There after
「――というのが、私の中の一番の思い出かな。まさか、大学生になって青春を謳歌できるとは思ったよ」
「つまり、教授と彼女――えっと、若樟さんでしたっけ、は付き合っていたんですか?」
「その三ヵ月後、彼女は私に彼氏を紹介してくれたよ。今じゃ二児の母だ」
あんたみたいなストーカーがいながらよくもまあ彼氏ができたな、と呆れながら、僕の教室を受講している生徒の一人が言った。
因みに総生徒数は一人しかいない。
「脈ありと感じた私は、専門の心理学を駆使して気を引こうとしたんだけどね、世の中上手くいくものじゃないね。今となっては良い思い出だ」
「おい、待てや――じゃない待ってください。教授は心理学科専攻だったんですか?」
「うん。そうだよ。面白そうだったし、妹のこともあったしね」
「で? このゼミは?」
「教育学部工学科柴山犀一制御工学教室だね」
「…………まさか、入り直したんですか」
「未練は絶ち切らなきゃなと思って卒業後入り直したよ。両親からの反対はあったけど、元より奨学金で入っていたし、生活費だって塾のバイトで食い繋いでいたから、そちらが赤字になることはないだろ、と言ってやった。二回目も取ったから最終的には容認してくれたけど」
「この学科も教授が作ったんですっけ?」
「他にはないでしょ?」
「情報科電気工学教室なら、近畿にありますよ」
「…………」
どうやら、世間は本気で僕の事が嫌いなのかもしれない。
ええと、向こうは向こう。ウチはウチなんだ、と咳払いする。神樂滝君が冷めた目で見ているがそれは気のせいだろう。
「ストーカーは結婚できないって神様が決めているのかな」
「職場の上司十年以上ストーカー被害を受けていましたけど、相手とゴールインしましたよ。娘さん三歳児なんですけどね、父親に似て頭が良いですよ。やっぱ、頭脳って遺伝なんですかね」
「彼女はとても運がいいと見た」
「他にも二番目の姉の同期が、高校時代に年下からの告白を振ったんですよ。そのあと、短い期間だったけど、ストーカーされていたんですよ。まぁ、結局はゴールインしました」
「そ、それは女子だったからで、私は紳士だから……」
「因みに今言いました、二番目の姉はストーカー気味の男性と結婚しました」
「神樂滝叶君、単位無し、と」
「俺に八つ当たりすんな、馬鹿野郎。さりげなく犯罪幇助しているだから、落ちるところまで落ちろ」
と、手元に会ったペンケースを僕に目かげて投げる神楽坂君。そうやって、すぐに物を投げる癖はどうにかすべきだと先生は思うのだが。
しかし、今頃彼女はどうしているだろうか。結婚当初は旦那さんを連れてちょくちょく会っていたのだが、ここ最近は全く会っていない。久しぶりに会いに行ってみようか。歓迎されないだろうけど、偶には良いかもしれない。
「あわよくば、不倫間け――」
神樂滝君が投げた缶ペンケースが思いの外クリティカルヒットし、入院する羽目になってしまったのであった。