私が帰す話 パート⑤
思ったよりも「私が帰す話」が長引きました…(゜.゜)
何があったんだろう、私…
早くヴェルトのところにキリヤを返してあげないと、発狂しちゃうかもしれないですね…
私は咄嗟にギルの下に入り支えた。
心臓の音はする。
だが…ゆっくりと、ギルの呼吸が減少していく。
「…どういうこと、ローランドさん」
「…何故平気なんだ…!?」
私が平気な様子を見せたため、ローランドは驚いた。
ギルが急に倒れたのは魔力切れを起こしたからだ。
私たちがローランドの後に続いて足を踏み入れた場所にはどうやら“魔力封じ”が施してある場所だったようだ。
私たちはローランドを信頼していたため、こうして簡単に罠に掛かってしまったのだ。
魔力封じはギルのような魔力だけで生きている者にとっては最も恐れるものである。
私が組織に居たときも話に出てきた魔力封じだが、一体どういうものなのかというと、少し説明が長くなる。
この世界の人間や魔物には体内に魔力を作る器官がある。
空中に漂う魔力や食べ物などに含まれる魔力を集め、その器官で自分の魔力に状態を変質させるのだ。
魔物はその魔力で身体のあらゆる器官を動かす。
人間も同じく魔力で器官を動かしているが、魔力に頼りきりな魔物とは違い、魔力封じを受けても衰弱するが死にはしない。
このままだと、ギルは死んでしまう。
私は指を噛んで血を出し、ギルの額に陣を描く。
そしてそこから魔力をギルに送り始めた。
「ローランドさん、このままだとギルが死にます。…本当に死なせるつもりですか?」
「…殺すつもりはない。お前たちにはこれをつけるつもりだった」
ローランドが森の中から探り出したのは、服従の首輪だった。
「…なるほど。分かりました。それなら早くつけてください。私はギルを死なせるわけにはいきませんから」
「…お前はいいのか?」
「構いません」
ローランドは私に急かされ、ギルと私に服従の首輪をはめた。
今回は首にされた。
わぁ。前回足首だったからなぁ。何か新鮮!
首輪をつけた私たちは急いで魔力封じの施されている場所から抜け出した。
しばらくしてギルが意識を取り戻した。
「…っ……何、だ?」
「…はぁ、よかった。このまま死なれたらレィティアに申し訳立たないからなぁ」
「…何があったんだ?急に身体から力が抜けたのは覚えてるが」
「魔力封じにあったんですよ。油断し過ぎでしょう」
私が呆れたように言うとギルは不服そうに顔をしかめた。
「悪かったな、油断していて」
「全くです。あぁ、ちょっと失礼します」
私はギルの額に書いた陣を拭い取った。
首もとに違和感を感じたのか、ギルが首を擦ったので、服従の首輪が着いていることを説明。
そして、ローランドに向き直る。
ローランドは私とギルの視線を受けて少したじろいだが、座る私たちと視線を合わせるようにして座った。
「…済まなかった。まさかギルが死にそうになるとは思わなかった」
「…いや、油断していた俺が悪い。何か事情があるんだろ?」
「…あぁ。獣人は魔力に耐性がない。魔力を流されたり魔法や魔術を掛けられたりしても効くことはないが、魔法や魔術で産み出された現象は阻止することが出来ない。そのため、外界から来る者たちには魔力を封じている」
「なるほど。だが話してくれていれば俺たちは素直に首輪をつけたぞ」
「…俺が、お前たちを信頼してなかった。ギルはともかくキリヤは怪しすぎる」
「同感だ」
おい待てお前ら。ふざけてんのか。
ラーシュは私をちゃんと信頼してくれてたぞ!!
「魔族がそこまで魔力封じに弱いと思っていなかった。あれらは人間に対して作られたものだ」
「まぁ…確かに本来なら俺も魔力封じで死にそうになることはない。普段は警戒して魔法で自分の周りに結界を張っている。だが信頼していたからな。それにローランドが俺たちを害する理由も思い付かなかった」
「…済まない。害するつもりはない。だが首輪は外せない。獣人の国の掟だ」
外界の者に警戒するため、この首輪を外して入国することは出来ないようだ。
それなら仕方ないよね、と私はギルと頷き合う。
あっさり納得した私たちにローランドは驚いたが、正直私は外すことなんて自由自在なのでどうでもいいのだ。
なんてことを二人に言うと、二人が若干距離を置いてきたのでニッコリと笑ってやった。
ローランドに案内されるままに私たちは森を抜けていく。
段々人の気配が近づいてきたので獣人の国が近いことを悟った。
「何でもいいんですけど、空からの来襲とかって対策とかされてるんですか?」
「…空から襲われることはほとんどない。魔物は俺たち獣人にあまり
興味がないようだからな」
「え?じゃあ対策してないんですか!?」
「…簡単な結界だったか?それが施されている。人間の国にあった魔具とやらを使用していたはずだ」
ローランドの話だと、人間の国に行ったことのある獣人が王族からたかったらしい。
とは言えそれも五百年ほど前の話なので魔具は古いものだという。
うーん。ちょっと心配。
私があとで了承貰って弄ろうかなー。
そんな話をしていると高い塀が見えてきた。
大体三メートルほどの高さだろうか。
向かう先には門があり、これは二メートルほどの大きさだ。
門の横には二人ほど獣人が立ち、両方とも屈強な戦士だと見てとれた。
獣人は向かってくる私たちを見つけると、とても驚いて慌てて駆け寄ってきた。
「ローランド!!」
「無事だったのか!!」
駆け寄ってきた獣人は熊と獅子の獣人で、ローランドの知り合いらしい。
「ジャック、クレイ。久しぶりだな」
「久しぶりだな、じゃない!今までどこにいた!」
「それは族長に報告する。あとで詳しく話してやる。この二人は俺を助けてくれた者たちだ。ちゃんと服従の首輪もしている。入国を許可してくれるか?」
「…人間と魔族…?」
不思議な組み合わせだったからだろう。
二人の獣人は訝しげに私たちを見た。
愛想笑いをする私たちを見て余計に警戒を強めた彼らは視線を鋭くさせた。
「…信用できるのか?」
「胡散臭いかもしれないが信頼できる。特にこっちの人間はもしかしたら族長に面識があるかもしれん」
「…信じがたいがローランドが連れてきたんだ。信用しよう。だが今少しピリピリしててな」
「どうした?」
「…人間が森で罠に掛かっていた。たしか一週間ほど前だった。今は尋問中だろう」
「一人か?」
「あぁ。女だ」
私は咄嗟にローランドの腕を掴み、彼らの間に入った。
「な、なんだ?」
「その方は黒髪で眼帯をしていましたか?眼帯をしていない方の瞳は金でした?」
「あ、あぁ。近くで見たわけではないから瞳の色は知らないが黒髪で眼帯をしていたと思うが…」
私は驚く彼らを無視して走り出した。
魔力を身体に通し身体能力を格段に引き上げ、塀を越えて気配を探す。
居た…!!
探し当てた気配の方向へ走り出す。
獣人の街は中々綺麗だった。
人間の国と対して変わりはないだろう。
たくさんの獣人が驚いて私を見たがその横をすり抜け気配の方向…街で最も高い建物へ向かった。




