飛頭蛮、考える③
部署に戻ったら戻ったでメリー先輩やキィ後輩にめちゃくちゃ心配されました。当然ですよね、だって、私の頭には包帯がぐるぐる巻にされてあるのですから。
「飛頭蛮、大丈夫か?」
「火前坊先輩が珍しく心配した⁉︎」
「するだろ!普通は!」
現在、28部署には岸涯小僧先輩と小泣じじい部長と蒼鬼さんだけがいない状況。
「がっきーがいたら、相当慌てていただろうな」
「「そうですね」」
メリー先輩とキィ後輩が即答で頷きながら答えました。
* * *
仕事が終わり家に帰ってすぐ包帯を取ればもう傷はありません。流石、妖だよね。と言うことで、ご飯もお風呂も全部済ました私はさっそく、今週溜まっていた深夜アニメを観ることにしました。ちょうど、明日は仕事がおやすみの日だから今日はオールしても問題なし!
「はぁ、やっと◯◯さんのイケボ(イケメンボイス)が聞こえるわぁ」
大好きな声優さんのイケボが聞こえるとウキウキしながらテレビのリモコンを操作していると誰かがベランダの窓を叩く音がしました。確か、ここは3階。鳥が嘴で窓を突ついているのかな。まぁ、とにかく私はカーテンを開けてみました。
「よっ!元気」
シャッ!
はい、勢い良くカーテンを閉めます。実は今、カーテンを開けたらベランダの淵に岸涯小僧先輩がいたのです!ちょっと待って、ここはいぬがみコーポレーションの女性社員寮だよ、女性社員寮。つまり女性しか入れない清き女の花園。
「なんで、あなたがここにいるのですか!しかも、岸涯小僧先輩は出張で2〜3日、戻らないと聞いていましたが⁉︎」
怒りながらカーテンも窓も開けると、岸涯小僧先輩は何食わぬ顔で部屋に入ってきました。そして、手に持っていたビニール袋を私の目の前な差し出してきて額にぶつける。
「冷た」
ビニール袋が額から離れると岸涯小僧先輩は私の前髪を掻きあげて今はもう癒えた傷口を難しい顔で見てきました。
「傷、治りましたよ」
「でも、腫れてるぞ」
「別にこれくらい」
「アホか」
「いてっ…ひゃっ」
腫れているところにデコピンされてしまったのと同時に額に冷たい物が当たる。その冷たい感覚に思わず肩が跳ねてしまい変な声が出てしまった。
「冷えピタ?」
「腫れてるなら冷やせ、それじゃ」
それだけ言うと岸涯小僧先輩は入ってきたベランダへと足早に動きます。そんな岸涯小僧先輩に私は。
「待って下さい」
「ん?」
スーツの袖を掴んで見上げる。そして…
「ありがとうございました」
お礼を言うのは当然ですよね。あと、お昼からずっと考えていた事が今になってようやく、やっとまとまってきた。
「それと、私、岸涯小僧先輩の事がそこまで嫌いじゃありません」
「そこまでって少しはあるのかよ」
「だって、私の頭をサッカーボールのように遊ぶんですよ!ってそうじゃなくて」
呼吸を整えてしっかりと岸涯小僧先輩を見つめます。よく見ると岸涯小僧先輩の瞳の色は海の綺麗な青色。その瞳に私が大きくはっきり写っている。だから、今、岸涯小僧先輩は私のことをちゃんと見てくれているんだ。
「嫌いじゃないから…だから、今度の日曜日、どこかお出かけしましょう!」
ピシッとな。岸涯小僧先輩が固まった。あれま、私、おかしな事を言ったかな?うん、そうだよね、いつも岸涯小僧先輩から誘ってもらうのに、私からだもんね。
「イエスかノーかどっちですか?せっかく私がデートに誘っているのに答えないなら取り消しにしますよ!」
オタクとイケメンの恋なんてアニメの中で、しかも2次元の話だと思っていた。でも実際は違う、岸涯小僧先輩は私の中身を見て判断してくれたんだ。アニメ、声優好きのこの私のどこかを見て、自分ではよく分からないけれどね。
「5、4、3、いてててて」
「バーカ、そう言うのは俺から言うもんだろ?何、勝手にオレのセリフを横取りしてんだよ」
鼻をぎゅっと摘ままれ、すぐに離された。それから、いつもの意地悪そうな笑みで私の頭を軽く跳ねるように撫でると。
「いいか、次の日曜は何が何でも空けとけよ」
最後の捨て台詞を吐いてベランダから颯爽と降りて、闇夜へと、どこかへ行ってしまいました。
「少しずつでいいよね」
窓ガラスに映る私の顔はほのかに朱色に染まっていました。
ごめんなさい、遅くなりました
本編が終わりましたので
こちらもラストへと向かわさせて頂きます。