私が聴く話、来るは妖精の王 パート②
会議が終わると直ぐに、私はヴェルトに腕を捕まれ別の部屋に連れ込まれた。
「…どういうことだ」
お怒りのヴェルト君は私が逃げないようにとご丁寧に扉に鍵をかけ、結界を何重にも張ってくれた。
「男の嫉妬は醜いよ?」
「分かってんじゃねぇか。で?その精霊使いと剣使いとやらとの関係は?」
「関係って言っても…ディグザムの部下の人達で私が名前を覚えてた人達かな?」
「…俺を騙してあの山に行った時の話だよな?」
「それと、村を襲われた時の話ね」
軽口を叩いたら簡単に受け流された。
逃げないと分かったらしいヴェルトは近くの椅子に座り、私も近くの椅子に座った。
「偶然にしては出来過ぎてるからね…でも、多分ランドさんもバーンさんも生きてないと思うけど」
「何故だ?」
「消えた三人の中で肉体的に強かったのはバーンさんで、魔術の才がずば抜けていたのはランドさんだけど、総合的に見て一番強かったのは、頭のディグザムだったから」
「…で?」
「ディグザムの体は見たよね。継ぎ接ぎの体だった。あれに耐えれたとは思えない。ディグザムですら無理だったんだろうね、殺されたがってたから」
「…成る程な。つうか、アイツは一体何なんだ?元は人間だったんだよなぁ?」
「うん。あれは合成体…キメラって呼ばれるモノだよ。それぞれに秀でた部位をつなぎ合わせて造られた人工物。造ったのが人かどうかは知らないけど」
「キメラか…」
あれは何者かによる実験の試作品だったに違いない。
ディグザムは戦いの際何も言わなかったが、多分そうなんだろう。
「正直、今回は他種族との連携が不可欠だと思う。四肢は獣人だったけど、胴体は色んな種族の物が使われていたから」
「趣味悪ぃことしてくれるな」
「本当にね」
お互いに溜め息を吐いた。
あぁ、本当に、面倒臭いことをしてくれる。
「…なぁ、キリヤ」
「んー?」
「俺に対する気持ちは他の奴と一線を画してるんだよな?」
「ぶっ…」
欠伸をしかけていた私から一気に眠気が吹き飛んだ。
な、な…
今それを聞くか!?
「ていうか、聞いてたの!?」
「風呂入ってたらトーマが来てな。アイツがエレナとキリヤの話を聞きますか?って言って見事魔術を披露してくれた」
「アイツ…!」
その盗聴の魔術を考え、創ったのは私である。
上手く使えそうなのはトーマだと思って教えた私がバカだった…!
「俺が特別なら、そのディグザムって奴はどうなんだ?」
「!」
だからお怒りだったのか、この男は。
ディグザムが最期に私に遺した言葉をヴェルトは読唇術か何かで読み取ったんだろうか。
「…何なんだろうね。ディグザムにとって私は特別だったみたいだけど」
ディグザムは「愛してる」と言って死んだ。
「私にとってディグザムは復讐する相手で特別じゃない。だけど、最期の言葉はちょっとぐっときたな。まさか、あんなに満たされた笑顔されるとはね…」
あんなに満たされた笑顔を見るのは初めてだ。
私は立ち上がって、顔を歪めているヴェルトの前に立った。
ヴェルトに腕を引かれ、抱き締められる。
「私がディグザムに対する感情を名付けるなら、同情か奇妙な親愛だと思う。ヴェルトに対する感情の名前はまだ分からないけど…ごめん。もう少しだけ待っててくれる?」
「…仕方ねぇな。お子様には難しい問題だもんな」
「うるせー。誰がお子様だ」
軽い口調とは裏腹に、ヴェルトの腕の力は強まった。
だから、私も抱きしめ返した。
…本当は、とっくに答えを出てしまったんだけど。
部屋を出て、学園長室に行くとそこには学園長とレオナルド国王がいた。
「遅かったですね」
「大事なお話してたからな。なぁ、キリヤ」
「そーだね。陛下にも言っておこうと思って」
「何だ?祝言の話か?」
「違います吹っ飛ばしますよ?」
「すまない調子に乗った」
私たちのじゃれ合いを学園長が苦笑いで見ている。
「襲撃者は様々な種族の部位を縫い合わせて造られていた。多分何者かによる実験の試作品だったと俺らは考えている。だから今回の件は他種族との連携が不可欠だな」
「…そうですか」
ヴェルトの話を聞いて複雑そうに考えこんだレオナルド国王は盛大に溜め息を吐いた。
うん、私たちも溜め息吐いたから、気持ちがよく分かる。
「あの他種族嫌い集団との連携か…」
「ま、この時代に生まれたことを恨むんだな」
龍族、ドラゴン族…etc. は、皆他種族と関わりを持つことを嫌っている。
人間ですら国同士仲良くやっていけないくらいなので、レオナルド国王からしたら頭を抱えたくなるんだろう。
ヴェルトは力になるつもりは皆無なのね。
「…それで、闇ギルドのことだが…キリヤさんが拘束したんだったな?」
「あー、はい」
「…軍の狼煙を何故知っていたんだ…?」
「…企業秘密で」
「企業秘密とは…」
「誰にも言ってはいけないという意味です」
「何となく分かるが。いや、別に罰するわけではないんだが」
「…企業秘密で」
黙秘権を発動した私に口を割らせることは出来ないだろう、うん。
「…まぁ、ここは目を瞑ろう。今回は協力感謝する。また何かあったら助けて頂きたい」
「あぁ」
「頑張ってね、賢者様!」
「おい」
私はヴェルトに満面の笑みを浮かべておいた。
さーて、帰ってゆっくり休もう!
「…キリヤさん」
「…エレナさん」
私たちはお互いの名前を呼び合って仲良く調理場に向かった。
あれから孤児院に帰ると、最近構ってなかった子供たちによる構って攻撃が開始され、私はひたすら子供たちと遊んだ。
ヴェルトも巻き込んで遊びに遊んだ。
うん、疲れた。
で、夕方になりぐったりしているとエレナさんが血相を変えて私とヴェルトを呼びに来た。
何事かと聞くと、
「…よ、妖精様がいらっしゃいました…」
と言うので、門前に行けば今朝の会議にも出席していたエルフ族の王…サフラが立っていた。
大物が来たなぁ…ということで、おもてなしの料理を作るため、私とエレナさんは溜め息を吐いて調理場に向かったわけである。
エルフ族の王…サフラはこれぞエルフ!という見た目をしている。
彼は金髪に新緑の目、耳は尖り、顔立ちは整い過ぎている。
エレナさんが妖精様と言ったのもよく分かる。
私はある程度の料理を持って応接室に向かった。
今回はトーマとエレナさんに子供たちを任せてある。
「失礼します」
「あ、お構いなく!」
「遅かったな。キリヤも座れ」
料理を置いて私はヴェルトの横に座った。
「改めまして!オレはエルフ族の王のサフラ!よろしくねー」
「キリヤです」
テンションの高い彼が手を出してきたので握ると、勢いよい上下に振られた。
…つーかテンション高いな!!




