらえればなと思いました。
基本、ツヴォイとコウの二人が躁鬱を繰り返しながら、経済ネタとバトルでお送りします。
シリアスなネタを扱いますが、基本的にはギャグを混ぜつつ、全ての絶望に救済を求めるお話です。
この物語を読んでくれた人に、少しでも幸せになって貰えることを願って……。




