28部署の男性陣
203号室の人外さん
70・体育祭①を読まないと難しいお話だと思います
飛頭蛮とメリーさんとキィが、萌香の体育祭に行った日の朝のこと。
「今日は28部署の女性陣はいないから、いつもより仕事量が増えるぞ」
朝礼で言ったのは、28部署のリーダーであり、いぬがみコーポレーション創立からこの会社で働く、古株の小泣じじいだった。
「 あいつも休みか」
「岸涯小僧、飛頭蛮がいないからって朝からそのダラけた態度はどうかと思うぞ」
「小豆洗い先輩はメリーさんにフられれば良いんですよ」
「この前、告白した」
「はっ⁉︎マジでっ⁉︎」
「お前ら、ワシの話を聞け」
各デスクに座って、わいわいと騒ぐ岸涯小僧と小豆洗いに叱咤するも、その声は2人の声によって遮られた。
「で、答えは」
「結婚を前提に付き合うことになった」
「ひゅ〜ぅ」
口笛を吹いたのは岸涯小僧ではなく、炎のように真っ赤な髪色のと薄茶色の瞳を持つ、見た目は軟派そうな長身男。その名は、火前坊。彼もまた28部署の一員なのである。
「あずっきー、やったね。結婚おめでとう」
「火前先輩、オレ、オレ…」
「ずーと、メリーちゃんをストーカーみたいに見つめていたあずっきーが、ようやくストーカーから脱出できて、先輩は嬉しいよ。俺、前からあずっきーがストーカーから脱出できないかと思ってたもん」
「ストーカー、ストーカー煩いですよ!」
実は火前坊は小豆洗いの先輩にあたる人物ならぬ、妖物。現在、彼らは各自の席についてリーダーである小泣じじいの話を聞くはずなのだが、今はメリーさんとの結婚についての話に花が咲き、それどころではない。
「ストーカー先輩」
「おいコラ、岸涯小僧。改名するなよ」
デスクは7つある。この前、席替えをして、席の順番が変わった。
小泣じじい→火前坊→小豆洗い→飛頭蛮、それぞれの左隣の席に座り、その反対側は火前坊の前に最近新しく28部署に入ったキィが座り、小豆洗いの目の前の席にメリーさん、飛頭蛮の目の前の席に岸涯小僧という感じ。
「まぁ、最近の仕事量は少ないし、女性陣が、いなくても平気でしょ」
歳的には上から、小泣じじい、火前坊、小豆洗い、岸涯小僧。でも、火前坊は見た目は岸涯小僧よりも若く見える。ちなみに現在は986歳だそうだ。
「はぁ」
「がっきー!ため息つくと幸せ逃げるよ」
「ため息なんかついてないですよ」
「もー強がっちゃってー。俺には分かるよー。だって、がっきーが飛頭蛮の事が好きなのは一目瞭然だし、飛頭蛮から嫌われてることも知ってるし」
嫌われてるという単語に体がピクリと動いた岸涯小僧は、妖力で手のひらに水の玉を作り、その玉を火前坊に投げつけようとしたが。
「お前ら、良い加減にしろよ」
冷たい妖気で部屋を真冬のように寒くした。流石、いぬがみコーポレーションの古株、小泣じじい、怒ると怖い。
「こなっきー、ごめんねー!」
「お前は妖怪をおちょくるな」
「りょーかい」
ヘラヘラとした表情で、小泣じじいの注意を受ける。そして、残り数時間でこのほのぼのとした部屋は一変するのであった。