私が送る話 パート②
扉の横に立つ騎士らしき人たちがアリアさんが部屋から出てきたのでオロオロしている。
「フェル、事前連絡しなさいよ。それにわたしを驚かせたいなら静かに来ることね。それにしても珍しい。賢者様が正面から来るなんて」
アリアさんは黒寄りのグレーの髪、色素が薄く金色にも見える茶色の瞳を持つ、艶やかな女性だ。
私より少し身長が高く、しかも今はヒールを履いているらしく私との身長差が大きくなった。
レィティアは長身で今のアリアさんと同じくらいだ。
なんてことだ…この中で一番小さいのは私だと…!?
「今暇だな?」
「暇にしたのですわ、賢者様。せっかく今から厨房へ行こうと思っていたのに…」
悔しそうなアリアさんはヴェルトを軽く睨んで私たちを執務室へ招き入れた。
執務室を通って隣の部屋に入ると、控えていた侍女たちが私たちを見て驚く。
「人数分お茶を用意して。どうぞ、お座り下さい」
アリアさんは侍女たちに指示を出し、私たちには椅子を勧めた。
私たちは素直に座った。
一人立とうとしていたフェルドレグさんにも座るようアリアさんは命令し、自分も座る。
「キリヤ様はお久しぶりですわね。あの会議ではお話出来ませんでしたもの。フェルはあの時私の付き添いで来ていましたから一度はお会いしているはずですわ」
「…あぁ!何となく見たことあると思ったんです!なるほど…!」
「あら。残念だったわねフェル。覚えてもらえてなかったわね」
「仕方がありません。陛下の印象が強すぎたのでしょう」
「…馬鹿にしてるでしょう?」
「いえ全く」
睨まれているフェルドレグさんはどこ吹く風だ。
「それで、そちらのお連れ様は何方?」
アリアさんは、レィティアを見た。
その眼はレィティアを咎めているようだ。
レィティアはそれを見て少し笑った。
それから徐に眼帯を取っ払った。
アリアさんとフェルドレグさんの顔が驚愕に染まる。
「フェルドレグ殿には改めて自己紹介しよう。レィティア=ヴェン=セェルリーザだ。お前たちで言う始原の魔女。よろしく、我が子孫殿」
ガタン、と音がしてアリアさんが椅子から転げ落ちた。
フェルドレグさんは立ち上がりかけている。
「まさか…ご本人でいらっしゃったとは…!」
「ふふ。フェルドレグ殿は私の時代の宰相とそっくりだ。相変わらずマーレー家は宰相を務める家系らしい」
「ええ、ええ。我が家はクロウゼル王の時代から宰相を務めさせて頂いております」
「長きに渡り王家への忠誠を感謝する。まぁ私からの感謝などそう価値あるものではないが」
「いいえ!レィティア様からのお言葉を頂けるなど!」
フェルドレグさんのテンションも急上昇した。
ヴェルトを見ると予想外だったらしく少し引いている。
「れ、レィティア様!不躾な視線をお許し下さい!」
今度はアリアさんが声をあげた。
いつの間にか起き上がりレィティアの直ぐそばにひれ伏している。
「気にしていない。それより顔をよく見せてくれ。…あぁ、妹にそっくりだ」
「わ、わたしがですか?妹君のミネルヴァ様に?」
「ああ。雰囲気は兄上にそっくりだがな」
「有り難き幸せです!」
よく見れば、アリアさんとレィティアの目はそっくりだった。
確かに子孫なんだろう。
「立ってくれ。折角会えたんだ。座って話をしたい」
「はい、はい!!」
テンションがあがりまくっているアリアさんは、レィティアの伸ばした手を取り、やはり興奮した様子で目をキラキラと輝かせていた。
「…だが、私をそんなに簡単に本物だと信じてもいいのか?偽物という可能性だって…」
「賢者様とキリヤ様がお連れしたんですもの。…あら、そういえば賢者様はレィティア様の再来と呼ばれているんでしたわね…でも、賢者様は天啓まで受けられるような方ですから。それにレィティア様から魔力は感じられませんし、現時点では賢者様のほうがお強いのでは?」
「…ああ」
「それにわたしたちを騙す必要性を感じませんもの。…賢者様に勝てるのはキリヤ様くらいでしょうね」
「…確かに」
アリアさんが最後にボソッとつぶやいた。
私とヴェルトの異様さを知っているレィティアは遠い目をした。
それから、私とヴェルトの存在は忘れ去られ三人の話にキリがつくまで出されたお菓子を食べていた。
私は一人歩いていた。
ヴェルトはアリアさんと話していて、レィティアはフェルドレグさんとお兄さんの墓参りに行ってしまった。
ついていっても良かったのだが、レィティアのお兄さんとの再会を邪魔するつもりはなかった。
特にすることの無い私は一人、お城を散策することにしたのである。
不審者な私だが後ろにはアリアさんの騎士がいるので何も言われない。
アリアさんの騎士も私の行動に制限はしてこない。話しかけても必要最低限しか口きいてくれないけど。
「…ん?」
ふわー、と匂いがして私は歩を進めた。
これは、嗅いだことのある匂いだ。
私はその匂いのするほうへ迷わず進んだ。
騎士は止めなかったので、私はそのまま突き進む。
しばらく行くと下働きの人たちが増え、視線も好奇心なものが増える。
「…キリヤ様、そちらは…」
「え、ダメですか?」
「いえ。陛下は制限はされませんでしたが、そちらは下働きの者達が多くなります。彼らのためにもキリヤ様が行かれるのは…」
「…んー、でもなぁ…気になるし。行きましょう。どうしてもダメなら引き返します」
「…お供します」
騎士は渋々とだがついてきた。
私は頭を下げる下働きの人たちに挨拶をして、匂いのする方へ向かっていく。
着いた先は、調理場だった。
中は戦場のようで、外にも声が聞こえている。
「わぁ…大変そう」
「今は丁度陛下の晩餐の支度の時間ですから。それにアルテルリアから気に入った料理人を陛下が連れてきていますので、大変なのでしょう」
「へぇ。まぁ他国からの人に指示されても従いたくないもんだし」
「それもありますが、彼はとても若いので古参の料理人たちはあまりいい気がしないのでしょう」
「…ん?でも何か…」
「どうされましたか?」
「…入ってもいいですか?」
「…えぇ、まぁ」
騎士は嫌そうだったが、私は気にせずに調理場の前に立った。
中からは悲鳴や怒声が響いている。
それはかつての孤児院の調理場を思い起こさせた。
孤児院では調理は私とソラしか出来なかったし、子供は調理の準備とかそういう事情なんて考慮してくれない。
調理場に勝手に入ってきてまだ焼いてもいない肉を食べようとしたり、調理中に手を出してきたり。
彼らは飢えていたのだ。
だからこそ私は彼らを調理場から追い出し叱り飛ばした。
「危ない真似はするな、死にたいのか」と。
彼らは食料にも飢えていたが、愛にも飢えていた。
…なぜこんなことを思い出すのかと言えば、この中から知った声が聞こえてくるからで。
「だからつまみ食いすんなっつってんだろーがぁ!!」
「今のは味見です!」
「うるせぇ!さっさとこっち手伝え!」
「ぎゃあー!!焦げる!」
私は苦笑して調理場の扉を開けた。
「誰だ!んな忙しい時に!」
「ちょっと味見に」




