飛頭蛮といぬがみの出会い③ ~完結~
《飛頭蛮、出会う》
面接に行きました
受けました
落ちました
ちーん……かれこれ、10社以上の面接を受けたんだけど、どうしてでしょう。全て落ちてしまいました。
うぅ、泣きたい、泣きたいです。10社以上受けて落ちるこのショック感と焦燥感、これはやはり、自分の欲の為にお金を使ってしまった罰なのでしょうか。
もうこうなったら、今日は飲みます!飲みまくって嫌なことを忘れてしまいましょう。私は近くにあった『遊楽亭』というお店に足を運びました。
やっぱり、マッコリを飲むと落ち着きますね。おぉっと自然と涙が出てきてしまいました。あれ、おかしいな、涙が止まりません。ハンカチ、ハンカチ。
「ぐずっ」
「おーおー、ねぇちゃん。そんな顔してっと酒が不味くなる。どうした、何かあったのか?」
カウンターで座っている私の隣に腰掛け、声をかけてきたのは、人間の男に化けている妖怪でした。強面で左目に傷があるのが特徴です。
「あの、どなたでしょうか?」
「オレはいぬがみ、今は人間に化けているが元はタヌキだ。ねぇちゃん、ここらで見ない顔だな。その格好からすると外国から来たのか?」
「はい、中国から来ました飛頭蛮です」
「ひとうばん」
「いぬがみさんもお一人なのですか?」
「あぁ、今日は一緒に飲む奴がいなくてな」
いぬがみさんはよれよれのスーツを着ているので、どこかで働いて見えるのかな?まだ涙は引きません。
「ぐずっ…」
「おいおい、どうした。何かあったんなら聞くぞ」
「良いのですか?」
「おう、なんでも言ってみろ」
「実は」
私はいぬがみさんの優しさに甘えて、今までのことを全て話しました。なんと言いますか、いぬがみさんは誰とでも自然と話せてしまう不思議な力があるようにも思えてきました。
「いぬがみさんって、見た目は強面のくせに、意外と良いお方なのですね」
「見た目が怖いのはよく言われるな」
私の話を聞いたいぬがみさんは暫くの間、考え事をされていました。
「そうか、働き口かぁ〜。それならオレ、の会社で働くか?」
「えっ」
「オレの会社は電化製品を扱っててな。今は人手不足じゃなくて妖怪不足なんだ」
「電化製品ですか」
「それに、オレの会社は全寮制だから住むところも安定している。日本にいる間だけでも騙されたと思ってオレの会社で働いてみないか?」
こんな良いお話はございません!いえ、日本にいる間だけではなく、もういっそのこと住んでしまいましょう。
「本当に、良いのですか?」
「おう!まぁ、オレの会社は変わり者が多いがな」
「いぬがみさん、ありがとうございます!」
「良いってことよ。って泣くな、泣くな」
また、涙が止まりません。でも、これは、嬉し泣きですよ。ひとまず涙が止まったところでいぬがみさんが、仕事は明後日から始まるので、会社で働くに当たって必要な物を買うようにとおっしゃいました。
「『我楽多屋』っていう店なら全部揃うし、何よりあそこは他の店よりも安くて良い品が入る」
「はい」
「我楽多屋の場所は、この紙に書いておくからな。後、会社の住所と電話番号と場所もこそに書いておくな」
「本当にありがとうございます」
「いーよいーよ、あっ、すまねぇ。オレもう仕事だから、それじゃぁ」
そう言って、いぬがみさんは帰ってしいました。本当に良いお方です。あの方のためにも仕事を頑張らねば、今日はもう帰りましょ。
私が飲んだお酒の料金を店主に払おうとした時
「代金は貰ったよ」
「えっ?まだ、お支払いをしていませんが」
「さっき左目に傷がある奴が、お前さんの分まで支払って行ったぞ」
「なっなな!」
「恩義せがましいとか、思わないでくれ、あいつはそう言うことを無意識にする性格なんだよ。これ、常連だから分かること」
なんですとー!左目に傷って、いぬがみさんではありませんか。そんな申し訳ない、悩みを聞いて下さり、お仕事まで頂いて、その上、お支払いまでスマートに!もうなんと申し上げたら良いのか。
「もし、あいつに借りを返したいのなら、そうだな、会社を繁盛させるのが一番だな」
店主さん、ごもっともです。
そして、私は決意しました。いぬがみさんの働いている会社で働いて、会社を繁盛させていつかこの恩を返すのです。
まるで、ツルの恩返しみたいですね。
「とりあえず今は、要る物を買わないと」
こうして、私は明け方の歓楽街から出るのでした。
ー完結ー
毎回、短いお話でしたが
飛頭蛮といぬがみの出会い編を読んで頂き
ありがとうございました。
これにて『飛頭蛮といぬがみの出会い』編が終わりですが、まだまだ飛頭蛮は
出てきます