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Before2

私はとても困惑している。

 正しく言えば、慌てている。

 理由は簡単かつ、明瞭である――


「やばい……寝坊しちゃった」

 ――珍しく寝坊してしまったのだ。

 久しぶりの彼氏とのデート。しかし、漫画であるような「服が決まらずに夜更かしをした」なんてパターンな事は起きず、普段より早めに寝た。もちろん、目覚ましはきちんとセットした――よりによって待ち合わせ時間にセットしてしまったけども。


「うぇええ……どうしよう、どうしようもないよ。嫌われちゃうよ」


 今まで築き上げてきた彼との関係が、目覚まし時計によって、あっけなく壊されようとは、この世界のだれが思うだろうか。私だってこの日を迎えるまで考えたこともない。

 どれだけ脆い関係なんだ。脆いのは、自分の精神だけで十分だ、十二分だ。


「そうだ。連絡すればいいんだ。何で気付かなかったんだろう」


 常識であると共に妙案でもある。分かれば、今すぐ行動に移すのみ。バッグの蓋を開け、目的の物を探す――だが、


「あれ? ない?」


 いくら探しても見つからない。もしや、家に置き忘れたのだろうか。こうしている間にも随分移動していて、引き返せない距離になってしまっている。

 どうしたものだか、悩んでいるその時だった――


「あの……すみません……」

「はい?」


 振りかえると、帽子を目深に被った男が立っていた。見た目からして、大学生だろうか。


「駅を通るバスはどれでしょうか?」

「えっと、駅前は……次のバスですね。五分も待ちませんよ」

「そうですか。ありがとうございます」


 と、男の人は言った。

 私と同じように用事があるのだろうか、彼は挙動不審に何度も道路を見ていた。

 そこでふと、連絡を取る唯一の方法を思い付いた。可能性は低い、でもやってみる価値はある。


「あっあのっ!」

「うはいっ!? な、ななななんですか!?」

「初対面の方にこう言うのも失礼だとは思いますが――」


 そして、一分後。


「うんうん。分かった……じゃああとで。――ありがとうございました! おかげで助かりました!」

「い、いえ……」


 驚く事なかれ、私がとった最終手段は、なんと一分も満たない会話をしたこの人から携帯電話を借りると言うものだった。我ながら恐ろしいことをしたと思う。実行した自分が言うのもなんだが、拒否することすれ、不審に思われるような行為なのだ。人を疑わない性質なのか、断りにくかっただけなのか定かでないが、感謝だ。


「あ。バスが来ましたよ! あれを乗って三つ先に駅にあります……よ」 


 男の人はドアが開いた途端、急いで乗り込んでいた。急ぎの用事があった

のだろうか。様子からして、大分焦っていたし。私のように遅刻しなければいいけれど。


「そう言えば、あの人、頑なにポケットから手を出そうとしなかったな」


 携帯電話を借りた時も、ズボンの右ポケットに入っているのに、何故か左手で出していた。


「うーん。ま、いっか。私には関係ない事だし」


 そう考えている間にも、私が乗る予定のバスがやってきた。お詫びに何か奢らなければ。折角私たちが築いたものが崩れてしまう。 

今日の彼は、今日の私を嫌いになりませんように。

 そう願って、私はバスに乗り込んだ。

 が――


「あ、バスを間違えて教えちゃった」


 真逆に行ってしまうけど、まぁ何とかなる……よね?


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